研究者とアーティストの協働による「概念の社会化」、アカデミックインキュベーター・プログラムによる研究者への支援、情報発信とDiscordコミュニティの運営、DeSci(分散型サイエンス)の仕組みを応用した資金調達の実験といった実践を通じて、知のアウトリーチや流通におけるオルタナティブな回路づくりに挑戦していきます。
- デサイロ(De-Silo)の概要
デサイロ(De-Silo)は、「いま私たちはどんな時代を生きているのか」をアカデミアの知を頼りに探っていくプロジェクトです。人文/社会科学領域の研究者の方々とともに、下記の4つについて、具体的に取り組んでいきます。
1.研究者とアーティストの協働による「概念の社会化」
人文/社会科学領域の4名の研究者の方とともに、それぞれの研究テーマに基づいて「いま私たちはどんな時代を生きているのか」を探求し、そのなかで出てきた知をアーティストの方とのコラボレーションによって、社会に届けていきます。
2.アカデミックインキュベーター・プログラムによる研究者への支援
上記の4名の研究者だけではなく、より幅広い研究者の方を支援するための助成金プログラム「デサイロ アカデミックインキュベーター・プログラム」の運営に取り組む予定です。詳細は近日中に公開予定です。
3.情報発信とDiscordコミュニティの運営
本プロジェクトでは、Substackを利用した情報発信や、Discordを利用した研究者のコミュニティづくりに取り組んでいきます。情報発信については、上記の1と2に関係する研究者の皆さんへのインタビューや寄稿、人文/社会科学領域の気鋭の研究者による寄稿などを掲載予定です。
またDiscordでは、人文/社会科学領域の研究者の方を対象としたコミュニティを運営していきます。助成金プログラムや、現行のアカデミアの仕組みの外側で研究している人々の取り組みなどについて、コミュニティ内では情報提供していきます。また、それぞれの研究領域の垣根を超えたネットワークの場や、分野横断的にアカデミアの未来について議論する場としても運用できればと考えています。そのほか、TwitterやInstagramでは活動の進捗報告やイベントの告知も行っていきます。ご関心のある方はぜひご参加ください。
■ Substack
https://desilo.substack.com/
■ Discord
https://discord.gg/ebvYmtcm5P
■ Twitter
https://twitter.com/desilo_jp
■ Instagram
https://www.instagram.com/desilo_jp/
4.DeSciの仕組みを応用した資金調達の実験
持続的な研究活動のためには「資金調達」やファンドレイズは欠かせません。助成金も含めてさまざまな取り組みが行われてきましたが、デサイロではWeb3のテクノロジーやブロックチェーンを用いて現代科学が抱える諸問題を解決しようとする「DeSci(分散型サイエンス)」の仕組みを応用した資金調達の実験にも取り組む予定です。具体的な実装については、近日中に公開予定です。
- 人文/社会科学分野の研究が抱える課題
現在、日本のアカデミアにおいて「サイロ化(=組織やシステムなどが連携せずに孤立してしまう状態)」が問題視されています。
短期的に経済的価値に還元可能な研究へと助成金を優先して配分する「選択と集中」のアプローチが採用されやすいアカデミアでは、研究分野ごとに大きな予算格差が生まれています。特に人文/社会科学の領域では、2014年に文部科学省から通達された「教員養成系、人文社会科学系学部の廃止や転換」が大きな議論の種となったり、キャリアパスの不透明さを背景に2021年の大学院進学率が人文科学4.1%、社会科学2.2%に留まるなど、社会的意義が認められづらく、予算獲得も難しい現状があります。
アカデミアにおける資金配分の課題解決を目指す取り組みとしては、産学官連携による共同研究の強化や学際的研究の推進が行われているものの、研究結果に対する審査・評価制度が充分に整備されていなかったり、共同研究契約に関する手続きが煩雑であったりと、学術界と産業界の分断、研究者間の分断が問題視されています。
このようなアカデミアにおけるサイロ化を崩すべく、デサイロ(De-Silo)では現行のアカデミアの仕組みの外側で研究や実践を行ない、知が流通するオルタナティブな回路をつくることに挑戦していきます。
- デサイロ(De-Silo)を始める背景
デサイロ(De-Silo)を通じて達成したいのは、人文/社会科学領域の研究の価値を社会に伝え、そのプレゼンス向上に貢献することです。
