2型糖尿病のある人の歯間清掃習慣や歯数が良好な24時間の血糖変動と関連

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医療法人 南昌江内科クリニック/一般社団法人 南糖尿病臨床研究センターとサンスター株式会社は、共同研究により、クリニック通院中の2型糖尿病のある患者を対象に、口腔衛生指標と連続した24時間の血糖変動などの血糖管理指標を調査し、関係性を分析しました。その結果、歯間清掃習慣や歯数の維持が、HbA1cや空腹時血糖値といった検査値だけでなく、24時間の血糖変動の質の良さを示すTime in Rangeとも関係することを明らかにし、研究成果を「Time in Rangeが示した医科歯科連携と口腔衛生習慣の重要性」という演題で、第66回日本糖尿病学会年次学術集会(2023年5月11日(木)~5月13日(土)、於:鹿児島)にて発表しました。
この結果から、2型糖尿病のある人において、歯間清掃など口腔衛生習慣や歯科通院による口腔状態の保全は、適切な血糖変動管理の観点からも重要であることが示されました。

<研究概要>

◆研究の背景・目的

糖尿病と歯周病は密接に関係し、2型糖尿病患者に歯周病治療を行うと血糖コントロールが改善されることが明らかになっています。また、糖尿病患者の口腔衛生習慣と血糖コントロールの関係は、これまでにあまり報告がありませんでしたが、本共同研究では、先行して2型糖尿病患者の歯間清掃習慣と性別・年齢調整後のHbA1c、空腹時血糖値の関係性を明らかにしています(図1)。

図 1 歯間清掃習慣と HbA1c 、空腹時血糖値(性年齢調整)図 1 歯間清掃習慣と HbA1c 、空腹時血糖値(性年齢調整)

 近年、腕などにセンサーを貼りつけ、昼夜を問わず血糖の変動を連続して記録する装置;持続血糖測定器(CGM)が認可され、糖尿病治療において使用されるようになりました。CGMを使うことでHbA1cや自己血糖測定では分からなかった高血糖や低血糖、血糖の変動幅などが分かります。Time in Range はCGMで測定した血糖が目標域(70-180mg/dL)に入った時間の割合を計算した値で、合併症の発症・進展や死亡率と関連するという報告が増えていることから、血糖変動の“質”を示す指標として注目が集まっています。

そこで今回の研究では、2型糖尿病患者の口腔衛生習慣 と Time in Range等の血糖管理指標の関係、また作用機序として炎症の関与を検討することを目的としました。

◆対象者と方法

対象者:15本以上の天然歯を有するクリニックに通院中の2型糖尿病患者104人

デザイン:横断的研究

アンケート調査:歯数、1日の歯みがき回数、デンタルフロスや歯間ブラシなどの使用による歯間清掃頻度、歯科通院頻度

血液・尿検査: HbA1c、空腹時血糖値、インスリン、高感度CRP、IL-6、TNF-α、MCP-1、尿中アルブミン/クレアチニン比など

CGMの血糖変動指標:平均、Time in Rangeなど

◆研究結果

1.パラメータ間の単相関 (Spearman’s ρ )

歯の本数は年齢と負の相関、歯科通院頻度は年齢と正の、BMI、HbA1c、空腹時血糖値と負の相関が示されました。歯みがき回数は、男性、BMI、尿中アルブミン/クレアチニン比、高感度CRP、TNF-α と負の相関を示しました。歯間清掃の頻度は、Time in Rangeとは正の、男性、BMI、高感度CRP、IL-6、TNF-α と負の相関を示しました。 

※負の相関は一方の値が大きくなるほど他方が小さい、正の相関は一方の値が大きいほど他方の値も大きくなる関係性です。

2. 血糖コントロール、変動指標の口腔衛生条件による群間比較

週3回以上の歯間清掃習慣がある群/ない群に分け、平均血糖を24時間経時的にプロットし比較したところ、大きく差がみられました(図2-①)。同様の結果が、歯数20本以上を有する群/有さない群の比較においても得られました(図2-②)

CGM血糖変動指標の群間比較では、週3回以上の歯間清掃習慣がある群では、ない群に比べ、有意に平均グルコース値が低く、Time in Rangeが高値でした。同様に、歯数20本以上を有する群は、有さない群より平均グルコース値が低く、Time in Rangeが高値でした。

図 2 口腔衛生条件による24時間の血糖変化の群間比較 平均± 95% 信頼区間図 2 口腔衛生条件による24時間の血糖変化の群間比較 平均± 95% 信頼区間

3. Time in Rangeと歯間清掃習慣について他要因を考慮に入れた解析(ロジスティック回帰モデル)

Time in Rangeの目標値である70%の達成/未達成を目的変数に、性別・年齢・BMIで補正をすると、歯間清掃習慣(週3回以上)が有意な説明変数となりました。炎症関連指標を調整因子に加えたモデルでも同様の結果を示し、炎症以外の因子を介する機序があることが示唆されました。

<今後の展望> 

「健康日本21(第二次)」(厚生労働省)において「血糖コントロール指標におけるコントロール不良者の割合の減少」や「60歳で24歯以上の自分の歯を有する者の割合の増加」が目標項目に掲げられています。

今回の研究では、糖尿病をもつ方の血糖変動と歯数に関係があることが示されました。歯数はお口の健康を保つための歯間清掃習慣や食事内容と密接につながっています。本研究の結果だけでは因果関係についてはわかりませんが、定期的な歯科通院とともに歯間清掃をオーラルケアに取り入れることで、歯の喪失を防ぐだけでなく、全身の健康の維持増進につながることが期待されます。

●医療法人 南昌江内科クリニックについて

1998年に「患者さんが安心して気持ち良く、治療が長続きできるクリニック」として設立しました。糖尿病と共に生きる患者さんの人生を考え、元気を発信することをモットーとしています。また、日々絶え間なく進歩していく医療技術を、技術の特質をしっかりと噛み砕いて、患者さん個々の体質と人生観にあった最適な医療を提供するように心がけています。

HP: https://www.minami-cl.jp/

●一般社団法人 南糖尿病臨床研究センターについて

クリニック発の新しい知見から新しい治療法を生み出すことを目指して、2019年に設立されました。患者さん、医療スタッフ、大学・企業との連携により、医療情報の整理・解析からリアルワールド由来の新しい知見の発信を行い、患者さんごとに最適化した医療の提供へのフィードバックを目指しています。

HP: https://www.minami-cl.jp/crcd/

●サンスターグループにおける「糖尿病と口腔保健」研究について

サンスターは、「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」の社是のもと、オーラルケア製品、化粧品、健康食品などの事業を行っています。また、糖尿病と歯周病の関係性にいち早く着目し、国内外の大学、医療機関と連携して研究、新製品の開発および啓発活動に取り組んできました。今後もお口の健康を起点としながら全身の健康に寄与する情報・サービス・製品をお届けすることで、人々の健康寿命の延伸に寄与することを目指していきます。

HP: https://jp.sunstar.com/

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