1.研究結果サマリー
①泡盛粕発酵飼料を与えた牛の呼気メタンガス量が減少(特許出願中)
②泡盛粕発酵飼料を与えた牛の糞便の短鎖脂肪酸量が増加(特許出願中)
2.研究の背景
当社およびグループ会社は、ウェルビーイングな社会実現を目指し、2013年より石垣で循環型農業を実践しています。パイナップルジュースを生産する際に生じる搾り粕を、ブランド豚である南(ぱい)ぬ豚の飼料に活用し、その糞尿を堆肥として土壌に還元、栽培したパイナップルをジュース等に加工する取り組みを進めています(図1)。
日本のメタン排出量のうち、牛などの消化管内発酵で排出されるメタンは27%を占めており(2019年確報値)、温室効果ガスの排出削減技術の開発が課題となっています。これまで、メタン低減に効果的であった抗生物質については、耐性微生物の出現などの懸念から、その使用を禁止する地域(EU)や、今後の継続使用に慎重な地域(日本他)があります。
そこで、当社では環境負荷の少ない方法により、メタンガスの低減対策に取り組んで参りました。石垣島の泡盛メーカーでは製造過程で蒸留粕が副産物として発生し、不要な蒸留粕の保管や廃棄に苦労してきた歴史があります。やえやまファームでは、その泡盛粕を発酵して飼料に配合し、牛の呼気中メタンガスに及ぼす影響について検証を行ってきました。
3.結果
①泡盛粕を含む飼料を与えた牛の呼気メタンガス量の減少(特許出願中)
泡盛の蒸留粕を配合した発酵飼料を与えた牛(泡盛粕投与群)と、通常飼料を与えた牛(通常食群)で、呼気中のメタンガスを測定したところ、泡盛粕投与群の呼気中メタンガス濃度は有意に減少していることが確認できました(図2)。また、文献値を基にメタンガス濃度からメタンガス発生量(L/day/頭)を算出したところ、泡盛粕投与群のメタンガス発生量はおよそ47%減少していることを確認しました(図3)。
②泡盛粕を含む飼料を与えた牛の糞便中短鎖脂肪酸の増加(特許出願中)
泡盛粕投与群と通常食群の牛について、糞便中の短鎖脂肪酸を測定したところ、泡盛粕投与群において、短鎖脂肪酸の1種である酢酸の量が有意に増加していることを確認しました(図4)。また、短鎖脂肪酸である酪酸、プロピオン酸でも同様の傾向が認められました。このことから、泡盛粕発酵飼料の投与が牛の腸内環境に影響を与える可能性が示唆されました。短鎖脂肪酸は、動物の組織でエネルギー源となり、脂肪を合成する材料としても利用されることが知られています。
4.今後の展望
本研究により、泡盛の製造副産物である蒸留粕を発酵させて牛の飼料に配合することにより、牛の呼気から排出されるメタンガス濃度や発生量が減少することが分かりました。メタンガスは地球温暖化の原因として世界的な課題と考えられており、今後も環境負荷を低減する方法やメカニズム解明の研究を進めていきます。
一方、短鎖脂肪酸は反芻家畜の主要なエネルギー源になることが知られており、脂肪の質や肉質の改善にも寄与できる可能性を探っていきます。泡盛の蒸留粕の研究を通じ、地域の活性化や循環型農業などサステナブルな社会の実現にチャレンジしていきます。