加えて、NECが開発したソフトウェアベースのエッジコンピューティング用途の5Gのユーザー通信※3を扱う装置(以下、エッジ向けUPF)の基本的な機能を高性能かつ低消費電力なプロセッサであるAWS Graviton3※4(以下、Graviton3)を活用した環境において問題なく動作させることに成功しました。この成功により、AWS上でもユーザー通信が利用可能であることを確認できました。Graviton3を活用した環境においてエッジ向けUPFの動作確認に成功したのは世界で初めて※5です。将来的には、IoT用途のお客さまに対してGravitonを活用した5GCおよびエッジ向けUPFを合わせてご提供することで、環境負荷が小さいネットワークの実現が可能となることに加え、構築期間の短縮化によるサービス提供までのリードタイム短縮が期待できます。
ドコモとNECは今後もAWS上での一連の検証結果をもとに、ハイブリッドクラウド構成の5GCの各種課題の解決に取り組み、高可用かつ柔軟なネットワークの実現に向けた技術検討を推進していきます。 また、両社は、これまでの検証結果と本設計により、性能を向上しつつ消費電力を削減したネットワークの実現に向けた課題解決に取り組み、環境に配慮し持続可能な社会にふさわしい5G時代に求められるネットワークの提供に向けた技術検討を推進してまいります。
なお、本設計をもとに構築したデモ環境は、2023年2月27日(月)からスペイン・バルセロナで開催される Mobile World Congress 2023のAWSブース内で紹介します。
■各社のコメント
株式会社NTTドコモ 常務執行役員(CTO)・R&Dイノベーション本部長 谷 直樹
「NECのクラウドネイティブかつ信頼性の高い5GCソフトウェアとAWSの革新的なGravitonプロセッサを用いた検証の成果をもとに、ハイブリッドクラウド環境での5GCのハイレベルデザインが完了したことにより、5G時代に求められる、より信頼性や柔軟性の高いネットワークをお客さまに届ける未来がまた一歩実現に近づいたと確信しております。また、NECの先進的なUPF装置とAWSのより高効率なGraviton3により省電力で環境負荷の小さいネットワークを実現する可能性を見いだせたことは、非常に大きな成果だと考えております。これらの成果をお客さまに届けるべく、研究開発を継続していきます。」
日本電気株式会社 執行役員常務 河村 厚男
「多種多様な5Gサービスが広がりを見せる中で、データプレーンに求められる要件も拡大しており、より柔軟なネットワークの提供が求められています。今回の実証では、高性能UPFを省電力効果の高いARM※6にも対応したことで、次世代モバイルインフラの低消費電力化の実現に一歩近づけることができたと考えています。
NECは5GC/UPFに加えて、RAN(CU-C/U)もクラウド/ARMに対応しました。さらにRAN(DU)のARM化も推し進めることで、システム全体の電力効率を考慮した、クラウドとオンプレミスの最適なネットワーク構成を早期に実現します。そしてシステム全体の電力効率を考慮したサステナブルな仮想化ネットワークの提供により、持続可能な社会の実現に貢献します。」
Amazon Web Services, Inc. 通信業界ビジネスユニット バイスプレジデント アドルフォ・ヘルナンデス(Adolfo Hernandez)
「従来の通信ネットワークでは、オペレータは通信トラフィックのピークに合わせた、また災害時にも通信を継続するために必要となる冗長構成を備えたネットワーク設備を設計・構築しておく必要があります。 AWS をドコモの既存ネットワーク仮想化基盤 (NFV) と統合し、必要時に通信トラフィックを AWS にオフロードすることで、ネットワーク パフォーマンスを最適化し、運用コストを削減する柔軟性を備えたネットワークを実現することができると期待しています。 AWS Graviton3プロセッサを活用することで得られる高いエネルギー効率と組み合わせることで、より柔軟性が高く運用効率の良いドコモのネットワーク実現に向け支援していきます。」
※1 「キャリアグレード」とは大規模な通信事業者向けの高い信頼性や品質の水準を意味します。
※2 2023年2月現在、ドコモ・NEC調べ
※3 「ユーザー通信」とはお客さまの端末とインターネット上などのサーバーとの通信を示します。UPFはお客さまの端末とインターネット上などのサーバーとの通信を中継する装置です。
※4 「AWS Graviton」とはAWSのクラウドコンピューティングサービス向けにAWSが開発したプロセッサです。
Graviton3は第3世代のGravitonを搭載したプロセッサ、Graviton2は第2世代のGravitonを搭載したプロセッサです。
(参考) https://aws.amazon.com/jp/ec2/graviton/
