企業倒産、4-9月で3年ぶり増加 コロナ禍の減少傾向から一転、増加に転じる― 全国企業倒産集計2022年度上半期報

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帝国データバンクは、2022年度上半期の企業倒産件数(負債1000万円以上の法的整理が対象)について集計し、分析を行った。

2022年度上半期(4~9月)倒産動向2022年度上半期(4~9月)倒産動向

年度半期別倒産件数推移年度半期別倒産件数推移

<概況>
2022年度上半期の倒産件数は3123件(前年同期2938件)となり、前年同期から6.3%増加し、2019年度上半期以来3年ぶりの増加となった。コロナ禍で減少が続いてきたが、2022年5月以降は増加基調が続き、年度半期ベースではコロナ禍で初の増加となった。

負債総額は1兆7657億9500万円(前年同期5784億7000万円、205.3%増)と、2017年度上半期以来5年ぶりに1兆円台を記録した。

倒産件数推移倒産件数推移

<主要ポイント>

  1. 業種別にみると、小売業除く6業種で前年同期比増加。建設業(前年同期512件→622件、21.5%増)、年度上半期として2008年度以来14年ぶりの2ケタ増
  2. 規模別にみると、負債1~10億円規模の中規模倒産が増加
  3. 業歴別にみると、業歴「30年以上」は1014件、業歴100年以上の「老舗倒産」は37件発生
  4. 地域別にみると、9地域中7地域で前年同期比増加。東北(前年同期107件→147件、37.4%増)は、年度上半期としては過去20年で初の前年同期比30%超を記録

■業種別
小売業除く6業種で増加、建設業は年度上半期として14年ぶりの2ケタ増

業種別件数業種別件数

業種別にみると、小売業を除く6業種で前年同期を上回った。建設業(前年同期512件→622件、21.5%増)では、年度上半期としては2008年度以来14年ぶりの2ケタ増を記録。特に、空調工事や給排水工事など一般管工事を中心とした設備工事(同96件→153件)の増加が、全体を押し上げた。運輸・通信業(同133件→168件、26.3%増)では、燃料費高騰やドライバー不足の影響を受け、道路貨物運送(同86件→113件)で増加が目立った。サービス業(同685件→811件、18.4%増)は、2009年度以来13年ぶりの前年同期比2ケタ増。特に、経営コンサルタントなど専門サービス(同103件→136件)や、病院など医療業(同47件→60件)などで増加が目立った。

一方、小売業(前年同期693件→559件、19.3%減)は、3年連続で前年同期比減となった。

■倒産主因別
「不況型倒産」の件数は2382件、構成比は76.3%

倒産主因別件数推移倒産主因別件数推移

主因別にみると、「不況型倒産」は2382件(前年同期2248件、6.0%増)と、年度上半期として3年ぶりの前年同期比増加。構成比は76.3%(対前年同期0.2ポイント減)を占めた。

最多は「販売不振」が2339件(前年同期2216件、5.6%増)で、構成比は74.9%(対前年同期0.5ポイント減)を占めた。また、「業界不振」(同16件→31件、93.8%増)は、前年同期比90%超の大幅増を記録した。一方、「売掛金回収難」(同8件→6件、25.0%減)では、2015年度上半期以来7年ぶりに3年連続の減少となった。このほか、「経営者の病気、死亡」(同128件→140件、9.4%増)は、年度上半期としては過去20年で最多となった。

  • 倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計

■倒産態様別
「清算型」倒産は3015件、構成比は96.6%

倒産態様別倒産態様別

倒産態様別にみると、「清算型」倒産の合計は3015件(前年同期2849件、5.8%増)、「再生型」倒産は108件(同89件、21.3%増)となった。清算型倒産、再生型倒産ともに年度上半期としては、2019年度以来3年ぶりの増加となった。

「破産」は2895件(前年同期2707件、6.9%増)、「特別清算」は120件(同142件、15.5%減)だった。特に、破産は年度半期ベースで150件以上増加し、増加幅は年度上半期としては13年ぶりの高水準。一方、特別清算は4年ぶりに減少となった。

このほか、「民事再生法」は107件(前年同期89件、20.2%増)。うち66件が個人事業主であり、民事再生法全体の61.7%を占めた。

■規模別
負債1~10億円規模の中規模倒産が増加

規模別倒産件数規模別倒産件数

負債規模別にみると、負債「5000万円未満」の倒産は1786件(前年同期1777件、0.5%増)、構成比は57.2%を占めた。また、「5億円未満」や「10億円未満」でも前年同期比2ケタ増となるなど、1~10億円規模の中規模倒産の増加が目立った。

