当社のゴメス・コンサルティング本部では、これまで国内の上場企業が提供する株主・投資家向け広報(以下、「IR」)サイトランキング調査を16回実施し、企業の情報発信について定点観測を続けてきました。こうした調査において顕著なESG情報への注目の高まりを受けて、2020年よりESGサイトランキング調査を開始しました。
日本国内においては、2023年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等における「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄の新設や、「従業員の状況」の記載における女性活躍推進法に基づく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標に関する開示が義務化されたこともあり、サステナビリティ全般や人的資本に関する情報が特に注目を集めています。
また、2023年3月には、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」とあわせて、「株主との対話の推進と開示について」を公表し、アニュアルレポートや自社ウェブサイトにおいて経営陣等と株主との対話の実施状況等を公表することを上場会社に要請しました。
こうした一連の社会的関心の高まり、制度改正等を背景に、ウェブサイトを活用した上場企業のESG情報の発信は加速度的に増加してきましたが、一方で、情報の優先度合いや業務効率化の観点からサイト構成や情報の掲載方法を見直す動きも目立ってきました。統合報告書を発行する上場企業が800社を超えたこともあり、統合報告書や他のレポート等とウェブサイトの使い分けや役割分担について、各社ごとの試行錯誤の様子も見られます。また、掲載情報の増加に伴い、ウェブサイト上での情報の見つけやすさ(ファインダビリティ)やわかりやすさの重要性も増しています。ウェブサイトは、幅広いステークホルダーを相手にする企業の顔であり、入り口でもあります。訪問目的だけでなく予備知識や理解度にも大きな隔たりが存在する多様なユーザーが訪れる企業のウェブサイトには、それぞれのユーザーに応じて必要な情報をわかりやすく届ける工夫がより一層求められていると言えるでしょう。
当社のESGサイトランキング調査では、調査項目は「ウェブサイトの使いやすさ」「ESG共通」「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」の5つの切り口(カテゴリ)から構成されます。調査項目は、主要ユーザーである株主・投資家だけではなく、幅広いステークホルダーの視点を盛り込んで設定されています。今年で4回目を迎えるESGサイトランキング調査では、例年に続き、国内外における非財務情報に関する制度改正、トレンドや社会的課題への注目度といった新規の要素も取り入れながら、これらをGomezのアナリストが評価し、総合的に優れたESGサイトのランキングを決定します。
「Gomez ESGサイトランキング2023」上位10社は、以下のようになりました。
※11位以下の総合ランキング結果はGomezのウェブサイトをご覧ください。
※前回順位は、「Gomez ESGサイトランキング2022」(2022年8月31日発表)に基づきます。
【総評とESGサイトのトレンド】
・153社を2023年「ESGサイト優秀企業」に選定
「Gomez ESGサイトランキング2023」ノミネート企業182社のウェブサイトから、総合得点6.00点以上に贈られる「ESGサイト優秀企業」に今年度は153社が選定されました。
今回で4回目となるESGサイトランキング調査は、5つのカテゴリから構成され、総合得点だけでなく、5つのカテゴリにおいても得点と順位の算出を行っています。本ランキング調査において本選ノミネート企業から最終調査に進んだ企業数は、2020年に実施した初回調査時は118社にとどまりましたが、本年は182社にまで増加しました。これは、まさに各社のESGサイト拡充のための取り組みの成果を表していると言ってよいでしょう。
本年の全体的な特徴としては、TCFDガイドランに沿った情報発信が一気に拡大したことから「E(気候)」カテゴリの情報発信が全体的に大きく推進したことが挙げられます、一方で、人的資本に関連する「S(社会)」カテゴリの情報発信については企業によって大きなばらつきが生じており、この点が総合スコアやランキングの結果にも影響を与えています。
例年に続き、前年から大幅にスコア・順位を上げて上位にランクインする企業も多く見られました。大きくスコア・順位を上げた上位企業は、「ウェブサイトの使いやすさ」について細やかな改善を重ねていることに加え、「ESG共通」カテゴリに属する評価項目であるサステナビリティに関する考え方、マネジメントメッセージ、マテリアリティや価値創造プロセス(価値創造ストーリー)等のサステナビリティの全体像を効果的に情報発信している点が高い評価につながったと言えます。
・重要課題(マテリアリティ)やSDGsに関する情報発信について
今回のノミネート企業(182社)において、重要課題(マテリアリティ)に関して具体的な取り組みや数値(KPIや実績)まで掲載している企業は、78社(42.9%)となりました。重要課題(マテリアリティ)の特定プロセスを説明している企業は152社(83.5%)まで広がっており、先端的な企業においてはプロセスにおける協議の内容や第三者からの意見等を掲載するといった工夫も見られます。また、価値創造プロセス(価値創造ストーリー)を掲載している企業も73社(40.1%)にのぼっています。このように、株主や投資家に自社の方針や取り組みを説明するにあたっては、単にデータだけを提示するのではなく、その背景にある考え方やプロセスを丁寧に説明することで、より深い理解を得ることが期待できるでしょう。
・気候変動やTCFDに関する情報発信について
気候変動に関して何らかの記載を行っている企業は178社(97.8%)となり、非常に高い達成率を記録しました。TCFDのガイドラインに則った情報掲載を行っている企業は、前年でも既に110社(63.2%)と過半を大きく超えていましたが、本年は162社(89.0%)と大幅に増加しています。また、GHG排出量データ(Scope3)の掲載まで行う企業も91社(50.0%)と既に過半に達する結果となりました。
