2015年に国連でのSDGs(持続可能な開発目標)の採択を受け、国内においても2019年のプラスチック資源循環戦略の策定や、2050年に新たな海洋汚染をゼロとすることを目指す大阪G20における大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの提言など、脱プラスチックについてますます関心が高まっています。
本年4月には、プラスチック資源循環促進法が施行され、私たちの身近なところでもコンビニエンスストアや飲食店でストローやスプーンなどのプラスチック製品が代替素材へと切り替わるなど、海洋プラスチックごみ問題や気候変動問題への対策として、脱プラスチックの動きは、現在、世界各国で加速しています。
■京セラグループの取り組み
現在、京セラでは「地球温暖化防止・省エネ性」、「資源循環性」、「環境保全・製品安全性」の3つのテーマを最重要課題と考え、それぞれについて、製品開発の段階で環境に配慮すべきコンセプトを明確に設定し進めています。
その中の「資源循環性」の一環として、製品梱包の現場で環境負荷軽減を推進する通信機器事業本部と京セラドキュメントソリューションズの取り組みを紹介します。
1. 梱包開発における環境負荷低減への取り組み:通信機器事業本部
スマートフォンや携帯電話、IoT機器を開発・製造する通信機器事業本部では、梱包開発において環境負荷低減に対する3つの方針を定めています。
①脱プラの推進・・・・・・・・・梱包材で使うプラスチックをゼロに
②包装材使用量の削減・・・・・・包装材の量を減らし、簡易包装化を実現
③環境にやさしい処理の採用・・・環境にやさしい技術や材料、手法の積極的採用
① 脱プラの推進
梱包材で使用しているプラスチックのトレイや袋の紙系材料への置き換えを実施。製品トレイには、バガスというサトウキビから糖汁を搾った後にでる搾りかすを成型した「パルプモールドトレイ」(図1)を採用しています。また、端末の収納袋には透明な紙袋へ切り替えを開始しています(図2)。紙袋上からも端末のカラーバリエーションの判別や内部製品に貼られているバーコードの読み取りが可能です。これらに加え、集合梱包で使用する封止テープやラベルも紙製へ置き換えたプラスチックゼロ梱包は、今期、3モデルで実施し、来期以降開発する当社携帯電話・スマートフォンの全モデルにおいてプラスチックゼロの梱包を実現してまいります。
<通信機器事業本部の取り組む製品梱包の事例>
⓶ 包装材使用量の削減
2023年1月から梱包箱に、当社デザインセンターの取り組みから生まれた新方式の箱を採用します。この方式は、従来では分かれていた個装箱と内トレイを一枚の段ボールの折箱で構成することにより、箱としての機能を保持しながら、材量削減に取り組んでいます。(図3)。これにより「DIGNO SX2」(2021年発売)で69g※1だった梱包箱の重量を、「DIGNO SX3」では49gと、約30%の紙使用量削減を実現しています。
※1個装箱+トレイ重量の計
なお、この梱包箱は資源の循環にも配慮しており、簡単に回収へ出せるよう、折りたたみやすくなっています(図4)。
③ 環境にやさしい処理の採用
通信機器事業本部では、梱包箱の印刷に2021年より「水無し印刷」を採用しています。「水無し印刷」とは、印刷の工程における現像液などの有害な廃液が発生しない印刷方式として環境負荷の低減に大きく貢献する手法です。既に10モデル以上で採用し、今後も継続していきます。また当社では製品個包装の素材についても、持続可能な森林活用・保全に配慮した素材へと切り替えていき、今期開発のモデルからの採用を予定しています。
2.梱包開発における環境負荷低減への取り組み:京セラドキュメントソリューションズ
京セラドキュメントソリューションズでは、1992年※2に環境に配慮したエコシスプリンターの販売を契機に、全製品を対象とした環境配慮型包装に取り組んでまいりました。
「エコシス」は、これまで消耗品であったプリンターの感光体ドラムに耐久性の高い京セラ製アモルファスシリコンドラムを採用し長寿命化を実現することで、部品の交換や廃棄が少ない環境配慮型のプリンターです。この販売に際して、「これからの複合機やプリンターはライフサイクルを通じて環境に配慮したものであるべきだ」と考え、2000年には紙系梱包材を採用するなど、業界のトップランナーを目指して包装材の環境負荷低減を実施してきました。
