低軌道通信衛星コンステレーションに向けた耐放射線Ka帯無線機の開発に成功

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株式会社アクセルスペースと国立大学法人東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授と同 工学院 電気電子系の岡田健一教授、戸村崇助教は、放射線耐性の高い無線機の開発に成功しました。この研究成果は、世界最大規模の半導体関連の国際学会「ISSCC 2023」での発表の他、3月に米国で開催予定の「Satellite 2023」での展示を予定しています。

 

本研究の社会的背景
 次世代の情報通信インフラ「Beyond 5G」では、地上の通信インフラだけでなく、非地上での通信ネットワークシステム(NTN:Non-Terrestrial Network)を利用することで、さらなる通信エリア拡大が検討されています。また、地球低軌道(LEO)で衛星間光通信を行うことによるネットワーク構築は次世代のキーテクノロジーとして注目されており、単に地上の通信インフラ未整備エリアを補完するだけでなく、従来通信サービスが十分に提供されていなかった空間(山頂、船舶・航空機、無電化地域)や、自然災害発生時といった地上通信インフラが一時的に使えない場合に、非地上の通信インフラがより広域かつ堅牢な通信ネットワークを提供することで、より安心、安全な社会の実現につながります。

 近年Beyond 5G時代に向けた低軌道衛星コンステレーションの研究開発およびサービス化が急速に進んできており、人工衛星に搭載する無線機にも高速通信が可能で、宇宙における過酷な環境に耐えうる衛星搭載用の高速通信可能な無線機の需要が高まっていました。しかし、現在の光通信機や通信衛星用の高速通信が可能な無線通信機は数トン級衛星を念頭に置いた高出力・高消費電力なものが多く、安価にコンステレーションを構築することに有力な100kg級衛星への搭載が困難と考えられていました。

 アクセルスペースでは受託研究「Beyond 5G次世代小型衛星コンステレーション向け電波・光ハイブリッド通信技術の研究開発」を進めており、100kg級衛星でGbps級の衛星間通信及び地上との通信が可能な小型衛星による電波・光ハイブリッド通信衛星コンステレーションネットワーク構築を目指しています。電波・光ハイブリッド通信では、光通信リンクの確立のために非常に精密な衛星姿勢制御が要求されます。一般に光通信は電波に比べて高速に通信できる一方で、雲があると完全に通信不能になる欠点があります。そのため、電波通信のなかでは高速化が期待できる「Ka帯」という通信帯域を使用し電波・光ハイブリッドな通信システム構築を目指します。一方で、電波・光ハイブリッド通信のためには、電波通信に対しては光通信のための精密な姿勢制御を邪魔せず、かつ光通信に匹敵する高速な通信という相反する非常に困難な要求を達成する必要がありました。それを達成するキー技術として、東京工業大学との共同研究でKa帯フェーズドアレイ無線機及び、広帯域Ka帯通信機を研究開発していました。

宇宙空間における放射線環境耐性の高い無線機の開発
 放射線環境が厳しい宇宙空間では、電子部品には放射線による劣化が起こります。人工衛星の内側と外側では放射線を受ける量が異なり、外側に配置された電子部品が、内側に配置された電子部品より劣化度が高くなる傾向にあります。そのため、特段の理由がない限りは、電子部品は人工衛星の内側に配置し、多くの場合放射線を減らす目的でシールドで覆い保護されます。また、宇宙空間に打ち上げた後は、現時点での劣化度や劣化箇所についての情報を的確に捕捉することが難しく、設計段階で軌道寿命から計算した電子部品の劣化量を考慮し、劣化が最大の状況でもシステムとして機能喪失しないように設計することが求められます。

 フェーズドアレイ無線機は、地上用製品としては昨今サービスが始まったミリ波帯5G通信などにおいて、多数の製品が存在します。しかし、これらのフェーズドアレイ無線機は小型、軽量、低コスト化等を目的としてアンテナとフェーズドアレイICを基板上に一体化して搭載しています。そのため、アンテナとICを分けて搭載できず、人工衛星に搭載する場合には必然的に衛星外部に配置されることになります。つまり、フェーズドアレイICが宇宙空間に暴露され、非常に厳しい放射線環境に置かれることになります。このため、放射線によるフェーズドアレイICの経年劣化が課題となり、放射線環境に対し堅牢なフェーズドアレイ無線機を開発することが求められていました。

 今回の研究で新たに開発したフェーズドアレイICは、IC自体に劣化量を測定する放射線センサを内蔵しています。本ICを利用して無線機を構成することで、アレイ上のあらゆる位置での放射線劣化量を検出することができます。これにより、無線機性能の劣化を補正するようにパラメータを再調整し、フェーズドアレイ無線機全体の性能悪化を避けることが可能となり、放射線に強い通信システムを開発することができます。

 弊社では今後も東京工業大学と共同研究を継続する予定であり、これまでの研究成果を生かして送信向けのフェーズドアレイ無線機の開発も進行中です。数年以内に本研究成果である受信フェーズドアレイ無線機と送信系フェーズドアレイ無線機、アクセルスペースで開発中の広帯域Ka帯送受信機を統合した、高放射線耐性・省電力なKaバンド通信サブシステムを搭載した実証小型衛星の打ち上げを予定しています。今回の耐放射線フェーズドアレイ無線機技術により、宇宙での活用が可能となったフェーズドアレイ無線機を組み込んだ高機能な次世代衛星による衛星コンステレーションを構築し、より宇宙を身近に利用しやすい未来を創ります。

※本研究成果は国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(採択番号00601)により得られたものです。

本研究の成果について国立大学法人東京工業大学からの発表は以下URLよりご確認ください
URL:https://www.titech.ac.jp/news/2023/065998

2023年2月19日から開催の国際会議「ISSCC」において発表を予定しています。

ISSCC 2023(https://www.isscc.org/)について
米カリフォルニア州サンフランシスコで毎年開かれる半導体業界で最大規模の国際学会。今回で第70回を迎え2023年は2月19日から23日にかけて開催中。

本研究の発表日時    2023年2月21日午後4時15分(現地時間)
講演セッション       Session19: 5G and Satcom: Receivers and Transmitters

講演タイトル          A 2.95mW/element Ka-band CMOS Phased-Array Receiver Utilizing On-Chip Distributed Radiation Sensors in Low-Earth-Orbit Small Satellite Constellation
(低軌道小型衛星コンステレーション向けオンチップ放射線センサ搭載2.95mW/素子CMOSフェーズドアレイ受信機)

*1) Ka 帯:一般には 26-40 GHz までの周波数帯域を指すが、衛星通信においては、衛星通信用に割り当てられているアップリンクの 17-21 GHz、ダウンリンクの 27-31 GHz の周波数帯を指す。

*2) フェーズドアレイ:複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミングの実現に利用される。

株式会社アクセルスペース 会社概要
所在地:東京都中央区日本橋本町三丁目3番3号 Clipニホンバシビル
代表者:代表取締役 中村 友哉(なかむら ゆうや)
設立:2008年8月8日
資本金等の額:7,122百万円(資本準備金を含む)
主な事業内容:小型衛星による地球観測事業、小型衛星等を活用したソリューションの提案、小型衛星及び関連コンポーネントの設計及び製造、小型衛星の打ち上げアレンジメント及び運用支援・受託
URL:https://www.axelspace.com/ja/

本件に関する報道関係者からのお問い合わせ先
株式会社アクセルスペース
経営戦略本部 PRユニット  pr@axelspace.com

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