【6月20日・世界難民の日】 多くを失ったウクライナ難民の心と暮らしを再建するために

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ロシアによるウクライナ侵攻から約1年4か月。今尚、約628万人のウクライナ人が他国に逃れ[1]、避難生活を送っています。ルーマニア等の隣国は、ウクライナからの難民を受け入れていますが、祖国から避難せざるを得なかった人々の心の傷は深く、慣れない土地や言葉のなか先の見えない避難生活には、計り知れない負担が伴います。
国際NGOグッドネーバーズ・ジャパンはウクライナ緊急支援の一環として、シェルター運営や心理社会支援(心のケア)を通し、ルーマニアに避難したウクライナの人々が、生きる希望を持ち生活を取り戻せるよう支援活動に取り組んでいます。
  • ひとりで避難した70歳の女性が直面した言語や社会システムの壁

認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(GNJP)は、ルーマニアの支援団体ProVeritas(プロヴェリタス)と連携し、ウクライナから避難してきた人々のためのシェルターを運営しています。

シェルター内の共有スペースシェルター内の共有スペース

入居者の一人、70歳のヴァーリャさんは、教会のつてをたどって、2022年9月にウクライナから一人で避難してきました。彼女の家はザポリージャ原発に近いニコポリという都市にあり、2023年6月のへルソンのダム決壊による川の水位低下と原発への影響を不安に思っています。

ヴァーリャさんは「ルーマニアの人たちは温かく迎えてくれたし、シェルターにはシャワーもあって洗濯もできるので安心できる」と笑顔で話す反面、大変なこととして「ルーマニア語がとても難しい」ことをあげました。

シェルターではルーマニア語クラスも提供されますが、70歳になってから新しい言語を習得するのは簡単なことではありません。言語の壁や社会システムの違いのため、誰かの助けなく一人で病院に行けないこともストレスになっているようです。

シェルターでは、食事の提供、医療へのアクセスを始めとする生活サポート、また、ストレスがたまりやすい避難生活において、少しでも平常の生活を取り戻す助けになるよう、季節行事やレクリエーション活動、英語やルーマニア語クラスなども提供しています。

シェルターで行われたペイントワークショップの様子シェルターで行われたペイントワークショップの様子

  • 表現により自己肯定感を取り戻す。子どもたちのための心理社会支援(心のケア)

ルーマニアに避難してきているウクライナの子どもたちは、戦争による爆撃、避難、家族や大切な人との別れなどの辛い経験をしており、こうした辛い記憶や気持ちをそのまま放置してしまうと、時間の経過とともにPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、長い期間にわたって苦しむことになってしまう可能性があります。子どもたちの心の傷がPTSDになることを予防したり、回復を促したりするために、研修を受けたウクライナ人ファシリテーターによるワークショップを提供しています。

ワークショップでは、写真、絵、紙粘土、音楽などを使ったさまざまなアクティビティを通して、子どもたちが記憶や感情を整理しなおし、自分自身の物語を作り、表現する機会を提供します。最終的には、子どもたちが辛い経験を経た後の自分に対する自己肯定感を取り戻すこと、社会と繋がっているという認識をすることができるようにサポートしていきますが、実際にどのような内容を表現していくかは参加する子どもたちが自分自身で選ぶことが重要であり、何を描いたり作ったりするかを強制するものではありません。

ワークショップに参加した子どもたちワークショップに参加した子どもたち

グッドネーバーズ・ジャパンの職員によるファシリテーター研修

GNJPはこの活動を展開するため、5月29日から31日までの3日間、ルーマニアのガラツィ市にて、ウクライナ人ファシリテーターの研修を行いました。日本で精神科医による研修を受けたGNJPの日本人スタッフ2名が講師となり、小学校の先生、心理士、子どもに関わるボランティアに長年携わった人など、8名のファシリテーターが参加しました。研修では、座学での講義の後、実際のワークショップをファシリテーターに体験してもらいました。

ファシリテーターへの研修の様子ファシリテーターへの研修の様子

 6月中旬からは、研修を受けたファシリテーターによる、子どもたちを対象にしたワークショップを開始しています。

普段はあどけなく見える子どもたちや、気丈に日々の生活を送っている大人たちですが、戦争や避難生活が与えている精神的なストレスを軽減するための取り組みは、今後も長期的に必要とされます。

グッドネーバーズ・ジャパンはウクライナ難民の心のケアのほか、孤児院への食事提供や給水施設の修繕事業(ミコライウ州 )など、様々な角度から中長期的な支援を実施しています。また、ウクライナだけではなく、紛争や災害の影響で危機に陥っている世界中の人々への支援も行っています。

2022年に世界の難民・国内避難民の数が初めて1億人を超えたとニュースになりましたが、彼らには一人ずつ名前があり、家族があり、感情があることを忘れてはなりません。突然平和な日常や住むところを奪われた人々が、その困難や苦しみを発信するのはとても難しいことですが、私たちは、同じ時代を生きる我々が世界の難民の生活を想像し、寄り添い思いを寄せることで、難民・国内避難民の命をつなぐことに繋がると信じています。

[1]UNHCR Operational Data Portal. 2023. https://data2.unhcr.org/en/situations/ukraine  accessed on June 19, 2023.

■認定NPO法人グッドネーバーズ・ジャパン(https://www.gnjp.org/)について

国際組織であるグッドネーバーズ・インターナショナルの一員として、2004年に日本事務局を開設。「子どもの笑顔にあふれ、誰もが人間らしく生きられる社会」を目指し、アジア・アフリカの7カ国を対象に支援活動を行っています。2013年より、公益性の高い団体である「認定NPO法人」として東京都から認可を受けています。

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