その梱包技術・アイディアは、2004年には日本パッケージコンテスト(主催:公益社団法人日本包装技術協会)で電気・機器包装部門賞を皮切りに2022年まで19回表彰されています。また、2011年からはワールドスター(主催:世界包装機構)において14回表彰されてきました(図5)。
現在、京セラドキュメントソリューションズでは、前モデルの梱包材から30%削減という目標を立てて取り組んでいます。 ※2 1992年当時は「京セラミタ(株)」、2012年より現在の社名に変更
複合機やプリンターを開発・製造する同社では、梱包開発において環境負荷低減に対する以下の4つの方針を定めています。
① 過剰包装にならない適性設計
② 3R( Reduce、Reuse、Recycle)への配慮
③ 流通時・開梱時に取り扱いやすいユニバーサルデザイン
④ 積載効率の向上
① 過剰梱包にならない適性設計
衝撃試験機による製品の脆弱部を把握し、その部分を緩衝材で保護する、もしくは製品の強度を上げることで梱包材を削減するなど、梱包とメカ設計の連携により、破棄する梱包材の削減を実現しています。
⓶ 3R( Reduce、Reuse、Recycle)への配慮
・循環型の梱包材の採用
外箱、固定材、緩衝材 :リサイクルのシステムが世界的に確立されている段ボール採用
緩衝材、固定材 :段ボール古紙が原料に使われているパルプモールドを採用
・レーザーマーキングによる印刷
箱やラベル印刷にレーザーマーキングを採用。印版もインクも使用しないので、環境負荷低減を実現します。当社のインクジェット技術を使い、工場でのオンデマンド印刷に取組中です。
③ 流通時・開梱時に取り扱いやすいユニバーサルデザイン
複合機はA4サイズの複合機から100キロ以上の重量のある大型の製品まであるため、開梱時、梱包からいかに簡単にスムーズに取り出せるかも重要です。段ボールの底に手を入れなくても、横からスライド式で引き出せる工夫(図6)や、開梱時スロープを付けることで設置人数を減らせる工夫を行っています。
④ 積載効率の向上
コンテナ内の出荷状況を設計段階でシミュレーションし、積載効率をアップしました。また、2011年よりプリンターの初期トナーを機内同梱にすることで、積載効率を最大で約20%向上させることができました※3。これにより輸送時のCO2削減など環境負荷低減も実現しました。 ※3 積載効率は機器のサイズにより変動
□4つの方針に基づき開発した梱包事例
京セラドキュメントソリューションズではこれまでも梱包材には古紙をリサイクルして作られるパルプモールドを使用してきましたが、2021年には製品の緩衝材にもパルプモールドを使用した新開発の包装を採用しました。しかしパルプモールドの緩衝材は、発砲スチロールの緩衝材に比べると強度が弱く、一度衝撃で破損すると元に戻りにくいという問題がありました。そこで同社では製品と緩衝材が接する面積を極力増やすことで緩衝自体を分散させる梱包設計を適用しました。さらに、新開発の強度のあるパルプモールド緩衝材により、外箱と製品の緩衝距離を発泡スチロール使用時と同等の30ミリに抑えたコンパクトな包装を実現できたため、輸送時のコンテナ積層個数の効率化を図ると共に、輸送における位環境負荷の低減も実現しました(図7)。
京セラドキュメントソリューションズが環境配慮型梱包に取り組んで20年。当初は熟練した担当者の設計で取り組んできた梱包開発ですが、現在は、緩衝曲線を基に設計する手法を取り入れ開発しています。京セラドキュメントソリューションズ本社には梱包設計に必要な振動試験、落下試験など様々な実験施設を備え本格的なシミュレーション解析を取り入れた、効率的な設計を行っています。
京セラグループは、長年にわたり事業を通じた社会課題の解決に取り組んでまいりました。
今後も、人類や社会の進歩発展に貢献するという京セラの理念の基、現在、世界の喫緊な課題である環境問題に対しても、グループの技術を集結し、社会課題解決につながる価値を創造してまいります。