リプログラミング技術や不死化技術を使うことなく、細胞性食品(培養肉)への応用を期待して国産牛の受精胚から多能性幹細胞を樹立および維持したことはこれまで報告がなく(自社調べ)、今回の発表はその点が新しい点です。今後は培養肉の産業化においてより望ましい多能性幹細胞株の作製や、培養肉への分化技術の開発、周辺技術の開発等に向けて、社内研究/共同研究や社外に当該細胞の導出を行い培養肉産業を発展させていきたいと計画しております。
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国産牛の受精胚から多能性幹細胞を樹立しバンク化
世界各国で競争が激化している細胞性食品(培養肉)の研究開発。現在はいわばその「第一世代」の培養肉として、牛の個体の筋肉組織を出発原料として採取し、その骨格筋細胞から培養肉を作製して、産業として成立するかの可能性、そして可食性、味、食感などの研究が進んでいます。一方、限りなく無限に近い増殖が可能な多能性幹細胞(胚性幹細胞やiPS細胞など)の技術を利用できるとなると、牛の個体から筋肉の継続的な採取を行わずとも多能性幹細胞を出発原料として、いわば「第二世代」の培養肉を製造可能ではないかと期待されています。
今回の発表はその期待に応える可能性のある基盤技術になると考えています。
これまで牛の受精胚から多能性幹細胞の樹立および維持の報告はアメリカ、イギリス、中国にてあるものの、日本国内ではありませんでした* 。今回の発表は、遺伝子組み換え技術をはじめとした外来遺伝子の導入や特殊な薬剤によるリプログラミング技術や不死化技術を使用することなく、培養肉での利用を目的として、国産牛の受精胚から数十継代の長期間にわたり分化可能なウシ受精胚由来の多能性幹細胞を樹立および維持したことが新しい点となります。我々はこの多能性幹細胞の樹立および維持の技術を特許申請しました。なお、この技術により樹立した細胞を「BEEF細胞(Bovine Embryo-derived stem cell for Engineered Food または Bovine Embryo-derived Element Forming cell )」と呼称しております。
*:自社調べ(2023年6月現在)。一部、続報のないまたは維持のできない樹立事例の国内報告あり。
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BEEF細胞に関するこれまでと現在の技術的な取り組み
・iPS細胞などの既存の分化技術の改変・応用して、食用肉で主たる構成細胞のひとつである骨格筋細胞に分化すること(下図1、図2)、さまざまな細胞に分化することを確認しております(下図3(外胚葉系への分化)、図4(中胚葉系への分化)、図5(内胚葉系への分化))。
・より低価格で安定したBEEF細胞の培養を可能とする培養液の開発をナカライテスク株式会社(京都府京都市 代表取締役社長:半井 大)と共同で取り組んでおります。
・姉妹会社の株式会社Hyperion Drug Discovery(奈良県奈良市 代表取締役社長:嶽北和宏)と大日本印刷株式会社(東京都新宿区 代表取締役社長:北島義斉)が共同開発した3次元大量培養用の可溶性マイクロキャリア技術を使って、BEEF細胞やBEEF細胞から得られた培養肉を構成する分化細胞について大量培養技術の適用を模索しております(下図6(可溶性マイクロキャリア上の分化細胞)) 。
・過去のBSE問題から考えられる安全性の課題に対応して、ゲノム編集技術によるプリオン遺伝子を欠損したBEEF細胞の樹立を行なっております。
・大阪歯科大学 医療イノベーション研究推進機構(馬場俊輔機構長)と協働して、毒性学的なアプローチによるBEEF細胞、分化細胞、最終製品(食品) 、製造工程由来の残留物などのリスクアセスメントを行っています。
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会社概要
株式会社Hyperion FoodTechは、規制の厳しい医薬品や再生医療の実用化に向けた開発を専門とした研究者が創業メンバーで、レギュラトリーサイエンスやバイオテクノロジーの技術や考えを最大限活用した開発を行っています。より厳しい安全性が求められる食品分野において、人が日常的に摂取しても問題のないような「より安心・安全」な培養肉を目指して、原料の開発、プロセスの開発、周辺技術の開発を、再生医療開発で培われた“リスク・ベース・アプローチ”を基本とした姿勢で研究開発していることが特色です。日本から世界に発信できる可能性を持つ培養肉事業の成長、ひいては日本の食文化を様々な企業と発展させていくべく、BEEF細胞や培養技術などを占有するのではなく他企業へ有償で提供していくことも事業として検討しております。
会社名 : 株式会社Hyperion FoodTech(ハイペリオンフードテック)
代表者 : 嶽北和宏(たけきたかずひろ)
所在地 : 奈良県奈良市(本社)、東京都渋谷区(研究所)
設立 : 2023年4月