株主総会に向けて、350 JapanなどのNGOは、メガバンクによる化石燃料への投融資の実態を調査し、気候変動への責任の大きさを明らかにしてきました。また、化石燃料に投じられている巨額の資金を、クリーンな省エネルギー・再生可能エネルギーに振り向けることを求める市民アクションも展開されています。株主総会の当日は、会場の前では、約40人もの人が集まり、SMBCグループに対して「化石燃料への投融資をやめて」と訴えました(写真)。
なぜメガバンクに「株主提案」なのか?
近年、気候変動対策の強化を求める株主提案は国内外で活発になっています。このトレンドについて、国際環境NGO 350.org Japan代表の横山隆美はこう話しています。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新の科学が明らかにしたように、気候危機はますます深刻化しています。これを解決するためには、政府、企業、自治体、大学・研究機関や市民など、すべての人、あらゆる組織の行動が必要です。なかでも、銀行は、現在の化石燃料に依存した経済のハブになっておりその影響力は絶大です。銀行に対して、エンゲージメントと呼ばれる対話を行うとともに、企業経営の当事者である株主の立場から働きかけることは有効です。だからこそ、世界で同様の株主提案が広がっているのです。」
SMBCグループの個人株主で、横須賀の石炭火力発電所に抗議している山崎鮎美さんも、こう話します。「石炭火力発電は最も大量のCO2を排出する、気候危機の最大の原因です。地元の神奈川県の横須賀にも石炭火力発電があります。私は石炭火力発電ビジネスを手掛けている企業に対しても直接抗議をしていますが、その元手となる資金は銀行が提供しています。そこにお金が流れなければ石炭ビジネスはできません。そうではなく再エネ事業や電力会社のトランジションに資金を提供してほしいのです。だからこそ銀行への働きかけは重要だと思いました」と株主提案の必要性を話しています。
メガバンクに気候変動対策の強化を求める株主提案は、2020年にNPOの気候ネットワークがみずほフィナンシャルグループ(みずほFG)に対して行ったものが最初です。みずほFGへの提案は、株主の投票に大きな影響を与える議決権行使助言会社の賛同を得て、34%という賛成率でした。2021年は、350 Japan等も加わり、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)に対して株主提案を実施しました。その間にメガバンクが気候変動の方針を不十分ながらも強化し、助言会社が反対したことも影響し、株主の賛同は減りましたが、それでも23%の賛成率でした。
3年目の今年は、SMBCグループに対して提案を行いました。SMBCグループを選んだ理由について、国際環境NGO 350.org Japanシニア・キャンペーナーの渡辺瑛莉はこう話しています。
「SMBCグループは、他のメガバンクと同様、化石燃料への多額の融資を続けています。LNGや北極圏セクターでは、国内の銀行の中でワースト1位で世界でも有数の資金提供者です。パリ協定が発効した2016年から2020年にかけて化石燃料への資金提供額が毎年増加していたのは、日本のメガバンクの中でSMBCグループのみでした。訴訟が複数提起されている東アフリカ原油パイプライン(EACOP)など、環境破壊と人権侵害の懸念が大きい巨大な化石燃料開発プロジェクトに関与していることも深刻な問題です。」
参考:日本初・メガバンクに気候変動対策の強化を求める市民の株主提案〜アースデイに三井住友フィナンシャルグループ本社前でアピール&記者会見を実施〜
https://world.350.org/ja/press-release/20220422/
SMBCグループへの株主提案に投資家も賛同
SMBCグループへの提案は2つです。
議案4は、気候変動に関するパリ協定に沿った短期・中期の温室効果ガス排出削減目標の設定と、その目標を含む事業計画の策定・開示です。SMBCグループは他のメガバンクと同様、2050年までのカーボンニュートラルを掲げていますが、その達成を確実なものにするための短期・中期の排出削減目標がありません。過去のみずほFGやMUFGに対する株主提案と同じ趣旨の提案です。これは、昨年よりも高い、27.05%の株主の賛同を得ることができました。
他方、議案5は、新しいものでした。国際エネルギー機関(IEA)の2050年ネットゼロシナリオでは、パリ協定の1.5℃目標達成のためには新たな化石燃料供給の余地はありません。しかし、SMBCグループは、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)などの化石燃料インフラ計画に関わっています。そこでIEAのシナリオに沿って投融資をするよう求めるのが議案5の提案です。結果として、9.55%の株主の賛成がありました。
