光通信用コネクタは、光ファイバーケーブル結合用の端子で、データセンタ・テレコム・ワイヤレスなどの高速・大容量通信に欠かせない部品です。石英ガラスで出来た繊維(ファイバー)のコア部分は、直径約9μmと髪の毛より細く、この部分を光信号が通ります。ケーブル同士の微細なずれが光の損失につながるため、数µmのずれも許されません。ファイバー同士の接続を担うコネクタには、厳格な規格に基づき、高い組み付け強度や防塵性、安全性の確保が求められます。
より高密度化する光通信産業
近年ますます進むデータの大容量化・高速化に伴い、光コネクタ業界では、狭いスペースに多くの光ファイバーケーブル端子を密集させる高密度な構造が求められています。そのニーズへ対応すべく、新たに開発されたものが、今回ご紹介する新製品です。
LCコネクタシリーズ(Lucent Connector,注1)の新製品「スリムパック・クラスターアダプタ」(=Slim pack Cluster adapter)は、高さ9.4mmのSC(=Subscriber Connector,注2)フットプリントサイズと呼ばれるアダプタを複数個並列し、最大12芯の光ファイバー接続を可能にした高密度タイプです(写真1)。
データセンタ等の光接続では、ラックパネルやカセットと呼ばれる接続ボード上の限られたスペースに、どれだけたくさんの光ファイバーコア(=芯)を効率よく並べられるかが鍵となります。そのため、ラックパネルあたりの芯数を増やすことがマストとなります。従来、1つのアダプタにつき2つ若しくは4つの芯をもつ構造が主流ですが、当社は6芯・8芯・12芯の多ポートタイプのラインナップを開発しました(注3)。従来の2芯・4芯を多数並べる方法で発生していた篏合隙間が無くなり、スペースロスの更なる削減が図れます。ワンタッチで多くの芯数のアダプタをパネルへ組み付けできることで、作業性の向上にも貢献しています。
防塵シャッター付きの9.4mmサイズのアダプタは、当社が2019年に開発したもので、それまでの11.4mmに大きく差をつけるコンパクトデザインが注目されました。アダプタ1つあたりの数ミリの差が、集積すると膨大な容積差をうむため、サイズのミニマイズ化が重要になります。このようなアダプタのコンパクト化と、多ポートタイプのライナップ拡充により、限られたスペースへの接続ファイバー数を最大化する開発を目指しています。
更なる高集積化に対応する新製品が、「MPO IS (=Multifiber Push On Internal shutter) クラスターアダプタ(注4)」です(写真2)。1つのアダプタポートにつき1つのファイバーを割り当てる単芯タイプに比べ、複数のファイバーコアをもつ多芯タイプであるMPOは、より多くのファイバーを接続できます。本製品は上述の防塵シャッター機能に加え、さらに6ポートを集約した多ポートタイプで、最大24芯×6の光ファイバー接続を実現しました(写真2)
また、ユーザ側での導入しやすさも考慮し、MPOコネクタのオリジナルサイズであるMPOフットプリントサイズではなく、最も普及しているSCフットプリントサイズをベースとして適用しています。アダプタのサイズは、取り付け穴寸法等において、相手物であるデータセンタ内でのパネルサイズと一致する必要があります。通常MPO製品は、MPOフットプリントサイズが一般的で、LCパネルやSCパネルには取り付け出来ません。当社ではMPO製品でありながらも、LCパネル・SCパネルへの取り付けも可能な製品の開発をすすめてきました。本新製品も、上述の「スリムパック・クラスタ・アダプタ」12芯タイプとのパネル互換性を備えており、顧客の導入ハードルを緩和しています。将来的に高密度化が求められ増加が見込まれる多芯タイプの需要を支えるため、更なる改良をすすめます。
一貫する価値を貫くサンコールブランド
サンコール光通信事業は、70年の歴史を持つ自動車部品メーカーである当社が新たな産業への跳躍を模索する中で生まれました。コネクタのハウジング部分の設計提案、樹脂金型への落とし込みから組付けまでの一貫した保証を行っており、『良いものを安く』というコンセプトのもと、独自の付加価値を生み出しています。繊細な光通信の接続にとって致命的なコンタミの混入を防ぐ機構「防塵シャッター」へのこだわりがそのひとつです。防塵シャッターは当初、「外部シャッター」としてアダプタ外部を覆うように後付けされていましたが、現在は、アダプタ内でプラグの挿抜で自動開閉する「内部シャッター(IS=Internal shutter)」が主流となっており、防塵性と作業性を担保する欠かせない機構となっています。