※5 2023年2月現在、ドコモ・NEC調べ
※6 「ARM」とはGravitonがベースとしているCPUアーキテクチャです。
本件に関するお問合せ先:
日本電気株式会社 ネットワークサービス企画統括部
E-Mail:contact@nwsbu.jp.nec.com
別紙
実証実験およびキャリアグレード冗長設計概要
1 実証実験および基本冗長設計概要
ドコモとNECは、AWSを活用してハイブリッドクラウド環境上で動作する5Gネットワーク装置の技術検証(以下、本実証)を2022年3月から実施しており※1、2022年9月には、Graviton2上の5GCの消費電力の7割削減と、Graviton2上の5GCとドコモの自社仮想化基盤上の5GCを接続したハイブリッドクラウド環境上での基本動作に成功しています※2。
両社は、この結果を活かすべく、Graviton2上の5GCとドコモの自社仮想化基盤上の5GCを接続したハイブリッドクラウド環境の技術検討を進めてまいりました。ドコモの商用ネットワークでは、お客さまに絶え間なくサービスを提供するため、装置故障時に予備のネットワーク装置への切り替えを可能とする設計をしており、AWS上の5GCとドコモの自社仮想化基盤上の5GCを接続したハイブリッドクラウド構成でも同様に予備のネットワーク装置への切り替えを可能とする設計に取り組んでまいりました。自社仮想化基盤を含むドコモの商用ネットワークへの接続や切り替え方式に関して課題がありましたが、両社は新しいAWS上の機能を活用しつつ解決することで、基本的な設計を無事完了いたしました。
加えて、本実証の一環として、最新のGravitonファミリーであるGraviton3上でのエッジ向けUPFの基本的な動作確認と、スループット性能の測定を実施しました。UPFはユーザー通信を扱うという性質から高速化技術などを駆使しており、異なるCPUアーキテクチャへの移植が難しいという課題がありました。ドコモとNECは、本実証の中でこの課題を克服し、Graviton3上でのUPFが、同様にGraviton上で動作する5GCと連携して動作し、基本的なユーザー通信が疎通することを確認しました。また、スループット性能の検証では、エッジ向けUPFをGraviton3上で動作させ、現行のアーキテクチャのCPUで動作するUPFと比較し1CPUあたりのスループット性能が2割向上したことを確認しました。※3
2022年9月に先行して検証を完了していた5GCの確認結果と今回の成果から、AWS上には5GCとエッジ向けUPFまで配置可能であり、それらと自社仮想化基盤上の5GC、自社装置の大容量なUPFという組み合わせでハイブリッドクラウド構成が可能となります。
2 「Graviton3」を活用したエッジ向けUPFの実証実験詳細
AWS上のGraviton3プロセッサでNECのUPFソフトウェアを動作させ、商用を模擬したユーザーパケットを処理させることでスループット性能を定量化しました。具体的には、AWS Graviton3プロセッサベースの EC2インスタンス(以下、Graviton3環境)と第6世代x86ベースのAmazon EC2インスタンス(以下、x86環境)上に実験用のUPFを用意し、5GCに商用運用の平均と同じサイズのユーザーパケットをUPFに対して徐々に増やしながら送信し、スループット性能の上限を測定しました。
その結果、Graviton3環境のUPFのスループット性能がx86環境UPFのスループット性能に対して約2割向上したことを確認しました。
※1 「ドコモとNECがアマゾン ウェブ サービスを活用しハイブリッドクラウド上で動作する5Gネットワーク装置の技術検証に着手」
https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/topics/2021/topics_220301_02.pdf
https://jpn.nec.com/press/202203/20220301_03.html
※2 「ドコモとNECが、アマゾン ウェブ サービスを活用しGraviton2利用による5Gコアネットワークの消費電力の7割削減とハイブリッドクラウド環境での5Gコアネットワークの動作に成功」
https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_220929_00.pdf
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000188.000078149.html
※3 この成果は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」(JPNP20017)の委託事業の結果得られたものです。