今回、提案を行っている市民団体・メンバーと個人株主の保有株式の割合は、すべて足し合わせても全体の0.002%に過ぎません。それぞれ27.05%、9.55%もの株主の支持を得たのは、提案のインパクトの大きさを物語っています。
横山代表は、「今回の株主提案は、投資家が潜在的に持っている脱炭素への意見を『見える化』しました。もし我々の提案がなければ、多くの投資家がこのような意見を共有していることは認識されませんでした。株主の4分の1以上の意見を無視できる企業はないはずです。SMBCグループの取締役会は、パリ協定の1.5℃目標に整合する、より積極的な気候変動対策方針を取るよう、投資家から求められています」とその意義を強調しました。
環境金融の専門家で、環境金融研究機構代表理事の藤井良広氏も、「過去3年間のメガバンクへの株主提案には2〜3割の賛成が集まっています。銀行側が反対しているにもかかわらず、NGO提案のこの賛成率は非常に高い水準です。これがさらに広がっていくと期待してますし、実際、広がっていくと思います」と話しています。
株主総会では気候変動の質問が続出。関心の高さを示す
2児の子育て中の市民である笠井貴代さんも株主提案の共同提案者です。笠井さんは、株主総会に出席した時の様子を次のように語っています。「SMBCグループの株主総会では質疑応答が行われました。質問をしたのは全部で12人でしたが、私も含めて6人が気候変動に関する質問をしていました。途中で太田純CEOから『環境の質問が多いので環境以外の質問を』とコメントが入ったほどです。この株主総会を通じて、SMBCグループの経営陣に対して、『株主は気候変動に強い関心がある』ということを示せたと思います。」
株主でもある大学生の冨永徹平さんは、「株主総会では、SMBCグループの気候変動対策方針に『抜け穴』があるのではないか、と質問しました。SMBCグループの2030年目標は、いわゆる『原単位目標』で、計算上、CO2排出量を実際には減らせてなくても達成できてしまいます。それはSMBCグループのブランドにとってもネガティブなポイントです。また、SMBC日興証券の事件に対する質問も含め、CEOが明確な回答をせず、『真摯に対応します』と繰り返すばかりだったのも、無責任ではないかと感じました。
株主総会の会場には気候変動に関心のない株主しかいないのかもしれないと思っていましたが、27.05%という賛同率から、自分たち以外にも脱化石燃料に賛成の株主が少なくないことを知り、希望に感じました」と、株主総会の経験を振り返っています。
渡辺シニア・キャンペーナーは、株主として総会に出席し、環境問題だけでなく、人権・社会問題としても深刻なEACOPを質問で取り上げました。完成すれば世界最長の加熱式原油パイプラインになると言われているEACOP計画からは、気候危機だけでなく環境破壊と人権侵害の懸念のため、みずほFGをはじめ世界の30に及ぶ大手金融機関が次々と撤退を表明しています。加えて、複数の訴訟も提起されています。SMBCグループはEACOP計画において財務アドバイザーという主要な役割を担っており、アフリカを含む世界中から名指しで批判の声が届いています。
「太田純CEOは『事業を通じて社会課題の解決を目指す』と発言していますが、むしろ社会課題を生じさせる事業に加担している例もあります。総会では、EACOPを例に、SMBCグループのコミットメントと慣行が矛盾しているのではないか、グリーンウォッシュなのではないか、同社の事業慣行はパリ協定と整合していると考えているのかと尋ねました。
太田CEOは、同社の事業慣行はパリ協定に沿っていると言い切り、『EACOPでは財務アドバイザーの立場として、おかしなことがあれば正していく』と回答しました。しかし、人権問題はすでに起きており、EACOPによる年間数千万トンものCO2増加はパリ協定と整合せず、明らかにこの発言と矛盾します。SMBCグループはただちに支援停止を決断すべきです」と、渡辺瑛莉シニア・キャンペーナーは述べました。
株主総会の前には、ロシアによるウクライナ侵攻によってエネルギー問題の懸念が広がり、脱化石燃料は難しい、賛成率は下がるのではないか、という声も一部で聞かれました。しかし、そのような状況においても昨年よりも高い27.05%の賛同を得られました。それは、投資家も、気候危機や、化石燃料への依存を続けることのリスクを真剣に考えていることを示していると言えます。
