ミャンマーのコーヒーを世界へ!クーデター下の産地を取材。

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ミャンマーの少数民族ダヌー族の出身で、3代続くコーヒー農家に生まれたSu Su Aungさんが「自分たちの土地で栽培し、地元の労働力で生産したコーヒーがもたらす利益を地元に還元したい」という想いから、2016年、地元の農家の女性50人で立ち上げたコーヒー生産者グループ「Amayar Women’s Coffee Group」。ビーンズ・コネクティッド株式会社が展開するコーヒー焙煎ビジネスプラットフォーム「RoCoBeL」では彼女たちが生産するコーヒー豆をフェアトレードで毎年3トン仕入れて、国内で焙煎しています。今回は「ミャンマーコーヒーの里帰り」を実現すべく、その焙煎豆とドリップバッグに加工した商品を持って、ミャンマーのユワンガンの町にある「Amayar Women’s Coffee Group」を訪問しました。ミャンマーではいまクーデターが起こっていて、少しビクビク緊張しながらの訪問ではありましたが、何事もなく、逆に素晴らしい大自然と青い空、澄んだ空気、そして人々の笑顔に癒される旅でした。また、地元のコーヒー農家の人や仲買人、若いコーヒー・プロデューサーの人たちとも交流してきました。

◉近年、世界的に注目を集めるミャンマーのコーヒー
 国土のほぼ全部がすっぽりとコーヒーベルト(北緯25度から南緯25度の間の地域)に収まっているミャンマーはブラジルやコロンビア、インドネシアなどと同じく、気候的にコーヒーの栽培に適した熱帯・亜熱帯地域に位置しています。コーヒー栽培の歴史も古く、イギリス統治下の1855年に、イキリス人宣教師が苗木を持ち込んで、ミャンマー南部のミェイクとダウェイで栽培が始まったと言われています。その後、当時の都があったマンダレー近くにイギリス人が見つけた避暑地ピン・ウーリン(メイヨー)でも栽培が始まり、ピン・ウーリンはミャンマーを代表するコーヒーの産地として有名になりました。
 そもそもミャンマーは四方を標高2,000mの山々に囲まれ、日中の寒暖差が大きく、肥沃な土壌、十分な雨量といったコーヒー栽培に極めて適した土地です。しかし、ミャンマー国民の間にはコーヒーよりラペイエと呼ばれるミャンマー式のミルクティ(インドのチャイのような飲み物)の方が広く普及し、国内の消費量は極めて少ない状況にありました。その点では、国内での世界で2番目に生産量が多いベトナムのように自国民がコーヒーを愛し、日常的に飲む習慣は芽生えませんでした。そのため、技術的にも進化がなく、誤解を恐れずに申し上げれば、美味しくなかった。ベトナム以上に、良質なコーヒー栽培のポテンシャルを持ちながら、それが開花することはありませんでした。また、生産量においても、1位のブラジルの300分の1、ベトナムの200分の1、インドネシアの76分の1という少なさゆえに、これまでミャンマーコーヒーを知る人は少なかったのは仕方ありません。

 

 

練乳がたっぷり入った甘いミャンマー式ミルクティのラペイエはサモサなど軽食と一緒に楽しみます。練乳がたっぷり入った甘いミャンマー式ミルクティのラペイエはサモサなど軽食と一緒に楽しみます。

 

ラペイエサインと呼ばれるミャンマー式のカフェは市民の社交の場として賑わっています。ラペイエサインと呼ばれるミャンマー式のカフェは市民の社交の場として賑わっています。

◉アメリカでは「東洋のパナマ」と称賛されるユワンガンのコーヒー

 ピン・ウーリンからも程近い南シャン州のユワンガンでも、古くから少数民族のダヌー族の農家がタバコの葉やお茶、柑橘類の栽培の傍ら、庭先の農園で細々とコーヒーを栽培してきました。もちろん、技術的には決して高くなく、コーヒーの評価も高くはありませんでした。しかし、ミャンマーを代表する穀物や果実などの一大産地として肥沃で良質な土壌に恵まれたシャン高原に位置し、標高も1000m以上、程よく雨も降るユワンガンは高級なコーヒー(アラビカ種)の栽培にはうってつけの場所であり、世界有数の良質なコーヒーの産地となる条件を満たしていました。
 その高いポテンシャルに着目したアメリカのNGOの支援を受けて、ミャンマーの民政移管後の2010年代、ユワンガンのコーヒーは目覚ましい発展を見せます。特に、2016年に開催されたSCAA( Specialty Coffee Asscociation of America)が主催しているスペシャルティコーヒーエキスポ(Specialty Coffee Expo)で高評価を受け、たちまち、ユワンガンのコーヒーは世界的に注目を集めるようになりました。そして、今やアメリカでは世界を代表するコーヒーの産地として、「東洋のパナマ(エスメラルダ農園のゲイシャ種のコーヒーは世界最高峰と評されています)」と呼ばれるようにまでなりました。
 

