※1 東日本大震災の甚大な被害を受け、国による復興計画の一環として東北大学東北メディカル・メガバンク機構(以下 ToMMo)、および岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)により計画された調査。震災による中長期にわたる地域住民の方々の健康状態の影響を調査するとともに、調査を通じて地域住民の方々の健康向上に資することを目指している。
▼発表演題・発表者
「中高齢者における血中ドコサヘキサエン酸と加齢に伴う血管機能低下との関連」
サントリーウエルネス株式会社 健康科学研究所
佐々木秀幸、金田喜久、櫓木(ろぎ)智裕、出雲貴幸、中井正晃
▼研究の背景
長鎖不飽和脂肪酸(以下n-3LCPUFA)であるDHAやエイコサペンタエン酸(以下EPA)は、循環器疾患予防に対する有効性が多く報告されています。循環器疾患の発症には、血管の機能低下や形態変化を伴うことがわかっており、血管内皮機能の指標である血流依存性血管拡張反応(以下FMD)や、血管の柔らかさの指標である脈波伝播速度(以下PWV)、血管壁の厚みの指標である内膜中膜複合体厚(以下IMT)などによって評価されています。加齢に伴い、FMDは低下し、PWV・IMTは増加することが知られていますが、これらの一連の血管機能と血中DHAやEPA量との関係性は明らかになっていませんでした。
今回我々は、血中のn-3LCPUFA組成が加齢に伴う血管の機能低下や形態変化に関連していると考え、DHA・EPAを対象に検討しました。
▼解析方法
東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査に参加した、50歳から74歳の男女で、非喫煙者※2、かつ糖尿病の罹患歴や調整因子(生活習慣など)の欠損値が含まれない286名を対象に、血管機能検査値や臨床検査値、生活習慣などを含む情報および血漿をToMMoより入手しました。加齢に伴う血管機能の変化を解析し、またガスクロマトグラフィー※3により分析した血漿リン脂質中の脂肪酸組成をもとに4つのグループに分け、DHA・EPA組成の少ない順に第1、第2、第3、第4グループと分割し、DHA・EPA組成と、FMD・PWVおよびIMTとの関連について解析しました。
※2 現在禁煙者、および直近1年で家庭や職場において受動喫煙が時々あるいはほとんどない方
※3 気体や液体(試料気化室の熱で気化する成分)の性質や量(濃度)を測定する装置
▼結果
加齢に伴いFMDは有意に低下した一方で、PWVおよびIMTは有意に増加しました。DHA組成について、最も組成の低い第1グループと比べて最も組成の高い第4グループではFMDが有意に高くなり、PWVおよびIMTは反対に有意に低くなりました(図1)。EPA組成については、FMD、PWVおよびIMTとの関係性は認められませんでした。なお、対象者全体のDHA組成とEPA組成の平均値は、各々8.1%、3.1%であり、国内の同年代の集団を対象とする調査報告※4と同程度の値でした。
※4 Kawabata T et al, Prostaglandins Leukot Essent Fatty Acids. 2011; 84(5-6):131-7.
図1.DHA組成と血管機能との関連
▼まとめ
日本の一般的な50歳から74歳の男女を対象として、加齢に伴ってFMD、PWV、IMTの一連の血管機能が低下する中、高いDHA組成のグループではこれらの一連の血管機能で良好な値を示しました。
以上のことから、中高齢者の加齢に伴う血管の老化に対して、高い血中DHA量は血管機能を介した血管の老化抑制に寄与する可能性が示唆されました。
以上