- 1. ERSシステム導入の背景 ~住民から苦情の出ない糞尿処理を目指して~
畜産農家、農業協同組合、地方自治体といった、地域の畜産に関わる関係者が共通して抱える悩みは、家畜排せつ物に起因する「悪臭」、「汚水(地下水汚染)」、「害虫」といった問題に対する地域住民からの苦情です。農林水産省によると、これら3つの問題は畜産農家に対する苦情内容の約85%を占めています(農林水産省、令和2年4月「畜産経営に起因する苦情発生状況」)。
こうした状況のもと、「地域住民から苦情の出ない家畜排せつ物の適切な処理」を行うために最適な装置を3年近く探し続けていた山口県酪農農業協同組合(以下「山口県酪」)は、JETが業務提携する長州産業株式会社(本店所在地:山口県山陽小野田市、代表者:岡本晋)よりERSシステムの提案を受けました。ERSを使えば悪臭や排水を出さずに1日で糞尿を殺菌・発酵処理できるという点に大きな魅力を感じ、その導入を決定。また、計3回実施した近隣住民向けの新規牧場事業計画説明会にて、ERSを使用した環境配慮型糞尿処理に対する住民の理解と期待感を得られたことも、導入の決定要因となりました。
- 2. 好気性発酵液肥の活用可能性 ~従来型堆肥舎の堆肥化効率向上と事業収益向上への期待~
山口県酪は畜産クラスター事業「畜産・酪農収益力強化整備等特別対策事業(施設整備事業)」を活用し、乳牛300頭から発生する糞尿約22.5トン/日を殺菌・発酵処理できるERSシステムを導入します。成果物として生成された液肥は、既存の堆肥舎である下関市営堆肥化処理施設に搬送し、「発酵促進剤」として利用します。ERSの殺菌・発酵処理では含水率の調節が可能であるため、液肥だけでなく乾燥した固形堆肥(含水率20~60%)の生成も可能です。今回のケースでは、あえて含水率を80%程度に設定して液肥(以下「ERS液肥」)を生成し、わら・おが粉と今までの堆肥とを混ぜ合わせることによって、従来よりも短期間で固形堆肥を生成する仕組みを構築します。液肥だけでなく必要に応じて固形肥料の生成も1つの装置システムで完結できることは、ユーザー様のメリットとなるERSシステムの大きな特徴です。
<ERSシステムによる糞尿処理イメージ図>
<ERS液肥を従来型の堆肥舎で使う”5大”メリット>
■ 好気性発酵であること
ERS液肥は好気性発酵で生成したものであるため畑の土にやさしい肥料となります。
嫌気性発酵肥料に比べて、好気性発酵肥料は耕作農家からのニーズが高い肥料です。
■ 汚水の発生抑制
ERS液肥に含まれる微生物がわら・おが粉を分解する際に発酵熱が発生し、ERS液肥やわら・おが粉の水分が蒸発するため汚水が発生しません。
■ 悪臭の発生抑制
ERS液肥は殺菌・発酵済みであるため、堆肥舎で悪臭が発生しません。
■ 発酵期間の短縮
未発酵の生糞尿よりも、好気性発酵したERS液肥のほうがメタンガスの発生が少ないなどの理由により、従来型の堆肥化に比べて短期間で完熟堆肥ができます。
■ 温室効果ガスの抑制
発酵期間の短縮によって、一般的な堆肥化処理に比べて炭酸ガス由来のメタンガス(温室効果ガス)の発生を大幅に抑制できます。
- 3. 畜産クラスター事業へのERSシステム導入実績
これまでに3件の畜産クラスター事業でERSシステムが採用され、悪臭や排水が出ない高速糞尿発酵乾燥処理が実現しています。成果物は敷料や肥料として活用されています。
■ 株式会社リオグランデ(静岡県富士宮市)
約400頭の乳牛を飼養。富士宮市や富士開拓農業協同組合と連携して富士開拓畜産クラスター協議会を組成。畜産クラスター事業のうち「畜産・酪農収益強化整備等特別対策事業(施設整備事業)」を活用して2020年4月にERSシステムを導入。現在はJET製バイオマスボイラーも導入し、RPF(廃プラスチック燃料)を使用してERSシステムの稼働に必要な熱源を効率的に確保することでERSシステムのランニングコストを抑えることに成功しています。
補助金事業の総事業費:約5億円
■ 株式会社トップファーム(北海道常呂郡)
約13,000頭の肉牛を飼養。佐呂間町や佐呂間町農業協同組合と連携して佐呂間町畜産クラスター協議会を組成。畜産クラスター事業のうち「畜産・土づくり堆肥生産流通体制支援事業 畜産・土づくり施設等導入支援事業」を活用して2022年3月にERSシステムおよびバイオマスボイラーを導入。既存の堆肥舎(全長100m)の中に、ERS-5U型3台とバイオマスボイラー2台を配置。牛糞を敷料化することにより、敷料購入コストの大幅削減を実現しています。