・人的資本関連の社会性の項目について
2023年1月の企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等における「従業員の状況」の記載において多様性の指標に関する開示が義務化されたことを端緒に、取りまとめた人的資本関連の方針や各種データをウェブサイトにも掲載する企業が増えています。具体的には、女性管理職比率・障害者雇用率・労働災害度数率といったデータに加え、男女間の賃金比・男女別の平均勤続年数・男性の育児休暇取得・離職率・研修実績(1人当たりの年間研修費用等)といったデータの掲載がいずれも5%以上の伸び率で増加しています。
また、企業にも努力義務が課されるLGBT理解増進法が2023年6月に可決しましたが、LGBT(Q)について方針や取り組みを掲載している企業は、前年の77社(44.3%)から97社(53.3%)と大幅増となる結果となっています。
多様なステークホルダーからの関心を集める社会性の項目については、法制度の変更、社会的な関心の推移や他社動向等を踏まえて、追加する情報掲載の是非を細やかに検討することが求められています。
・スキルマトリックス、役員報酬等のガバナンス関連項目について
2021年6月に改訂が公表されたコーポレートガバナンス・コードを踏まえ、スキルマトリックスを個別に掲載する企業は、前年時点で74社(42.5%)と大きく伸長した結果となっていましたが、本年は109社(59.9%)とさらに掲載企業数は増加しています。社外役員の就任理由について具体的に掲載している企業も、102社(50.6%)と過半を超えています。また、役員報酬の決定プロセスと算定方法について具体的に掲載している企業は125社(68.7%)となりました。取締役の業績連動報酬制度においてサステナビリティに対する評価項目も有する旨を掲載している企業は、前年の43社(24.7%)から52社(28.6%)となり、着実に増加傾向にあると言えます。ガバナンス関連の項目については、ほとんどの調査項目が5%前後の達成率の伸びを見せており、コーポレート・ガバナンス報告書等の情報と照らし合わせながら、ウェブサイトの掲載情報も拡充する傾向が顕著です。
・プライバシー対策やセキュリティ対策について
ウェブサイトにアクセスした際にCookie(クッキー)使用について同意を求めるポップアップが表示される企業は、前年の57社(32.8%)から83社(45.6%)に大幅に増加し、プライバシー対策に関する意識の高まりを感じさせる結果となりました。また、情報セキュリティに関する方針だけでなく、さらに踏み込んでサイバーセキュリティに関する考え方や対策まで具体的に掲載している企業も97社(53.3%)にのぼります。
・アクセシビリティ対策について
2024年4月から、改正障害者差別解消法に基づき、障害をお持ちの方への合理的配慮が民間企業にも法的義務化されます。こうした流れを視野に、Gomezではアクセシビリティ関連の調査項目を増やしています。現時点で、アクセシビリティポリシーを掲載している企業は42社(23.1%)となっていますが、対応すべき要件は複雑で多岐にわたり、更なる取り組みの強化が期待されます。
・英語での情報発信について
この1年間で一気にウェブサイトでの情報掲載が広がった気候変動やスキルマトリックスといった項目については、日本語での情報掲載に追随して英語での情報掲載も進んでいます。サステナビリティやESGに関する説明会の資料や動画を掲載している企業は日本語では65社(35.7%)ですが、そのうち50社(27.5%)の企業は英語でも掲載をしていました。また、税務方針や腐敗防止といった相対的に海外の投資家や外部評価機関の関心が高い調査項目については、それぞれ88社(48.4%)、104社(57.1%)の企業が英語で情報発信を行っており、達成率はいずれも前年と比較して5%以上の伸びを見せています。
・ファインダビリティの確保について
掲載するコンテンツの増加により迷路化しがちなESGサイトにおいては、ファインダビリティの確保の観点から、検索機能の強化やフッターナビゲーションによるアシストといった様々な工夫が重要です。サイト内検索はほぼすべての企業(181社、99.5%)で導入されているものの、英語サイトやESGサイトといった特定のページに検索機能がないケースも見受けられるため、様々なステークホルダーやサイト訪問目的を想定して、機能に不足がないかを改めて見直すことも必要でしょう。また、本年はサステナビリティ配下のメニュー項目数をユーザーが使いやすい適切な範囲に改善した(絞り込んだ)企業が増えており、各社ともにファインダビリティ確保の観点からウェブサイトの改善に取り組んでいる様子がうかがえる結果となりました。
【トピックス】
ESGサイト カテゴリー別上位5社:ウェブサイトの使いやすさ
ESGサイト カテゴリー別上位5社:ESG共通
ESGサイト カテゴリー別上位5社:E(環境)
ESGサイト カテゴリー別上位5社:S(社会)
ESGサイト カテゴリー別上位5社:G(ガバナンス)
※6位以下の各カテゴリーランキング結果はGomezのウェブサイトをご覧ください。
【調査概要】
【評価方法】
【Gomezについて】
Gomezは、インターネット上で提供されるサービスを中立的な立場から評価・分析し、インターネット利用者の利便性向上とEコマース市場などの拡大に貢献するための情報提供・企業向けのアドバイスを目的とし、消費者・企業双方に対して利益となる情報を掲載しています。
Gomezを運用するゴメス・コンサルティング本部は、BBSec が2021年7月に事業継承しております。
【BBSecについて】
BBSecは、ITセキュリティの診断・運用・保守・デジタルフォレンジックを手掛けるトータルセキュリティ・サービスプロバイダーです。「便利で安全なネットワーク社会を創造する」をコンセプトに、2000年11月の設立以来、高い技術力と豊富な経験、幅広い情報収集力を生かし、大手企業、通信事業者から IT ベンチャーに至るまで、様々な企業のITサービスをセキュリティ面でサポートしています。