- 食糧援助に依存
ミャンマーでの迫害と弾圧から逃れて来たイスラム系少数民族ロヒンギャが暮らすのは、コックスバザール県にある世界最大の難民キャンプ群。人びとはキャンプ内に閉じ込められ、正規の職に就くことを禁じられているため、既に1日の推奨摂取カロリーを下回るわずかな食糧しか補えず、ほぼ完全に食糧援助に頼っている。
摂取カロリーの不足は、栄養失調や貧血、免疫力の低下につながり、はしかやコレラなどの感染症の発生リスクも高まる。
- 既にひっ迫する医療サービス
MSFの医療施設で産前ケアを受ける妊婦の多くは、既に栄養失調に陥っている。2022年、クトゥパロン=バルカリ難民キャンプでMSFが運営する病院と診療所では、妊婦の12%が急性栄養失調と診断され、30%が貧血と診断された。
栄養失調や貧血の状態にある母親は、出産時に合併症を引き起こすリスクが高く、新生児の健康状態が悪くなりやすいと言われている。現在の食糧配給量でも、同病院と診療所で生まれた赤ちゃんの28%は低体重で、病気や栄養失調になる可能性が高くなっている。
また、キャンプにいる難民の多くは、心臓病、高血圧、2型糖尿病などの慢性疾患に悩まされている。こうした非感染性疾患の患者にとっても、健康的な食事は健康維持に欠かせない。MSFは現在、4500人以上の患者のケアに当たっているが、充分な食糧を得られなくなると、キャンプ内の医療サービスへの負担は高まるだろうとみている。
さらに、水はけの悪さによる水たまり、多数のあふれたトイレなど、衛生設備の不備により、感染性皮膚疾患である疥癬(かいせん)や、デング熱、コレラなどが多発。劣悪な生活環境に起因する疾患への対応に追われ、医療サービスは既にひっ迫している。
- 資金拠出の再確認を求める
MSFは、食糧配給の削減が、既にキャンプ内に広がっている絶望感をさらに高め、より良い生活と将来を求めて、人びとが危険な移動を試みる事態を危惧している。
バングラデシュでMSFの代表を務めるクラウディオ・ミリエッタは「ロヒンギャの人びとに必要とされる限り、MSFは活動し続けることを約束します。しかし、コックスバザールに点在するキャンプでさらに多くの医療ニーズを引き受けることはMSFの能力の限界を超えています。資金減少を受けてコックスバザールで活動する援助団体の数は80%近くも減少しています。資金拠出機関や援助国には、ロヒンギャ難民の優先順位を改めて引き上げ、資金拠出の約束を再確認することが求められているのです」と話す。
MSFは1992年からコックスバザール県の難民キャンプで医療を提供。2022年、MSFは75万人以上の外来診療に当たり、2万2000人以上の入院治療を行った。 |