直射日光を遮る背の高いパパイヤ、バナナ、アボガド、マカデミアナッツなどシェードツリーとともに農家の庭先に自然農法で栽培されているコーヒーの木。ユワンガンでは約90%の農家でコーヒーが栽培されており、また女性の80%以上がコーヒー産業に従事しています。直射日光を遮る背の高いパパイヤ、バナナ、アボガド、マカデミアナッツなどシェードツリーとともに農家の庭先に自然農法で栽培されているコーヒーの木。ユワンガンでは約90%の農家でコーヒーが栽培されており、また女性の80%以上がコーヒー産業に従事しています。

◉コーヒー農家の女性50人でコーヒー生産者グループを設立
 今回訪問したAmayar Women’s Coffee Group(以下、アマヤーコーヒー)もまたアメリカのNGOから援助を受けて急成長した新進気鋭の生産者グループです。3代続くコーヒー農家に生まれ、コーヒーの栽培を手伝って育ったSu Su Aungさんは「ユワンガンのコーヒー産業を持続的に発展させ、利益を地元農家に直接、還元していく。それを通じて、女性の自立、活躍の場を増やしていきたい」という想いから2016年に、地元農家の女性たち約50人でアマヤーコーヒーを設立しました。そして、アメリカの技術援助を受けて、高品質のコーヒー豆を生産する技術を学び、18年には国際NGOのコンペティションに優勝し、資金援助を勝ち取り、独自の精錬所を開設。CQI(Coffee Quality Institute)コーヒー品質ガイダンスに基づいてスペシャルティコーヒーを生産、品質向上に努力してきました。その結果、国際的な評価機関SCAA(Specialty Coffee Association of America)のカッピングスコアでスペシャリティコーヒーと認定される80点以上のスコアを獲得。現在もアメリカはもちろん、世界的に高い評価を受けています。
 アマヤーコーヒーはアメリカやドイツ、フランスを始め、世界中からバイヤーが訪れ、コーヒーを購入しています。ビーンズ・コネクティッド(ロコベル )も広島在住のSu Su Aungさんの親戚の方を通じて、毎年3トンの豆をフェアトレードで購入してきました。そして、今回、初めてユワンガンを訪問。Su Su Aungさんにお会いしてきました。

 

 

 

アマヤーコーヒーのトップブランドのコーヒー豆。RoCoBeLでは左端のFully Washedを購入しています。アマヤーコーヒーのトップブランドのコーヒー豆。RoCoBeLでは左端のFully Washedを購入しています。

◉いざ!ユワンガンへ
 最大都市ヤンゴンからユワンガンへは、空路でヘイホーまで行き、そこからはシャン州の州都タウンジーと古都マンダレーを結ぶ比較的整備された幹線道路を車で1時間30分ほど走ります。今回の訪問ではミャンマーを代表する観光地・インレー湖に3泊し、周辺のカックー遺跡やワイナリーなどを観光してからユワンガンに向かいました。

無数の仏塔が並ぶカックー遺跡無数の仏塔が並ぶカックー遺跡

カローの近くの峠に止まっていたコーヒーカーとユワンガンに続く街道の街路樹カローの近くの峠に止まっていたコーヒーカーとユワンガンに続く街道の街路樹

ユワンガンは132の村で構成される人口82,500人ほどの行政区(町)です。住民のほとんどは少数民族のダヌー族。標高は1,300mくらいあるので昼間は直射日光で暑く感じますが、朝夕は少し肌寒く、日本の小春日和のような気候でした。現在、計画停電が続き、1日のうちに数時間しか電気がきません。夜になると町中が闇に包まれて、星が綺麗に見えました。夜は早く寝て、日の出と共に起床して活動する。2泊の滞在でしたが、シンプルで原始的な生活を体験できました。現在、ユワンガンでは外国人の宿泊は許可されていませんが、今回は特別に許可を取って、町に3つあるホテルの一つに宿泊させていただきました。