補助金事業の総事業費:約14億円
■ 農事組合法人長崎有機センター(長崎県大村市)
約6,000頭の肉牛を飼養。県央肥育クラスター協議会を組成。畜産クラスター事業のうち「畜産・酪農収益強化整備等特別対策事業(施設整備事業)」を活用して2022年3月にERSを導入。年間を通じて気候の影響を受けず安定的に糞尿処理ができることが評価されています。
補助金事業の総事業費:約4億円
- 4. ERSシステムの特徴
ERSシステムは家畜糞尿、し尿・排水汚泥、食品残渣などの水分を多く含む廃棄物であっても高速で発酵処理できるように設計されています。
■ 排水・悪臭の発生なし
処理中に排出される投入物中の水分は脱臭後に蒸散するため、排水が発生しません(排水設備が不要)。また、装置内部では真空状態のなか、微生物が投入物に含まれるアンモニアを分解するため、悪臭も放ちません。
■ 成果物の含水率を機械的に設定可能
機械的制御により成果物の含水率を設定できます。成果物を液肥にする場合は含水率80%程度に設定します。成果物をバイオマス燃料にする場合は含水率20%程度に仕上げることで良質な燃料になります。
■ 処理スピードが速い
装置内部は沸点が50~70℃となるよう減圧し、土着菌にとって最適な活動環境を制御することにより、水分の多い投入物でも高速で発酵乾燥処理します。
■ 均質な成果物が生成できる
ERSシステムでの発酵乾燥処理により、発酵度合いや水分のムラがなく均一な品質の成果物が生成できます。成果物は、燃料、肥料、飼料、敷料として活用できます。
■ 実装している主な特許技術
「微生物、微生物含有組成物、並びに、該微生物を用いた有機肥料の製造方法」
特許第4153685号(2008年7月11日登録)
【概要】牛糞等の畜糞や生ごみといった有機性廃棄物を、真空状態のなか加熱し特定の微生物を用いて発酵乾燥処理し、有機性廃棄物から短期間で良質な有機肥料を製造する方法に関する特許技術です。
「処理対象物の発酵乾燥による燃料化装置および燃料化方法」
特許第6763575号(2020年9月14日登録)
【概要】発酵乾燥装置に投入した有機性廃棄物やプラスチック類を、真空状態のなか加熱し特定の微生物を用いて発酵乾燥処理する。それにより生成した乾燥物を燃焼させ、その発生する熱エネルギーのばらつきを抑えて、燃焼炉の燃料として利用し易くする技術です。
■ 土着菌使用で微生物環境リスクなし、補充も不要
ERSシステム設置場所周辺に生息する環境微生物をERSシステムに活用します。他所からの菌の持ち込みをしないため、地域の微生物環境を阻害しません。また、最初に定植した菌が装置内で継続増殖するため、菌の補充は不要です。
■ 装置に使用する微生物も特許微生物を使用
装置を設置する現場周辺から採取した環境微生物のうち、特定の3種類をERSシステムでの発酵・乾燥に利用します。これらの微生物は、特許微生物として独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE: National Institute of Technology and Evaluation)の特許微生物寄託センター(IPOD: International Patent Organism Depositary)に寄託しています。
■ 水分調整が不要
脱水処理や水分調整剤の添加は不要です。
■ Waste-to-Energyの発電事業が構築可能
ERSシステムで廃棄物を処理してできた成果物をバイオマス燃料として利用して発電することで、電気の自家利用や売電ができます。
- 5. 今後の展開
肉牛業界にてERSシステムを使って糞尿を敷料に資源化していただくお客様(導入実績)が増えておりますが、今後は酪農業界において今以上にERSシステムの普及を目指します。水分の多い乳牛糞尿は、ERSシステムでの資源化処理により市場ニーズの高い好気性発酵液肥となります。このたびERSシステムを採用した山口県酪では、牛乳の需要が低迷する昨今において、ERSシステムが従来通りの堆肥化・敷料化ができることに加えて、液肥が生成できるという点に大きなメリットを感じたことが導入決定の大きな要因となったそうです。液肥のニーズが高まる中、JETは、酪農経営専門誌「デーリィマン 2022年12月号」にて「堆肥と液肥を生成できる発酵・乾燥・資源化装置」というテーマの記事を執筆いたしました。早速この記事をご覧になった酪農経営者や学術機関の方々よりお問い合わせを頂いており、酪農業界におけるERSシステムの普及に向けて迅速に対応しております。
