「ゲームアプリ実施中の生体反応とコンテンツ評価・継続プレイ意向に関する検証」

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メタバースの登場など話題に事欠かないゲーム市場ですが、マーケットの大半はオンラインゲームが占め、日本においてもゲームアプリユーザーの増加を背景にモバイルゲーム市場は2兆円規模*1と言われており(2022年)、ゲーム市場は、今後も目が離せない重要なマーケットの1つだと考えられています。
*1 147億ドル、1ドル=137円換算 Sensor Tower調べ

このような市場の動きに着目し、生体情報を先進技術で見える化するWINフロンティア株式会社(所在地:東京都世田谷区、代表取締役社長 板生研一)と、マーケティング&リサーチ会社である株式会社シタシオンジャパン(所在地: 東京都中央区 、代表取締役社長 田村大輔)は、「ゲームアプリ実施中の生体反応とコンテンツ評価・継続プレイ意向に関する検証」をテーマに共同実験を行いました。

スマートフォンやゲームといえば、健康へのネガティブな影響が指摘されがちですが、最近では「ゲームアプリは使い方次第でストレス軽減につながる」などポジティブな研究結果も示唆されています。しかしながら、ゲーム中の感情と評価、生体反応などに関する研究はまだあまり行われていないのが実情です。
そこで、
 ・ゲーム中に私たちの生体はどのように反応するのか?
 ・コンテンツによる違いはあるのか?
 ・ゲームへの評価にはどのように影響するのか?
を検証すべく実験を行いました。
今回の実験は、小規模サンプルでの予備実験の位置づけではありますが、傾向として示唆できること、今後にむけた可能性と課題が見えてきましたのでご報告いたします。

<今回の実験でわかったこと>
・ゲーム中に生体指標が「リラックス」傾向になると、退屈さを感じる可能性がある。
・ゲームの「面白さ」は「心拍数」を増加させ「今後もゲームをプレイし続けたい」というモチベーションにつな

 がる可能性がある。
・ゲームコンテンツへの評価(キャラクターがかわいい等)が「心拍数」の上昇に影響することが推察される。
・ゲームに対して「ストレス」を感じると、ゲームの「継続プレイ意向」の低下につながることが推察される。

以上の実験結果を踏まえ、試遊調査などでは見えづらい(プレイ中の表情や発言からは測りきれない)、プレイ意向やコンテンツ評価について、生体指標を測ることで推察できる可能性があると考えております。

【実験概要】
●目的:
・ゲームがユーザーの生体に与える影響、コンテンツ評価や継続プレイ意向との関係性を探索し、ゲームのマーケ

 ティング戦略やコンテンツ開発に役立てる。

●使用ゲーム:
・スマートフォンアプリゲーム:2種(パズルゲーム) ※以後【ゲームA】、【ゲームB】と表記
・各ゲームの特徴
 【ゲームA】:2022年時点、世界累計9,500万ダウンロードの人気ゲーム

         集めてつなげて消す簡単なパズルゲーム
 【ゲームB】:個人配信のアプリゲーム

                       縦横2つ以上につながった動物をタッチして消していくシンプルなパズルゲーム

●評価視点と評価手法:
・ゲームプレイ中の「心拍数(HR)」「集中度」「リラックス度(RMSSD)」「疲労度(TP)」を小型の生体センサm

 yBeat(WHS-1)を用いて測定
・二次元尺度評価(事前、1回目ゲーム終了後、2回目ゲーム終了後)
・ゲームに対する主観アンケート評価(1回目および2回目ゲーム終了後)
  ∟「面白さ」「理解度」「ストレス度」「熱中度」「継続プレイ意向」及び気分グラフ(熱中度、ストレス度)
・個別インタビューにより、プレイ後の印象とプレイ意向について聴取(2回目のゲームプレイ終了後)

●実験対象者:
・一都三県の20~40代男女 10名
※以下のリクルーティング条件を満たす
 ・スマートフォンアプリゲームを1週間に1~2回程度以上プレイしている
 ・調査対象ゲームタイトルがプレイ未経験
 ・パズルゲームが苦手な人を除く
 ・ゲームに熱中して、学業や仕事、家事などの日常生活に著しい支障がある人を除く
 ・チュートリアルを必ずスキップする人は除く

●調査実施:
2022年5月19日(木 )

●実験の流れ:

【実験結果の詳細】
1.主観アンケート調査からわかったこと
・主観アンケートの結果から、「面白さ」や「熱中度」について、2つのゲーム間で明確な有意差を確認するまで

 には至らなかった。ただし、傾向としては、【ゲームA】の方が、面白く、熱中していることがうかがえた。

2.生体情報からわかったこと
・生体情報の分析結果から、「リラックス度」指標において、【ゲームB】で有意にリラックス傾向がみられた。

 ただし、「集中度*2」「心拍数」「疲労度」では2つのゲーム間に有意な差は見られなかった。
・アンケートの自由回答記述や、同時に実施したインタビューの結果から、【ゲームB】に関して、「単調なゲー

 ムで飽きた」「リラックスしたい時にやるゲームとして良い」「暇つぶしにゆるくやりたいゲーム」といった声

 が挙がり、ゲーム中に退屈さを感じたことが推察される。よって、生体情報リラックス傾向とゲーム中の退屈さ 

 は関連すると考えられる。

*2心拍変動等の生体情報から安静時の集中度を推定する、WINフロンティア社が開発したアルゴリズム。
参考文献:駒澤真人,板生研一,菅谷みどり:心拍変動を活用した集中状態の評価検討, 電子情報通信学会MEとバイオサイバネティックス研究会,新潟,2019年5月