街中ではたくさんの牛に出会いました。街中ではたくさんの牛に出会いました。

 

 

ユワンガンの人々。朝はちょっと肌寒いです。ユワンガンの人々。朝はちょっと肌寒いです。

◉女性に働く機会と成長の場を提供する
 アマヤーコーヒーに到着するとSu Su Aungさんが笑顔で出迎えてくれました。今年は例年より、収穫の時期が早く、コーヒーの精製や天日干しの最盛期は昨年末で終わっていましたが、それでもギリギリのタイミングでコーヒー作りの現場を視察することができました。
 

Su Su AungさんとアマヤーコーヒのオフィスにてSu Su Aungさんとアマヤーコーヒのオフィスにて

コーヒーチェリーの荷受所にはその日の朝に収穫されたコーヒーチェリーが少量ながら届いていました。コーヒーチェリーの荷受所にはその日の朝に収穫されたコーヒーチェリーが少量ながら届いていました。

チェリーを完熟度合の順に仕分けするとこうなります。左端は熟しすぎ、右端は未熟で共にNGです。左から2番目のグループがスペシャリティコーヒーの候補となるチェリーです。チェリーを完熟度合の順に仕分けするとこうなります。左端は熟しすぎ、右端は未熟で共にNGです。左から2番目のグループがスペシャリティコーヒーの候補となるチェリーです。

アマヤーコーヒーの年間の生産量は約50トン。最盛期にはファクトリーのアフリカンベッド(天日干のためにチェリーを並べる台)が満杯になるそうですが、この日は残念ながらガラガラでした。それでも、少し残ったエリアでは、天日干しの地道な作業を見学することができました。いいコーヒーを作るためにはこの工程が重要なのはいうまでもありません。乾燥がムラにならないように数時間ごとにかき混ぜ、夕方にはシートに包んで、朝になったら再び広げる。この途方もない作業を毎日繰り返します。アフリカンベッドが満杯の時はさぞや大変な作業だと予想されます。

アフリカンベッドでの天日干しの様子。手前がナチュラル製法、奥はハニー製法の豆。Fully Washed製法は終了してました。アフリカンベッドでの天日干しの様子。手前がナチュラル製法、奥はハニー製法の豆。Fully Washed製法は終了してました。

チェリーを広げているところ。チェリーを広げているところ。

チェリーは製法や日付を記入して、個別に管理されます。チェリーは製法や日付を記入して、個別に管理されます。

ファクトリー内のガラガラのアフリカンベッド。最盛期にはこれが満杯になります。さらに、反対側にもあり。ファクトリー内のガラガラのアフリカンベッド。最盛期にはこれが満杯になります。さらに、反対側にもあり。

天日干しが終わったチェリーは倉庫で寝かせて熟成させ、そしてそのまま出荷まで保管されます。天日干しが終わったチェリーは倉庫で寝かせて熟成させ、そしてそのまま出荷まで保管されます。

 

 今回の訪問で一番印象に残ったのは、出荷前のグリーンビーンを大きさや形状で分別するハンドピッキングを行う作業場「Hand-Sorting Station」でした。ここでは若い女性たちがおしゃべりを楽しみながら、黙々とピッキング作業をしていました。この工程はスペシャリティーコーヒーを作る上で、とても重要です。そして、「アマヤーコーヒーのグリーンビーン(生豆)は粒の大きさが揃っていて、色もきれいだし、とにかく欠陥豆が全くない」と世界中から高く評価されています。この品質を生み出しているのが彼女たちです。1人が1日で分別する量は約20kgだとか。これって、やったことがない人にはわからないと思いますが物凄く高い生産性です。そして彼女たちの日給は6000ks(チャット)。円に換算すると約270円くらいです。それでも、ミャンマーの物価を考えれば、これは貴重な生活費となります。
 Su Su Aungさんの隣の女性はMaw Maw Lwinさん。彼女は16歳でアマヤーコーヒーに入社し、今年で7年目。現在はステーションのリーダーです。農家の女性たちに働く機会を提供するだけでなく、人材を育成していくことがSu Su Aungさんの方針。きっと、彼女はいつの日かSu Su Aungさんたちと同じコーヒープロデューサーになっていくと思います。
 

Hand-Sorting Stationの全景Hand-Sorting Stationの全景

ステーションのリーダーのMaw Maw LwinさんステーションのリーダーのMaw Maw Lwinさん

(後半に続く・後日公開)

◉お問合せ
ビーンズ・コネクティッド株式会社
info@rocobel.com

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