また、近年ではERSシステムの導入を検討されている養鶏農家や養豚農家の皆様から頂く問合せが急増しています。養鶏業界においては鳥インフルエンザ、養豚業界においては豚熱に対する迅速で効率的な防疫措置方法が模索されている状況のもと、JETではERSシステム1台で「日常の糞尿処理」と「感染症発生時の防疫措置(レンダリング殺菌処理)」の両方が実施できることを実証するための準備段階に入っています。日常の糞尿処理装置が、そのまま感染症発生時の殺菌処理装置として使用することができれば、迅速な感染症拡大防止および発生農家における経営的ダメージの最小化に繋がります。JETはこれからも技術研鑽を重ね、畜産業界のニーズにお応えできるようERSシステムの普及促進に邁進いたします。
【関連プレスリリース】
2022年12月16日
【全面リニューアル】JETウェブサイト刷新のお知らせ
~資源化装置ERSに関する情報の探し易さ向上と外国語ページの追加~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000085654.html
2022年9月12日
【メタン発酵消化液の処理】有機物系廃棄物処理におけるメタンガス化システムを劇的に進化させる特許を取得、即時実施
~現状の課題を解決する消化液処理装置ERS~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000085654.html
2022年4月7日
『畜産クラスター補助金事業』活用による急速発酵乾燥資源化
~装置 ERSの導入先 2件、 3月設置工事竣工のお知らせ~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000085654.html
2022年3月7日
敷料再生装置、寒冷地で発酵熱70℃の安定処理を実証
~零下でも凍結なく病原菌等を死滅させ、肉牛糞尿を完熟堆肥に~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000085654.html
2022年2月22日
長州産業と(株)JETが業務提携、畜産環境問題を未然に防止
~急速発酵乾燥資源化装置ERSの販売強化~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000085654.html
2021年12月29日
肉牛・乳牛農家に糞尿の堆肥化装置の導入決定
【畜産クラスター補助金】と【法人税特別税制措置】を活用
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000085654.html
2021年12月28日
【畜産業界が注目】急速発酵乾燥資源化装置ERSに新・特許技術導入
~1台で「日常時の家畜糞尿処理」「感染症発生時の死畜処理」共に堆肥化可能に~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000085654.html
2021年10月13日
肉牛糞尿の高速資源化で、おが粉購入費42%削減を達成
~敷料再生装置の稼働後1年経過、畜産農家の効率経営を支援強化~
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000085654.html
【会社概要】
会社名: 株式会社JET
所在地: 東京都千代田区一番町19 全国農業共済会館4階
代表者: 片山智之
設立: 平成25年8月
資本金: 50,000,000円
事業内容: 急速土着菌増殖乾燥システムERSに関する以下の事業
-開発・製造・販売・輸出入・管理
-適用・導入に関するコンサルティング
-原料の輸出入
ウェブサイト:https://jet-e.jp/
【お問い合わせ先】
株式会社JET
〒102-0082 東京都千代田区一番町19 全国農業共済会館4階
管理部 広報担当 松本
TEL:03-6384-5691
E-mail:info@kotowas.co.jp