セブ日本人会では、日比文化交流と戦没者慰霊のために、2013年から盆踊り大会を開催している。パンデミックの影響で4年間開催が見送られてきたが、今年、ようやく開催ができ、2万人を超える来場者を記録し、大成功を遂げた。
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150万人の犠牲の上にある今の平和
フィリピンでは、日本人が忘れてはいけない歴史がある。
1944年から1945年のフィリピンの戦いでは、アメリカ軍率いる連合軍と日本軍が、ここフィリピンで激しい戦いを行われた。結果、何の罪もない100万人以上のフィリピン人、50万人以上の日本兵がフィリピンで亡くなった。その多くが、私たちと同じ、夢や希望を持った若者だった。彼らは家族のため、未来の平和のために、激しい戦火の中戦い、飢えや疫病に苦しみながら、この地で亡くなった。
そして、78年がたった今、彼らの犠牲の上に今の平和がある。彼らの死に報いるために、私たちにできることは、かつては命を奪い合っていた日本人とフィリピン人が、手に手を取って仲良く幸せに生きることではないかと考える。
そして、自分たちの親や祖父母を日本兵に殺されたという事実がありながら、それを「許し」、日本人である私たちを温かく迎えてくれるフィリピン人に、感謝して生きていきたい。
そんな想いを胸に、セブ日本人会盆踊り実行委員が中心となり、コロナ、スーパー台風を共に生き抜いた仲間たちが、手に手を取って「新たな歴史」を作り始めようと、この盆踊り大会を企画運営してきた。
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和太鼓チームGOCOOと現地の子どもたちとの約束
和太鼓チームGOCOOと、セブ島の貧困層の子どもたちを支援するNPO法人DAREDEMO HEROの子どもたちは2017年、第4回盆踊りで出会った。
初めて和太鼓に触れた子どもたちは、その音に魅了され、目を輝かせて和太鼓を打った。そして、GOCOOのメンバーが、子どもたちにある一曲に込められた想いを共有してくれた。
戦争や災害、悲しい出来事が起こるこの世界、それでも人々が幸せに笑ってくらせるように、世界の平和を願って作られた「eleven」を、いつか一緒にステージで演奏することを約束した。
2019年その約束を果たすために、クラウドファンディングを行い、子どもたちも素振りでの練習を続けた。しかしパンデミックにより2019年盆踊りは延期となってしまった。パンデミック期間中、オンラインでの共演を果たし、子どもたちは「いつか必ずGOCOOと一緒にステージでelevenを演奏する!」という約束を諦めなかった。
そして、2023年やっとその約束がはらされる時が来た。セブに和太鼓がないため、子どもたちはYouTubeの動画を見て、素振りでの練習を続けた。スケジュールの関係上、GOCOOとの合同練習は本番当日のみ。そのような状態でも、2017年に太鼓を打った経験のある年長者が、小さな子どもたちをしっかりとサポートし、本番当日ステージ上で立派な演奏を行うことができた。
貧困層の子どもたちは、欲しいもの、やりたいこと、たくさんのことを諦めて、自分に自信を持てない子どもたちも多い。そんな子どもたちが、数千人を前に堂々と笑顔で演奏をやり切り、会場からの盛大な拍手を受けることで、大きな達成感と共に大きな自信をつけることができた。
貧困層は、貧困がゆえに手に入れられないもの、叶えることができないことが多く、諦めることで今の幸せを感じようとする傾向がある。「諦めなければ、絶対に夢はかなう」ということを、DAREDEMO HEROでは子どもたちに伝え続けている。今回の和太鼓の共演で、子どもたちにその言葉の意味を体感することができたはずだ。
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貧困地区での和太鼓ワークショップ
5月5日:国際コンベンションセンター(CICC)
盆踊り会場の目の前には、巨大な貧困集落がある。ここは、元々は国際コンベンションセンターとして作られた場所だが、台風などの被害により建物は崩壊し、現在は500世帯以上の火災被災者が住んでいる。