人文や社会科学の領域における研究のなかには、いまの社会から一定の距離を置き、社会を相対化しながらも真理を探ろうとする営為があります。研究を通じてでしか気づくことができない現代社会における諸問題や、時代を読み解くための補助線となるアイデアや概念が存在するはず──。こうした課題意識のもとで、研究者の方々とともに時代を読み解くための新しい「言葉」と「コンセプト」を探していくことが、デサイロのミッションのひとつです。
もちろん、すべての人文/社会科学領域の研究に短期的な成果や社会との接続が必要だとは考えておりません。しかし、「文系学部不要論争」が交わされたり、研究予算が縮小されたり、縦割りな大学システムにより分野横断研究の実践が困難だったりと、その研究の意義が社会に伝わりにくい現状が存在します。そこで、デサイロではアカデミアの知を社会に幅広くリーチさせる方法を探るべく、上記の4つの取り組みを通じて、知が流通するオルタナティブな回路をつくることに挑戦していきたいと考えています。
- 4つの研究テーマの社会化
デサイロのプロジェクトでは、磯野真穂さん、柳澤田実さん、山田陽子さん、和田夏実さんの4名の研究者と、コラボレーターとなるアーティストとともに「いま私たちが生きている時代」を探求し、そこから見えてきた時代を捉えるための「言葉」や「コンセプト」を作品という形式で社会に届けていきます。
4つの研究テーマ
・21世紀の理想の身体(磯野真穂)
・「私たち性 we-ness」の不在とその希求(柳澤田実)
・ポスト・ヒューマン時代の感情資本(山田陽子)
・「生きているという実感」が灯る瞬間の探求(和田夏実)
それぞれの研究テーマの詳細は下記のページよりご覧ください。
https://desilo.substack.com/about
磯野真穂(いその・まほ)
人類学者。専門は文化人類学・医療人類学。博士(文学)。早稲田大学文化構想学部助教、国際医療福祉大学大学院准教授を経て2020年より独立。身体と社会の繋がりを考えるメディア「からだのシューレ」にてワークショップ、読書会、新しい学びの可能性を探るメディア「FILTR」にて人類学のオンライン講座を開講。著書に『他者と生きるーリスク・病い・死をめぐる人類学』(集英社新書)『なぜふつうに食べられないのか――拒食と過食の文化人類学』(春秋社)、『医療者が語る答えなき世界――「いのちの守り人」の人類学』(ちくま新書)、『ダイエット幻想――やせること、愛されること』(ちくまプリマ―新書)、宮野真生子との共著に『急に具合が悪くなる』(晶文社)などがある。(オフィシャルサイト:www.mahoisono.com )
柳澤田実(やなぎさわ・たみ)
1973年ニューヨーク生まれ。専門は哲学・キリスト教思想。関西学院大学神学部准教授。東京大学21世紀COE研究員、南山大学人文学部准教授を経て、現職。編著書に『ディスポジション──哲学、倫理、生態心理学からアート、建築まで、領域横断的に世界を捉える方法の創出に向けて』(現代企画室、2008)、2017年にThe New School for Social Researchの心理学研究室に留学し、以降Moral Foundation Theoryに基づく質問紙調査を日米で行いながら、宗教などの文化的背景とマインドセットとの関係について、何かを神聖視する心理に注目しながら研究している。
山田陽子(やまだ・ようこ)
社会学者。大阪大学大学院人間科学研究科准教授。博士(学術)。単著に『働く人のための感情資本論―パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』(青土社,2019年)、『「心」をめぐる知のグローバル化と自律的個人像―「心」の聖化とマネジメント』(学文社,2007年)、編著に『社会学の基本-デュルケームの論点』(学文社,2021年)など。社会学史学会奨励賞受賞(2007年)。社会学理論や学説を丹念に読み込みながら、フィールドワークやインタビュー調査を通して人々の生の声を聴き、近代資本主義社会と感情、自殺について研究している。
和田夏実(わだ・なつみ)
インタープリター ろう者の両親のもとで手話を第一言語として育ち、視覚身体言語の研究、様々な身体性の人たちとの協働から感覚がもつメディアの可能性について模索している。LOUD AIRと共同で感覚を探るカードゲーム《Qualia》や、たばたはやと+magnetとして触手話をもとにした繋がるゲーム《LINKAGE》など、言葉と感覚の翻訳方法を探るゲームやプロジェクトを展開。東京大学大学院 先端表現情報学 博士課程在籍。同大学 総合文化研究科 研究員。2016年手話通訳士取得。《an image of…》《visual creole》 “traNslatioNs – Understanding Misunderstanding”, 21_21 DESIGN SIGHT, 2020