シャッター付きアダプタ製品の登場により、ケーブル接続作業時のダストキャップの着脱が不要となり、作業性の向上と共に、大量に発生していた使用済みダストキャップ廃棄の無駄を無くすことで省資源化にも貢献しました。また、自動で閉まる遮断性の高いシャッターは、通信に使用される不可視のレーザー光から作業者の目を守ることができ、人体への安全性にも配慮しています。多くのメーカーが乱立する光コネクタ業界に於いても、こうした環境にやさしく顧客に価値のある製品にこだわった開発理念を貫き、サンコールブランドを守り続けています。
はじまりは金属スリーブから
弁ばね用線材の生産から生まれた金属精密加工メーカーが、光コネクタの製造へ至った、その経緯は日本の光通信黎明期までさかのぼります。
NTTが日本中の海底に光ケーブルを敷設した1980年代、高速・大容量の通信網時代到来を見据え、当社では、光コネクタ軸合わせ用の金属割スリーブの製品化が発案されました。精密切削や内径研磨など金属塑性加工を得意とする自社の強みを生かし、当時、非常に高価で供給が不足していたジルコニアスリーブの代替品として、プレス工法による安価なリン青銅スリーブを考案し商品化、市場供給を開始します。このスリーブを機に、アセンブリー品までの社内開発プロジェクトが推進されていきます。1995年にはNTTより技術移転を受け、樹脂射出成型設備を導入、エンジニアリングプラスティック成型技術を取り入れ、金属部分と樹脂部分を内製してコネクタとしての提供を開始しました。
5Gサービスの開始に伴い世界のデータ通信量が飛躍的に上昇した2000年代には、アメリカのサウスカロライナ州グリーンビルにSAI(Suncall America Inc)、香港にSHK(Suncall Hong Kong)を設立、2006年には生産拠点を本社から中国深圳のSTS(Suncall Technologies (SZ) CO., LTD. )へ移管し、アジア・米国でのグローバル供給拡販体制を展開しています。
さらなる大容量通信時代を見据えて
光通信コネクタ市場は、ゲームや動画の普及、IOTデバイスの普及、テレワークを背景に成長し続けており、2027年迄の市場成長率は年間6.5%とも言われています。特に中国、米国での成長が目覚ましく、大手通信キャリアや巨大プラットフォーム企業向けの需要も増えています。
当社の光通信事業は、日本・米国・中国の拠点を生かし伸張を続けており、昨年2021年度の売上高は、前年比27.6%増の12.3億円を達成しました。本新製品への需要を見込み、2025年には2倍の売上計画をめざします。今後も顧客目線の製品開発を行い、大容量光通信時代をグローバルでサポートしていく構えです。
さいごに -開発担当者のコメント- _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _
LC SP CLUSTERは現行製品LC SPをベースに、MPO IS CLUSTERは現行製品MPO ISをベースに開発し、いずれも弊社の既存のコア特許技術を使用していますが、CLUSTER製品の開発においては、その特性上、様々な技術的困難がありました。
例えば、LC SP CLUSTERの開発では、4芯のLC SPアダプタを3個組み合わせて12芯のLC SPにするという要求を満たすために、2つ以上のアダプタを重ね合わせることで生じる強度をどう克服するかが最初の難題でしたが、業界最先端の接合技術を導入し、美観だけでなく高い信頼性を実現しました。 また、MPO IS CLUSTERの開発では、COVERがモノリシック構造であるため、製品の外観や寸法精度が非常に厳しく、特殊な精密金型加工技術で対応しなければなりませんでした。
技術開発部門は、市場ニーズにお応えするため、差別化された製品革新を続けています。
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(注1) LC:Lucent Technologies社によって開発。最も一般的なタイプのファイバーコネクタの1つ。
(注2) SC:NTT社によって開発。光通信システムを中心に広く世界で普及している。
(注3) 6芯・8芯タイプは2022年秋ごろリリース予定
(注4) MPO: NTT社によって開発。多心光ファイバーケーブルを一括で接続できる光コネクタ。
サンコール株式会社 会社概要:
代表取締役 :大谷 忠雄(おおたに ただお)
設立 :1943年6月
所在地 :京都市右京区梅津西浦町14番地
HP :https://www.suncall.co.jp
光通信製品専用:Suncall America – https://suncallamerica.com/