日本人の安全や私たちNGOの活動にも影響するこの動きに対し、海外で実際に支援活動を行う団体・日本国際ボランティアセンター(JVC)が声明を発出し、警鐘を鳴らしています。
メディアの皆さまには、ぜひJVCの意見について、ご取材をいただけますと幸いです。
4月15日にスーダンで大規模な武力衝突が発生し、在留邦人の退避を支援するとして自衛隊の輸送機がジブチに派遣されました。4月25日には、首都ハルツームからポートスーダンに陸路で移動した邦人とその家族45名が自衛隊機でジブチに退避しました。
この邦人退避には日本国内で大きな注目が集まりました。報道やSNSの書き込みでは、こうした事態に備えて自衛隊の海外での体制を強化すべきといった意見が少なくありません。しかし自衛隊の海外派遣には、紛争に巻き込まれその当事者となる可能性がつきまといます。もしそうなれば平和国家日本への信頼が失われ、日本人の安全や私たちNGOの活動にも影響します。
私たちは、自衛隊の海外派遣と海外拠点の強化に反対し、邦人が退避を迫られる状況がそれらを正当化するために利用されてはいけないと考えます。
(1)戦闘地域での邦人保護はリスクが高く現実的ではない
憲法に基づく「専守防衛」の基本姿勢にも関わらず、自衛隊は1990年代から中東地域を中心に海外派遣を繰り返し、2011年にはジブチに初の海外拠点を設けました。拠点設置は当初「海賊対処」が理由とされましたが、2020年以降の海賊事案は年間に0~1件にすぎません。現在では海賊と並んで「在外邦人等の保護・輸送等」がジブチ拠点化の理由になっています(注1)。
しかし、自衛隊による邦人の救援・保護は、戦闘地域ではリスクが高いため現実的ではなく、治安が安定した場所では必要ありません。
今回のスーダンの例において、多くの邦人が滞在していた首都ハルツームからポートスーダンへの陸路移動は、国連が主導した車列(コンボイ)によるものでした。自衛隊は激しい武力衝突が生じていた首都ハルツームに輸送機を派遣することはできず、派遣先となったのはポートスーダンでした。
しかし、戦闘地域から離れたポートスーダンは比較的安定しており、そこから国外に退避する手段は自衛隊機だけではありませんでした。ポートスーダンには様々な国籍の在留外国人が退避してきましたが、そこから先は軍用機だけでなく国連機や民間のチャーター船など様々な手段で国外に退避しています。日本政府が邦人の救援を行うとしても民間チャーター機やチャーター船という選択肢が十分にあり得たのではないでしょうか。
(2)邦人保護を理由に軍事的関与を高めるのはかえって危険
一方で、直接ハルツームに救援機を派遣した米軍などを引き合いに、自衛隊の体制をもっと強化して実力で救援ができるようにしたほうがよいと訴えるコメントもSNS・ネット上で散見されました。
すでに日本は他国との防衛協力を進め、武器の供与など軍事的関与を強めようとしています(注2)。関与する国でひとたび国内紛争が勃発すれば、自衛隊が紛争に巻き込まれたり、日本が援助した武器が現地の人々に向けられる可能性は否定できません。日本に対する敵対感情がわき上がり、日本人が攻撃対象になる危険性もはらんでいます。中立的な立場で活動する日本のNGOの職員にも危険が及ぶかもしれません。
今回ハルツームでの救出作戦を実施した米軍やフランス軍は、これまでアフリカや中東で軍事行動を実施してきた経験を持っています。しかしその軍事行動とは、相手国への介入や誤爆などによる現地住民の殺害をも含んでいます(注2)。決して日本が見習うべきものとは思えません。
(3)軍事駐留は相手国の主権の侵害
そもそも、「自国民保護」のためであれば他国に軍を派遣し駐留してもよいのでしょうか。
軍事駐留は、相手国の主権の侵害にほかなりません。国家間の条約や協定に基づく駐留であっても、軍による住民への権利侵害が現地の国内法で裁けないなど、相手国の主権が侵害されることは沖縄など在日米軍基地の問題からも分かることです。
日本とジブチの間には自衛隊駐留にあたって「地位協定」が結ばれていますが、その内容は、日米地位協定以上に不平等なものだと指摘されています(注3)。現地の目線に立って考えれば、日本はすでに「加害者」になっているのです。
(4)平和主義によって築く信頼関係が安全につながる
これまで世界の各地、とりわけ中東やアフリカでは、軍事的な介入を行わない平和国家・日本に対して大きな信頼が寄せられ、それが現地で生活する日本人の安全を守ることにつながってきました。信頼関係があってこそ、緊急時に現地の関係者に協力を仰ぎ、安全で現実的な退避方法を見出すこともできます。それは日本の平和主義による財産です。
ところが日本政府は今、国内での防衛力を増強しながら海外での軍事的関与も強めようとしています。それによって日本のイメージが変質しこれまでの信頼が失われれば、現地での日本人の安全にも影響が出かねません。
私たちの安全のためにも、自衛隊の海外派遣をとりやめ、戦争のない世界に向けて外交努力を続け、あらゆる国と信頼関係を築くことを日本政府に求めます。
(注1)昨年12月に閣議決定された「安保3文書」の「国家防衛戦略」では次のように述べられている。「特に、海賊対処、在外邦人等の保護・輸送等、この地域における運用基盤の強化等のため、ジブチとの連携を強化し、同国において運営している自衛隊の活動拠点を長期的・安定的に活用する」
(注2)新しい動きとして、「安保3文書」に基づいて2023年度から「政府安全保障能力強化支援(OSA)」が導入され、「同志国」に対する武器・軍事インフラの無償援助が実施される。
(注3)アメリカは、イラク侵攻によって多くの民間人の犠牲を出したことが広く知られているが、アフリカでもニジェールやソマリアで軍事作戦を行ってきた。1990年代にはスーダンの民間施設を誤爆している。フランスは「テロリスト掃討」の名目で西アフリカのマリに派兵、2021年には空爆で民間人を殺害したことが国連により報告された。その後撤退している。
(注4)日米地位協定では米兵が起こす事件・事故を公務と公務外とに区分けし、公務外の場合には日本の司法権が及ぶ。これに対して日本とジブチとの地位協定では、自衛隊員が公務外で事件・事故を起こした場合も現地の法律から免責される。
【本件に関するお問い合わせ先】
特定非営利活動法人日本国際ボランティアセンター(JVC)
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