この場所の周辺には、ショッピングモール、高級ホテル、高級コンドミニアムが立ち並んでるが、ここに住む子どもたちは、学校にすら行けない子どもたちも多い。そのような環境の中で、外国の文化に触れることはほぼ皆無で、日本文化も知る由もない。そこで、盆踊り前日にGOCOOがこの地を訪問し、100人の子どもたちを招待して和太鼓のワークショップを開催した。
子どもたちは初めて見る和太鼓、そしてその音色に初めは、目を丸くしていたが、自分たちが演奏する番になると、一気に目を輝かせ、満面の笑顔で和太鼓を打っていた。子どもたちにとっては、一時の楽しみだったかもしれないが、この経験がいつか子どもたちにとって何かのきっかけになってくれればと願っている。
5月9日:イナヤワン最終ゴミ処理場
DAREDEMO HEROのラーニングセンターのある、イナヤワン地区でワークショップを開催。ここはかつてセブ中のゴミが集まる場所で、人々はゴミの中から売れるものや、まだ食べられるものを探して、生きてきた。今は、限られゴミみしか運ばれてこなくなったため、ここに住む人々も減少している。それでも、この場所でしか生きる術を持たない人々が多く住み続けている。
現在DAREDEMO HEROでは、この地区に住む子どもたち25名を支援しており、その子どもたちを対象にワークショップを開催した。和太鼓の音を聞きつけ、近隣住民も集まり、和気あいあいとワークショップを開催することができた。
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来た時よりも美しく
フィリピンでは、まだまだゴミのポイ捨てが当たり前で、大きなイベントやコンサートが開催されるたびに、会場にはたくさんのゴミが捨てられ、問題になっている。
盆踊り大会では、会場にはEco Stationを設置し、ゴミの分別を普及したり、プログラム中にゴミ拾いの時間を入れたりして、エコフレンドリーなイベントを目指した。会場を訪れた観客も、視察に見えた行政関係者も、これだけの来場者がいる中で、美しい会場が保たれていることに驚きと共に、日本文化への敬意を表してくれた。
2日の開催が無事に終わった翌日にも、日本人会理事らが会場を清掃し、「来た時よりも美しく」の日本文化を、現地の人々に伝えることができた。
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真の日本文化を伝える
盆踊り大会には、多くのコスプレイヤーが来場し、日本のサブカルチャーを存分に楽しんだ。
盆踊り大会では、サブカルチャーだけでなく真の日本文化を伝えるために、和菓子職人に参加いただき、和菓子の販売やワークショップを開催頂いた。さらに、秋田西馬音内盆踊りチームに参加いただき、「静と動」の日本文化を多くのフィリピン人に体感してもらうことができた。
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日本人とフィリピン人の強い絆
4年ぶりの開催ということもあり、まさに手探り状態での運営となったが、新たに参加した運営委員、2013年スタート時よりボランティアとして関わってくれてきた現地の若者たち、盆踊りを支えてきてくれた日系企業や、現地企業の皆様の多大なるご支援とご協力を得て、当日を迎えることができた。
現地ボランティアだけでも、100名を超す参加があり、留学中、現地企業に勤める日本人ボランティアも30名以上参加した。彼らが国境や文化、言語を超えて力を合わせたからこそ、盆踊りを無事に執り行うことができた。
開催までには、様々なトラブルや困難があったが、無事に2日間を終えることができた。会場を埋め尽くした2万人の人々が日比の垣根を越えて、笑顔で盆踊りを踊る姿を、天上から多くの魂が見守ってくれていたことは間違いない。
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「すべての子どもたちが夢と希望をもって 努力が正当に報われる社会を実現する」
NPO法人DAREDEMO HERO
理事長 内山 順子
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和太鼓協力
有限会社タヲ
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盆踊り主催
セブ日本人会
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