4名の研究者による研究成果の報告及びアーティストによる作品の公開は、2023年夏〜秋頃を予定しています。先述の情報発信プラットフォームにて、研究のプロセスを発信していきます。ご関心のある方はぜひフォローやニュースレター登録をお願いいたします。
- 運営メンバーのご紹介
アカデミアを取り巻く諸問題への課題意識や、アカデミアの知の可能性を信じている社会起業家や編集者を中心としてデサイロは立ち上がりました。
岡田弘太郎(おかだ・こうたろう)
デサイロ(De-Silo)代表。編集者。1994年東京生まれ。2018年より『WIRED』日本版の編集者として、雑誌やWeb連載における編集、カンファレンスやイベントの企画・モデレーター、Sci-Fiプロトタイピング事業におけるプログラム開発・ファシリテーターなどを担当。『WIRED』日本版にて、多分野の研究や科学者とイベントやシンポジウムの企画、情報発信のサポートをするなかで、人文/社会学領域の研究の意義に触れる。19年よりクリエイティブ集団「PARTY」パートナー。「GRAZE GATHERING」編集統括。スタートアップを中心とした複数の企業の編集パートナーを務める。慶應義塾大学にてサービスデザインを専攻。Twitter: @ktrokd
久能祐子(くのう・さちこ)
社会起業家、フィランソロピスト。京都大学工学部で1000人中6人の女子学生の一人として学部、修士、博士課程を修了。1982年に京都大学工学博士を取得する。在学中にミュンヘン工科大学の研究員として1年間の留学を果たす。専攻した生化学、生物化学の分野で基礎研究者を目指すが、偶然出会った発見を基に新規医薬品の創成を目指すためキャリアチェンジを決断し、以後、バイオベンチャーの共同創業者兼CEO等として、日米で研究開発、会社経営を経験する。これらの事業を通して、1994年に世界初のプロストン系緑内障治薬を商品化に成功。その後、2006年には慢性特発性便秘症及び過敏性腸症候群治療薬-世界初のクロライドチャネルオープナーの商品化にも成功した。これら二つの医薬品は世界中で1兆円を超える大ヒット商品となった。2012年には、新型ワクチン開発を目指すVLPセラピューティクスを、2014年には、滞在型社会起業家インキュベーターHalcyon(ワシントンDC)を、2017年には、滞在型企業内起業家支援インキュベーター、フェニクシー(京都)を共同創業した。現在は、ワシントンDCで社会起業家、フィランソロピストとして活動している。京都大学理事(2022年9月30日まで)のほか、ジョンズホプキンス大学医学領域評議員、ヘンリー・L・スティムソンセンター理事、お茶の水女子大学、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の評議員も務める。2015年、フォーブス「自力で成功した女性50人」に日本人としてただ一人選ばれる。2018年ワシントンDCビジネス殿堂入り。
濱田太陽(はまだ・ひろあき)
神経科学者(博士)。シニアリサーチャー(株式会社アラヤ)。沖縄科学技術大学院大学(OIST)科学技術研究科博士課程修了。2022年より、Moonshot R&Dプログラム (目標9)「逆境の中でも前向きに生きられる社会の実現」(山田PMグループ)のPrincipal Investigatorとして前向き状態に関するモデル化に従事している。研究テーマは好奇心の神経計算メカニズムの解明や大規模神経活動の原理解明。教育やサイエンスの新たな可能性を模索している中で、分散型サイエンスに注目している。
小池真幸(こいけ・まさき)
デサイロ(De-Silo)編集パートナー。編集、執筆(自営業)。近年は主に批評誌「PLANETS」、デザインの可能性を探究するメディア「designing」、個性を探究するメディア「うにくえ」、組織の創造性を賦活する最新理論を基盤とした専門家集団・株式会社MIMIGURIなどにて、研究者やクリエイター、事業家らと協働しながら企画・編集を手がける。1993年神奈川生まれ、東京大学にて教育哲学を専攻。
古島海(こじま・かい)
1998年神奈川・横浜生まれ。デザインリサーチャー、ライター。「ハイコンテクストと生活を繋ぐには?」をテーマに、複数メディアやプロジェクトの発信や運営をサポート。「誰もが楽しめる夜をつくる」をミッションに掲げる合同会社NEWSKOOLにてナイトデザイン事業に従事。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科にて「閑のある生活」を提供できる都市のデザイン。
アートディレクション:畑ユリエ
写真:丸尾和穂
- 運営メンバーからのメッセージ
久能祐子さんからのコメント
今回スタートする「デサイロ」プロジェクトは「アカデミアが社会に果たす役割とはなにか」「なぜアカデミアを社会が支えなければならないのか」を一から考え直すことを目指しています。