資本金規模別では、資本金1000万円未満(個人事業主含む)の倒産は2078件(前年同期1934件、7.4%増)、構成比は66.5%を占めた。

■業歴別
業歴「30年以上」の倒産は1014件、業歴100年以上の「老舗倒産」は37件発生

業歴別倒産件数業歴別倒産件数

「業歴別にみると、業歴「3年未満」(前年同期137件→151件、10.2%増)、「5年未満」(同184件→228件、23.9%増)、「10年未満」(同428件→540件、26.2%増)といった業歴10年未満の新興企業(同749件→919件、22.7%増)は、3年ぶりの増加となった。新興企業全体で前年同期比20%を超えたのは、年度上半期としては2008年度以来14年ぶり。

一方、業歴「30年以上」の倒産は1014件(前年同期1025件、1.1%減)で、年度上半期としては6年ぶりとなる2年連続の前年同期比減となった。このうち、老舗企業(業歴100年以上)の倒産は、37件発生した。

このほか、「30年未満」(前年同期426件→460件、8.0%増)は5年ぶりの増加となった。

■地域別
9地域中7地域で前年同期比増加、四国は年度半期ベースで過去最少

地域別倒産件数地域別倒産件数

地域別にみると、9地域中7地域で前年同期を上回った。関東(前年同期1092件→1167件、6.9%増)は、建設業(同185件→222件)や卸売業(同154件→185件)の増加が、全体の件数を押し上げた。東北(同107件→147件、37.4%増)は、山形(同20件→19件)以外の全県で増加し、年度上半期としては過去20年で初の前年同期比30%超を記録。また、近畿(同750件→789件、5.2%増)は、京都(同97件→141件)の増加が目立った。

一方、北陸(前年同期104件→99件、4.8%減)、四国(同69件→42件、39.1%減)の2地域では前年同期を下回った。特に、四国では香川(同20件→8件)など全県で減少したこともあり、年度半期ベースで過去最少となった。

■注目の倒産動向
「トラック運送業界」倒産動向:燃油高騰も「価格転嫁厳しく」 トラック運送の倒産が急増
2022年4-9月は99件発生 前年同期から1.5倍、過去5年で最多ペース

「トラック運送業界」の倒産「トラック運送業界」の倒産

国内物流の主力を担うトラック運送業界で、今年度に入り倒産が多発している。トラックやバンを使用して荷物を運送し、運賃を受取る「トラック運送(一般貨物自動車運送)」会社の倒産は、2022年4-9月で99件発生した。前年同期(65件)から約1.5倍と急増しており、4-9月期では過去5年で最多。燃料価格が大幅に上昇した14年度以来、8年ぶりの高水準で推移しているほか、SEHIRO(4月破産、負債約18億6000万円)など大型倒産も発生した。

トラック運送ではかねてからドライバー不足といった課題を抱える一方、ウクライナ侵攻以後の燃料コスト上昇と進まない運賃への価格転嫁など、折り重なる負担増に苦しむ。トラックの燃料となる軽油価格は今年に入り一時150円を超え、1年間で約20円上昇するなど急騰。一方で、収入となる成約運賃指数は近年ほぼ横ばい状態で推移しており、軽油価格の高騰に運賃上昇が追い付いていない。下請関係が多層に連なる同業界では「価格転嫁を認めてもらえない」といった訴えも相次いでおり、燃料コストが上昇したことで運賃交渉をしたものの不調に終わり、収益性の悪化に伴い倒産を余儀なくされた運送会社も複数発生した。

こうした業界の構造的な問題に加え、ドライバーの時間外労働を年間960時間に規制する「2024年問題」がトラック運送業界に迫る。多くのトラック運送会社が「今まで運べていたものが運べなくなる」ことで売上減少が想定されるほか、委託ドライバーを使用する会社ではインボイス制度対応による税負担の増加など課題は多く残る。対応できない中小零細のトラック運送業者ではM&Aによる再編や優勝劣敗が加速度的に今後進んでいく可能性がある。

コロナ融資後倒産:2022年4-9月は202件、前年同期から倍増 コロナ融資損失総額は推計276億円

「コロナ融資後倒産」は、2022年4-9月において202件(前年同期79件、155.7%増)発生した。建設業のほか飲食店、運輸業、食品卸といった分野で多く発生した。実際の融資額が判明した約140社のコロナ融資借入額平均は約6024万円だった。コロナ融資損失総額は推計276億5016万円にのぼり、国民一人当たり230円の負担が既に発生している計算になる。

