ふるさと納税において、よそ者だからこそ地域の魅力を再発見し、ふるさとを活性化する。山形県上山市の分析レポートを発表しました。

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山形県上山市は、開湯から約560年を誇るかみのやま温泉や武家屋敷など、江戸時代からの名残が今なお感じられる歴史ある都市であり、さくらんぼやラ・フランスなどの果物に加え地産ぶどうを使用したワインなど、魅力的な地域産品にも恵まれています。そうした資源を活かした取組として、市民はもちろんのこと、市を訪れる人も健康になれるまちを目指す「上山温泉クアオルト(健康保養地)事業」にも取り組んでいます。今回は、ここ上山市でふるさと納税を担当されている川島啓太氏にお話をお聞きします。川島氏は、平成25年度の市役所採用から庶務課秘書・広報グループにて市長秘書業務に従事され、平成30年度から現在のふるさと納税業務に携わっておられます。北海道函館市ご出身の川島氏は、インタビュー中にご自身のことを「よそ者」と称されていました。よそ者ながら地域に溶け込み、ふるさと納税を推進してきた川島氏のお話をお聞きします。

上山市のふるさと納税の概略

上山市のふるさと納税は寄付拡大傾向にあります。お陰さまで2年連続で20億円を超えることができました。令和3年は霜の被害により主力のさくらんぼが提供できず寄付額が伸びませんでしたが、令和4年は12月末時点ですでに25.5億円と、今年度は大幅な伸びが期待できます。理由としては、通年に渡り提供できる返礼品が増えたことに加え定期便のヒットも後押しになり、4月から6月にかけて前年対比2倍で推移したことが寄付増加への大きな要因です。

 

業務は正職員2名と会計年度職員2名の4人体制でやっています。業務委託として、返礼品管理を地元の観光協会さん。ワンストップ処理と楽天サイトのデザインをシフトプラスさんにお願いしています。
 

寄付参画者の裾野を広げて地域PRを推進する

上山市には寄付単価が低いという特徴があります。寄付単価が低いとはすなわち、初めての寄付者にとっての敷居が低いということです。初めてのふるさと納税先として選ばれることが多いため、ふるさと納税制度やワンストップ制度など、基本制度そのものに対する問い合わせにも丁寧に対応しています。

一般的に、ふるさと納税担当者としては寄付単価を高めねばならないという意識は強いものかもしれません。しかし私は、寄付額は少額でもいいと思っています。事業者さんにとって、例えば3000円の返礼品なら提供しやすい一方で、1万円となるとハードルが上がってしまいます。同じように少額寄付であればふるさと納税未経験の方でも始めやすいですものね。

 

件数ベースでいけば令和3年度は全国で20位。山形県で1位となりました。確かに業務負担が増えて大変な部分はあますが、事業者に対しても寄付者に対してもふるさと納税へ参入しやすい環境を提供した結果であると、ポジティブにとらえています。

私たちは、寄付額そのものの拡大というより、地場のPRのためにふるさと納税に取り組んでいます。市外から来た私から見れば、ここ上山市には地域資源が豊富です。しかし市民の方からは「うちには何もない」と平然と言われることがあり驚きます。
地域資源が本当に乏しい自治体ならば、使えそうなものを必死なって探したり魅力発信の方法に知恵を絞ることもあるでしょう。しかし逆に地域資源がある自治体は、当たり前に存在する資源そのものに頼ってしまい、魅力を発見し発信していく工夫に欠けがちになるかもしれません。

そういう意味で、よそ者の私だからこそ、ふるさと納税を通じて地場のPRに取り組んでいきたいと思っています。

 個人農家1人1人ごとの取材で親身な情報発信

 事業者対応について大切にしていることは、なるべくその事業者や地域産品のストーリーを知った上で情報発信するということです。

上山市の場合、個人農家さんごとの活動が活発で、ポータルサイトでは返礼品を個人農家さんごとに掲載しています。本来であれば、個人農家さんそれぞれの栽培方法や品種の違いをもっと詳しく掲載したいのですが、寄付者からのメール対応などの日常業務の比率が大きくなってしまっており、みなさん1人1人のお話をまだまだ十分にお聞きできていないという悔しい思いがあります。これは今後の課題ですね。私たち市職員だけではなく観光協会さんとの連携も強化し実現していきたいです。

事業者が安心して参画できる環境づくり

個別の情報発信に加え、事業者さんにとって安定的な受注を確保し、安心して栽培に集中できる環境を整えたいというこだわりがあります。

特に寄付が集中する年末に備えることは大事です。年末に注文が多く入りそうな事業者さんに対し、どのように生産、在庫していくかのお話を事前にさせていただいています。また、事業者説明会では、年間を通じてどの時期に寄付が増えるのかの情報を提示します。この情報を踏まえ、返礼品を増産するのか、または、さばききれないならどのタイミングで注文をストップすべきか。そういった戦略の話をしています。

私たちとしても、日頃から各サイトの在庫チェックを欠かさないようにし、動きのよいサイトへ在庫の比重を動かすなど、在庫管理を徹底しています。

 ふるさと納税が生み出すサイクル

私がふるさと納税の担当になって約5年。寄付を通じて市の事業が活性化され、それが市民にも寄付者にも還元されていくサイクルを作りたいという目標を持ってやってきました。
 

上山市では、健康分野においてふるさと納税を通じた支援を受け入れていて、具体的な事業としてかみのやま健康ポイント事業があります。これは、健康づくりに関する行動(ウォーキングや体操、教室参加等)に対してポイントが獲得でき、貯まったポイントに応じて商品券と交換できるもので、令和2年10月のスタート以来、多くの方が楽しみながら健康づくりに取り組んでいます。こうしたふるさと納税を活用した循環を生み出すことは出来ていますが、効果の可視化や発信についてはまだまだ不足していると感じています。ホームページで寄付の使い道の報告をより詳細にしていくため、市役所内の横の連携を強化する必要があると思っています。

ふるさと納税業務の魅力はやりがいと一体感

市役所の他の部署では成果が数字ではっきりと出ないことがありますが、逆にふるさと納税では努力が寄付額という形となって見えやすく、評価されやすいという特徴があります。他にも相手先が寄付者、事業者、ポータル、中間事業者など市民以外のことがよくあります。ふるさと納税に関わる人は前向きな人が多いと感じます。特に全国の自治体の担当者の方々とのつながりは貴重で、多忙な年末にはこれが心の強い支えになっています。

数値で成果がはっきり見えるやりがいとみんなでがんばっている一体感。これがふるさと納税業務に携わる魅力です。

あとがき=インタビューを終えて

よそ者だからこそ、その地域の良さがわかる、という考えに納得できました。川島氏は自治体での業務以前には民間企業にもお勤めになっており、社会人としての経験も豊富です。いきなり市長秘書という大役を任せられたのも、川島氏のコミュニケーション力やよそ者視点を市長は期待されていたのかもしれません。

ふるさと納税の寄付を集めるための戦略としては、通年に渡って提供できる返礼品を用意したり、ワンストップ対策として低額寄付を狙っています。事業者とのコミュニケーション強化も大切にされています。

よそ者視点と事業者ファーストが、ふるさと(地元)を変えていくことを期待しています。

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社名:株式会社ふるさと納税総合研究所本社所在地:⼤阪府⼤阪市
代表取締役:⻄⽥匡志(中⼩企業診断⼠、総合旅⾏業務取扱管理者)
事業内容:ふるさと納税市場における調査、研究、アドバイザリー、コンサルティング、ソリューション提供等
HP:https://fstx-ri.co.jp/
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