アカデミアの衰退や行き過ぎた専門化は社会にとってマイナスになるだけでなく、そこに人生をささげ孤独な闘いを続けている若手・気鋭の研究者のエネルギーを奪っているのではないかとすら感じます。論文数や経済的リターンにだけ評価を求めるのではなく、そもそもアカデミアでなければ気づかない問題や新しいアイデア・発見を「時代」として切り取り、社会と共有することによって個・社会・世界(地球)のトリレンマへ挑戦する勇気と希望を創り出すことを期待しています。
個人のアイデアやテクノロジーからスタートする起業や起業家が、イノベーションを加速することは既に多くの人が認識するところです。その成長を支える仕組みであるインキュベーターも多くの成功例を出しています。アカデミアにおいても、特に人文・社会系研究者が「デサイロ」を通してまるで起業家がスタートアップを作るように、気鋭の研究者が独自のアイデアや概念を披露し、セレンディピティを触媒する場、如いてはその実践の仕組みをつくるプラットフォームとなることを期待します。
誰も予測できない未来を目の前にしている我々にとって今ほどイノベーティブなビジョンを必要としている時代はないでしょう。それと同時に、個々の研究者が持っている感覚やアイデアを異なる背景を持つ研究者と出会うことで大きなビジョンとして醸成していくこともできると考えています。
濱田太陽さんからのコメント
社会の大きな変動とともにアカデミアにも大きな変動が起こっています。全世界的に研究費獲得競争の激化、疑わしい研究の実践、研究者不足などの問題が起こっているのです。特に日本では、キャリアパスの不透明さから未来の研究を担う博士課程学生も減少しており、若手の研究者たちのキャリアパスへの不安をさらに掻き立てています。
これらの問題を新たなテクノロジーによって解決しようとする試みとしてDeSciが盛り上がりつつあります。DeSciではブロックチェーンなどのWeb3テクノロジーによって研究者と異なるステイクホルダーのコミュニケーションや取引、意思決定を可能にする新たな仕組みづくりを目指しています。
日本においては、これまで研究資金源やコミュニケーションのあり方が限られていましたが、今後DeSciが社会と繋がる新たなイノベーションのプラットフォームの一端となると考えています。「デサイロ」プロジェクトでは、DeSciのみならず新たなコミュニケーションのあり方が構築されることにも期待しています。
- 【10月22日開催】デサイロ ローンチイベント
人文/社会科学領域の研究者を支援するアカデミック・インキュベーター・プログラム「デサイロ(De-Silo)」のローンチを記念して、10月22日10:00よりイベント「人文/社会科学領域の研究をエンパワーするには?──社会との接続、資金調達の方法を考える」を開催します。詳細は下記をご覧ください。
https://desilo.substack.com/p/event1
Session 01「石田健×成田悠輔×和田夏実×久能祐子|アカデミアの『再起動』のために。社会との接続のあり方を考える」
■ 登壇者
石田健/久能祐子/成田悠輔/和田夏実
Session 02「高橋祥子×濱田太陽|『DeSci(分散型サイエンス)』がひらく世界──窮乏する研究資金、調達のための次の一手」
■ 登壇者
高橋祥子/濱田太陽
■ 日時
10月22日(土) 10:00〜12:00(Zoomウェビナーにて生配信)
■ モデレーター
デサイロ代表 岡田弘太郎
■ 参加方法
イベントに参加を希望される方は、下記のフォームよりお申込みください。
https://forms.gle/6vSmjp1QhZxn5gLp9
- 今後の活動について
プロジェクトに関わる研究者の皆さんの実践について、「Substack」というパブリッシングプラットフォームを用いて継続的に発信していきます。また、人文/社会科学分野の研究者向けコミュニティをDiscordで運営していきます。そのほか、TwitterやInstagramでは、活動の進捗報告やイベントの告知も実施します。ご興味のある方はニュースレターや各SNSのフォロー、あるいはDiscordに参加いただき、この活動の輪に加わっていただければと思います。
■ Substack
https://desilo.substack.com/
■ Discord
https://discord.gg/ebvYmtcm5P
■ Twitter
https://twitter.com/desilo_jp
■ Instagram
https://www.instagram.com/desilo_jp/
そのほかコラボレーションの相談や取材依頼などがあれば下記の連絡先までお願いいたします。
De-Silo運営事務局
E-Mail:contact@de-silo.xyz