円安倒産:4-9月としては5年ぶり高水準 円安倒産は14件、前年同期から7倍

円安による輸入コストの上昇などが直接・間接要因となって倒産した「円安倒産」は、2022年4-9月において14件(前年同期2件、600.0%増)発生した。4-9月としては2017年の21件以来5年ぶりの高水準となる。業種別では、食料品や繊維製品、機械部品の製造や卸売といった産業が中心で、いずれも急激に進んだ最近の円安が倒産要因として挙げられた。

■今後の見通し
倒産は「増加局面」へ 4-9月期では3年ぶり増加、1社当たり負債額も8年ぶり高水準

2022年度上半期(4~9月)の企業倒産は3123件となり、歴史的な低水準となった前年同期(2938件)を上回り、年度上半期としては3年ぶりの増加に転じた。2022年9月の倒産も583件発生し、前月(493件)、前年同月(512件)をそれぞれ上回り、5カ月連続の前年同月比増加。企業倒産は長らく続いた減少基調から増加基調へと転じている。

負債総額は1兆7657億9500万円(前年同期5784億7000万円)に急増し、5年ぶりの1兆円台となった。6月に民事再生法を申請した自動車部品大手のマレリホールディングス(埼玉、負債約1兆1856億2600万円)による影響が大きい一方で、この事例を除いた負債総額でも、前年同期を上回った点を注視する必要がある。倒産1社あたりの負債額平均(トリム幅上下1%)は約8000万円で、前年同期(7300万円/社)から増加。2014年度上半期以来8年ぶりに8000万円台へ到達した。大型倒産の発生は抑制されているものの、コロナ関連融資などを背景に膨らんだ借入金が押し上げる形で、倒産企業の負債額が足元でじりじりと増加している。

「ゼロゼロ融資」終了、迫る返済 中小企業の1割超が今後の返済「厳しい・できない」
コロナ禍で中小企業の資金繰りを支えた「実質無利子・無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)」の新規受付が終了した。民間金融機関の受付は既に終了していたが、政府系金融機関の受付も9月末をもって終了。コロナ禍という非常時の企業支援として、ゼロゼロ融資をはじめ応急止血的な資本注入を用いた危機対応は、売上高が急減した中小企業の資金繰り緩和に貢献し、企業倒産の発生を大きく抑制した点でかつての「中小企業金融円滑化法」と重なる部分がある。

こうしたなか、今後は「ゼロゼロ融資」の返済、なかでもゼロゼロ融資によって生じた中小企業の過剰債務問題について、その出口戦略策定が喫緊の課題となる。コロナ関連融資を借りたものの返済できずに倒産した「コロナ融資後倒産」は、22年4-9月で前年同期の約3倍となる202件が発生。また、コロナ関連融資を借り入れている企業約6000社のうち、約8割が返済に支障がない一方、1割超の企業では返済が難しい・返済できないなど『返済に不安』と回答したことが帝国データバンクのアンケート調査で判明している。長期化したコロナ禍に加え、円安やウクライナ危機など経営の足かせになる新たな事態が中小企業を襲うなか、円滑化法が実質終了となった翌年の19年度同様、返済原資が残っていない、今後の支払い負担に耐えきれないといった企業の「息切れ倒産」が続出しかねない懸念が残る。

私的整理の要件緩和へ、「法的整理回避」の動きに注視 中短期的には倒産増続く
こうしたなか、岸田首相は9月30日の閣議で、「物価高・円安対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」を3本柱とする30兆円規模の総合経済対策を策定するよう関係閣僚に指示した。なかでも、新たに検討される「私的整理円滑化法案」は、全債権者の同意を必要としない迅速な手続きを優先した債務整理方針とされており、過剰債務を抱えた企業の財務正常化や、経営内容が極度に悪化する前に予防的な対応を促す効果が期待される。課題はあるものの、実現すれば最終手段たる法的整理が回避される動きが一時的に強まる可能性はある。

現状の倒産件数はリーマン・ショック時ほどの絶対数はなく、金融機関の支援スタンスもリスケ対応を含め柔軟に行われている。ただ、「円安」「物価高」「人手不足」の三重苦で、企業を取り巻く収益環境は一段と厳しさを増している。中短期的な企業倒産は、コロナ禍でギリギリの経営を強いられてきた中小・零細企業を中心に、悪化する一方の経営環境に見切りやあきらめをつけた「息切れ倒産」が押し上げる形で、増加傾向が続くものとみられる。なかでも、既に大幅な倒産増加が目立つ建設・運輸・サービスの3業界の動向には注意が必要だ。

 
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