はじめに
サイバーセキュリティ&サイバーセーフティは現代の安全保障において重要です。デジタル化の進展により、外交活動や経済活動もネットワーク上でおこなわれるようになり、サイバー攻撃のリスクは増大しています。この領域は国家の機密情報やインフラの保護、経済活動や国民のプライバシーを守る役割をはたしています。たとえば、政府のシステムに侵入し機密情報を盗むサイバースパイ行為は、国家の安全保障に直結する重大な脅威となります。2015年1月9日に施行されたサイバーセキュリティ基本法により、内閣官房長官を本部長とする「サイバーセキュリティ戦略本部」が設置され、日本政府のサイバーセキュリティ&サイバーセーフティに対する姿勢があきらかになりました。
本稿では、アスタミューゼが構築しているデータベースから関連する技術情報を深掘りし、サイバーセキュリティ&サイバーセーフティの動向についくわしくて見ていきます。
サイバーセキュリティ&サイバーセーフティとは
デジタル環境における安全確保を目的とした概念です。サイバーセキュリティは、情報システムやデータを不正アクセスやサイバー攻撃から守るための技術や対策を意味します。サイバーセーフティは、デジタル環境におけるひとびとの安全を確保するための施策をさし、プライバシーや個人情報の保護、オンライン上でのトラブルや紛争の解決などがふくまれます。
サイバーセキュリティとサイバーセーフティの技術は、個人や組織がデジタル環境で安全に活動するために不可欠であり、政府だけでなく企業も積極的にとりくんでいます。
現代社会では、インターネット、スマートフォン、ウェアラブルデバイスなど、デジタルコミュニケーションに関する技術が日常生活に不可欠な領域となりました。その結果、個人や組織の安全とプライバシーを確保するために、サイバーセキュリティ&サイバーセーフティの重要性が高まっています。
インフラ事業においても、サイバーセキュリティ&サイバーセーフティは重要となっています。制御ネットワークによるインフラ設備の監視や遠隔制御を多数の事業者が実施しており、そこに対するサイバー攻撃のリスクが高まっています。実際に、2015年12月にウクライナ西部でサイバー攻撃による大規模停電が発生しました。
サイバーセキュリティ&サイバーセーフティに関する国別・企業別の特許の動向とスコア
サイバーセキュリティ&サイバーセーフティ技術の発展に貢献している国や企業にはどのようなものがあるのでしょうか?
サイバーセキュリティ&サイバーセーフティが注目されはじめたのは、2000年代以降とされています。とくに、2010年代以降は、サイバーセキュリティに関する問題が世界的に顕在化し、政府や企業などが積極的に取り組むようになりました。(注1)(注2)(注3)
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注1:サイバーセキュリティと社会情報基盤
https://lfb.mof.go.jp/fukuoka/content/000118712.pdf -
注2:社会問題から見たサイバーセキュリティに関する技術課題
https://www.nisc.go.jp/pdf/council/cs/kenkyu/dai09/09shiryou03.pdf -
注3:DX時代のトータルサイバーセキュリティ
https://jpn.nec.com/techrep/journal/g21/n02/210217.html
図1は、サイバーセキュリティ・サイバーセーフティに関わる国別の特許の出願動向です。
2001年以降で、44,000件あまりが出願されています。出願件数が2位のアメリカ、3位の日本、4位の韓国、5位のドイツの出願件数は全期間にわたり停滞の傾向にあります。しかし、1位の中国は2011年以降に急激な成長を始めました。
中国は2011年と2021年の出願件数を比較すると、約16倍の増加となっています。中国以外の出願件数の増加・減少の傾向を見るため、図2に2011年の出願件数を1とした出願件数の推移を示しました。各国の出願件数の停滞傾向があきらかです。
サイバーセキュリティとサイバーセーフティに関わる出願特許の「価値」を評価するための「スコア」を算出しました。アスタミューゼ独自の特許価値評価ロジックに基づいて、特許1件ごとの価値を示すパテントインパクトスコアを計算し、それをもとに帰属国、出願人ごとにトータルパテントアセット(帰属国、出願人の総合特許力)を算出しています。
トータルパテントアセット(総合特許力)の帰属国別ランキングを図3に、企業別ランキングを図4に示しました。2001年から2022年に出願された全世界の特許が対象です。
特許の「価値」を加味したトータルパテントアセットの帰属国別ランキングでは中国が1位、アメリカが2位となります。第3位と第4位には韓国と日本がランクインしています。また、4位の日本と5位のドイツの間には大きく差が開いています。
出願人別のランキングではアメリカのIBM Corp.が1位です。また、韓国のSamsung Electronics Co., Ltd.が2位、アメリカのMicrosoft Corp.が3位です。4位以降は上位3企業と大きく差が開いていることが分かります。
日本企業から出願された、最も高く評価された特許は以下となります。
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株式会社日立製作所:Computer resource allocating method(計算機資源割り当て方法)
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公開番号:US8071502A
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出願年:2002年
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特許概要:ネットワークが変更された場合でも、ユーザのセキュリティを確保し、データセンタの管理者やユーザの負担を軽減する方法。ユーザの安全性を保ちながら、ユーザの負荷のピークに対応してネットワーク構成を変更する。
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サイバーセキュリティ&サイバーセーフティに関する国別のグラントの総配賦額
2001年から2022年までのグラントの総支給額と採択件数を図5に示しました。採択件数ではアメリカが優位ですが、欧州連合の1件当たりの支給額がきわめて大きいことがめだちます。ただし、この領域の研究は安全保障との関係が深いので、米国のDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency)など、国防・軍事技術の研究プロジェクトでは公表されていないものが多くあると推察されます。
まとめ
サイバーセキュリティ&サイバーセーフティの分野においては、欧州連合の2001年から2022年までのグラントの総支給額がきわめて大きく、この分野の研究開発が精力的に進められているはずです。それにもかかわらず、欧州連合加盟国が帰属国別のトータルパテントアセットのランキングにランクインしないのはなぜでしょうか。
推論の1つとして、技術が秘匿されている可能性があります。サイバーセキュリティやサイバーセーフティに関する技術は、国家安全保障にも関わるため機密性が高く、特許を公開するデメリットが大きい場合があります。通常の特許とはことなり非公開のままで発明に独占的な権利をあたえる「秘密特許」のしくみが、EU各国をふくむ多くの国で導入されています。日本でも特許出願の非公開制度が検討されています(注4)。
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注4:特許出願の非公開制度の運用開始に向けた 検討状況について
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r5_dai7/siryou2.pdf
対象となる25の技術分野は、国際特許分類を基に規定され、2024年春をめどに運用が開始される見込みです。こうした安全保障にかかわる技術においては公開されている技術情報の裏に、秘匿されている情報がどれだけあるのか、はかりがたいところがあります。
著者:アスタミューゼ株式会社 ミシェンコピョートル 博士(工学)/ 源泰拓 博士(理学)
さらに詳しい分析は……
アスタミューゼは世界193ヵ国、39言語、7億件を超える世界最大級の無形資産可視化データベースを構築しています。同データベースでは、技術を中心とした無形資産や社会課題/ニーズを探索でき、それらデータを活用して136の「成長領域」とSDGsに対応した人類が解決すべき105の「社会課題」を定義。
それらを用いて、事業会社や投資家、公共機関等に対して、データ提供およびデータを活用したコンサルティング、技術調査・分析等のサービス提供を行っています。
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