アントニオ・グテーレス国連事務総長も、今年6月28日に世界の主要メディアに寄稿し、「化石燃料の探査・生産インフラに新たに資金支援することは妄想じみている。化石燃料は答えではない。再生可能エネルギーこそが答えだ」と訴えています。気候危機やエネルギー問題、そしてロシアの戦争への資金の流れを断ち切る意味でも、脱化石燃料と再生可能エネルギー100%への公正な移行は急務であるといえるでしょう。
「脱化石」を求める市民アクションが株主提案を後押し
気候変動対策の強化を求める株主提案は、様々な市民アクションによってあと押しされていました。
今年、350 Japanのボランティアや市民有志によって「もしもしキャンペーン」が行われました。市民が3メガバンクのカスタマーセンターに電話をかけ、「気候変動対策を強化してください」とお願いしたのです。合計124人が電話をかけ、銀行の担当者は「貴重なご意見ありがとうございます。社内で共有します」と丁寧に応答しました。このアクションを通じて、銀行にとって気候変動が重要な課題であるということを伝えることができました。
6月は、株主総会を前に、数々の市民アクションが実施されました。350 Japanが発表した「COOL BANK(化石燃料産業への投融資が確認されていない銀行)」のリストに基づき、350ボランティアが市民向け講座を開催しました。3メガバンクが化石燃料産業に巨額の投融資を行っている実態を解説し、より環境負荷が少ない銀行「COOL BANK」へ口座を乗り換えることをおすすめしました。この情報を参考に銀行口座を切り替えることを検討した参加者もいました。
また、350 Japanのボランティアが、小さな子どもを育児中の母親の手紙を添えて、3メガバンクのCEOに対して、石けんをモチーフにしたデザイン画を贈りました。このプレゼントは、「Wash Up Greenwash(化石燃料の『グリーンウォッシュ』から足を洗おう)」とのメッセージを込めたものです。トップが変われば組織は変わります。6月末の株主総会を前に、化石燃料から脱却し、気候危機のない平和な未来を望む声を届けました。
国際環境NGO 350.org Japanフィールド・オーガナイザーの沼田茂は、「気候変動は、地球上のすべての人に影響します。その危機を肌で感じている市民が、気候変動の原因である化石燃料を支援し続けている銀行や企業、自治体、大学等に対して自発的に取り組んでいるアクションは、気候変動への挑戦における1つの希望です。化石燃料をやめるかどうか、再生可能エネルギーに転換するかどうか、その判断の権限を持つ責任者たちは、市民の声に耳を傾ける必要があります」と話しています。
海外からもSMBCグループに「脱化石」を求める声
日本のメガバンクに対して「脱化石」を求める市民の声は、日本だけでなく、世界各地から集まっています。
350 JapanなどのNGOは、SMBCグループを含む3メガバンクに対して「新規の化石燃料関連事業および森林破壊を伴う事業への資金提供を例外なくやめてください」等と要請する署名運動を行っています。SMBCグループの株主総会までに、世界37以上の国と地域から201団体の賛同と2115名の個人の賛同署名が寄せられました。この要請は、SMBCグループの株主総会の前日である6月28日に、3メガバンクのCEOに提出しました。
また、日本の政府や企業に脱化石燃料を求める国際NGOの連合であるFossil Free Japanは、5月30日〜6月3日にかけて、SMBCグループに対して世界一斉アクションを行いました。このアクションでは、SMBCグループに化石燃料への資金提供から撤退するよう求めるとともに、また同社の株主に気候変動の株主提案に賛成するよう訴えました。この結果、アジア、アフリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカの各大陸の10カ国以上で16のアクションが行われました。
Fossil Free Japanのアクションに参加した、オランダに拠点を置く国際NGOのBanktrackのHenrieke Butijn研究員は、「SMBCグループの新しい気候変動対策方針は、公正な移行を促進するには程遠いものです。多くの抜け穴があり、1.5℃目標には極めて不十分です。世界の同業他社の対策方針も十分に高いとは言えませんが、SMBCグループはそれにすら大きく遅れをとっています。SMBCは気候危機に対し、行動すべきです。EACOPへの資金支援をとりやめ、気候変動対策の強化を求める株主提案を受け入れることがその第一歩となります」と述べていました。
気候変動の最新の科学的知見に基づき、持続可能で公正は社会の実現を求める世界中の市民によるアクションは、これからも続きます。