3.生体情報と主観の各指標の統合分析からわかったこと
①ゲームの「面白さ」は「心拍数」を増加させ「今後もゲームをプレイし続けたい」というモチベーションにつながる可能性が考えられる。※今回、被験者数が少ないため有意ではないが、被験者数を増やせば有意になる可能性がある
 ・実験後に実施したインタビューでは、【ゲームA】に関して、「キャラクターデザインがかわいい」という意 

  見が挙がった。

 ・先行研究*3では、「かわいい」と感じると心拍数が上がるという結果があることから、コンテンツの要素(デ

  ザイン、色、キャラクターなど)がゲーム継続意向のモチベーションに影響を与えると推察される。
*3 本人がかわいいと感じる色や形などのオブジェクトを見ると有意に心拍数が高くなる傾向が示唆されている。
参考文献:堀江亮太, 柳美由貴, 高階知巳, & 大倉典子. (2016). かわいい: 7. かわいい画像を見たときの生体反応. 情報処理, 57(2), 141-144.

②ゲームに対して「ストレス」を感じていると、ゲームの「継続プレイ意向」の低下につながると推察される。
 ・ゲームの「継続プレイ意向」(「今後もプレイし続けたいか?」)に関して、「ストレス」を共変量にした共

  分散分析を行った結果、「ストレス」という因子がゲームをプレイし続けたいという「継続プレイ意向」にネ

  ガティブに影響することが示唆された。
 ・アンケートの自由回答記述や、プレイ終了後に実施したインタビューからは、A、Bのゲーム問わず、「やり

  方がわからないとストレスに感じる」、「上手くプレイできずストレスになった」との声が挙がった。このこ

  とから、プレイ中にストレスを感じると、「またプレイしたい」という意欲を低減させると推察される。

4.まとめと課題
・生体情報、主観評価のそれぞれで2つのゲームに傾向差はみられたものの、サンプル数が小さかったことからも

 統計的に有意な差を確認するまでには至っておらず、引き続き検証を行うことが必要だと考えられる。そのうえ

 で、今回の実験を通して示唆された課題は、以下の2点である。

①「人」の要素の影響性
・実験時の自由回答記述やその後のインタビューにおける発言で、「そもそもパズルゲームに慣れておらず、ゲー

 ム理解に時間がかかった」という声が挙がることから、被験者のゲームリテラシーに程度の差が存在し、こうし

 た「人」の要素が結果に大きく影響する可能性があると考えられる。

 ②ゲームの「目的」や「シチュエーション」の要素の影響性
・参加者のゲームへの評価として、「暇つぶしの時には楽しめる」、「ゆっくりしたい時のゲームとしては良い」

 などが挙がり、シチューション毎でゲームに求められる要素が異なると示唆された。この点も結果に影響を与え

 る可能性があると考えられる。

<今後に向けて>
・上記の課題点を踏まえ、今後、以下3つの視点を加味した検証を引き続き行っていくことが有用であると考えて

 いる。

①「心拍数」の増加と、ゲーム評価の影響性
・「心拍数」の増加と「ゲーム評価」や「プレイ継続意向」との関連性
・先行事例にもある、ゲーム評価としての「かわいい」因子との関連性

②「人」の要素とゲーム評価との関連性
A)ゲームを行う人の「性格」、ゲームへの「習慣性」からの考察
 ・熱中しやすさの高低、ゲームへの親和性(依存性)の高低など、性格や気質での違い
 ・生活の中でのゲームの位置づけ、優先度合いの違い、など                           
B)特定ゲームにおける「意識、態度」からの考察
 ・特定のゲームに対するファン度合い(コア、ライト、初心者)、習熟度、リテラシー度合いによる違い、など

③「シチュエーション」とゲーム評価の関連性
・暇つぶしのため、寝る前に、気分転換のため、熱中して楽しむため、など

<最後に>
・ゲームにおける生体情報と主観評価の関連性を明らかにしていくことは、日々進化する業界にとって意義がある

 と考えております。
・今回ご報告した内容以外にも、様々な切り口での探索が考えられるため、今後も引き続き、統計的(定量的)な

 視点だけではなく、定性的な側面も含め、生体情報と主観評価の検証を続けていきたいと思っております。
・既に課題をお持ちの方、またこちらでご紹介した実験に興味を持たれた方は、お気軽にお問い合わせください。

<会社紹介>
■WINフロンティア株式会社< https://www.winfrontier.com/ 
WINフロンティアは、東京大学発のNPO法人WIN(ウェアラブル環境情報推進ネット機構)のコア技術をベースに自社開発した解析アルゴリズムを使用して、生体情報の見える化を行っています。
これまでに、企業や大学、自治体の商品やサービスに関して100を超える感情解析の実証実験を行っております。また近年は、働き方や健康の価値が問われる中、ウェアラブルセンサや専用アプリを使って、ワークプレイスや空間における集中や疲労と生産性に関する研究及びコンサルティング、働く人の「クリエイティビティの見える化」に関する研究及びコンサルティングの提供に力を入れています。

■株式会社シタシオンジャパン< https://www.citation.co.jp/ 
シタシオンジャパンは、心理学・統計学のアプローチを強みにして「企業」「人」の意思決定を支援する総合マーケティング(リサーチ&データ分析)会社です。
「調査」「コンサルティング」に留まることなく、現状課題や目的達成という企業の課題解決フローを「総合的」に支援することを目指しており、1.マーケティングリサーチ事業 2.マーケティングデータ分析事業 3.マーケティングコンサルテーション事業 4.診断事業を軸としたクライアント協業型のマーケティング支援活動を実施しています。

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