量子コンピュータ[ⅰ]は、従来のコンピュータ(以下、古典コンピュータと表記)とは動作原理が根本的に異なります。量子コンピュータによるアルゴリズムの実装で、古典コンピュータが抱える計算量上限を克服することにより幅広い実社会での課題を解決することが期待されています。例として、物流業界において数ある配送ルートの中でもっとも効率のよいものを求められるようになることや、製薬業界において量子コンピュータを使って新しい薬の候補を高速で探索できるようになるといったことが挙げられます。
一方、ゲノムインフォマティクスとはゲノムサイエンスにおけるさまざまな情報や課題を情報科学の技術を用いて整理、活用、応用することで解決を行う分野です。例えば、ヒトゲノムサイエンスの場合には約30億塩基対のDNA[ⅱ]情報から得られる情報をさまざまなアルゴリズムを駆使して、コンピュータ上(現在は古典コンピュータ)で情報処理、情報解析し、疾患の遺伝要因の特定など医学の発展につながる新たな知見を発見する分野です。BlueMemeは、京都大学 長﨑 正朗 特定教授と連携し、これまで古典コンピュータで行われてきたゲノムサイエンスの分野に量子コンピュータを応用し、計算の大規模化・高速化を通じて新たな知見を発見することを目指します。
共同研究の背景と目的
最新テクノロジーの利活用により企業のシステム開発の変革を目指すBlueMemeは、新しいコンピュータの登場が企業のシステム開発の変革をもたらすという信念のもと、デジタルレイバー時代の産業システムを担う次世代計算機として「量子コンピュータ」に着目しました。
企業のDXとは、データとそれを処理するコンピューティング技術を活用してビジネスを変革することを指します。そのため、DXにより実現されるサービスの質や種類は従来の古典コンピュータの性能に大きく依存することになります。量子コンピュータの登場は古典コンピュータの性能を凌駕・補完する形で企業のDX推進を強力に後押しするものと考えられますが、現在、量子計算の社会実装の着手を開始している分野は、物流・金融・化学などごくわずかの領域に限られており、量子計算の導入検証が全く進んでいない潜在的な分野が数多く存在します。将来的に、「誤り訂正[ⅲ]機能」付きの量子コンピュータが産業におけるあらゆるシステムの性能を劇的に向上させると予想される中、BlueMemeは量子計算の実装研究が少ない分野においても、その可能性を実証することが重要であると考えております。
BlueMemeはその中でも、病気・食料・環境問題の解決を目指す「ライフサイエンス領域」におけるゲノム解析をターゲットとして取り組んでまいります。ヒトゲノムは約30億塩基対に及ぶ塩基配列から構成されており、デジタルデータに近い性質をもっているため計算機による解析の対象になります。2000年代の塩基配列のシーケンス機器の革命以降、ゲノムデータは、ムーアの法則[ⅳ]を超える速度で爆発的に急増しています。そのため、古典コンピュータの大規模化に加えて、量子コンピュータなどのあらたなテクノロジーの導入による解決が求められると考えています。しかし、量子コンピュータの実プラットフォームが発展途上であることもあり、量子計算に基づく試験実装が行われている例はわずかです。
近い将来、量子コンピュータは解析性能の大幅な向上が想定されており、研究現場においてより革新的な学術的知見が得られることで、臨床現場においてもより適切な個別化医療の提供が可能になると考えられます。BlueMemeはこうした将来の社会を見据え、京都大学 長﨑 正朗 特定教授と連携し、既存のゲノム解析アルゴリズムの計算タスクのうち量子コンピュータが力を発揮すると期待される計算タスクを積極的に代替し、その性能の検証を推進してまいります。
[ⅰ]:量子力学の物理法則を用いて情報処理を行うコンピュータ。量子コンピュータの情報処理単位である量子ビットは、「0か1」で情報を表現するビットとは異なり、「0と1両方」の重ね合わせ情報を表現できる。
[ⅱ]:生命のもつ遺伝情報(ゲノム)を構成する高分子のこと。A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基で構成される。
[ⅲ]:コンピュータの演算中に生じるエラーを訂正する技術のこと。現存する量子コンピュータにはこの機能は搭載されていない。
[ⅳ]:「半導体回路の集積密度は1年半~2年で2倍となる」という半導体性能に関する経験則。米インテル社の創業者のひとりとなるゴードン・ムーアが提唱。
共同研究の内容
BlueMemeと京都大学 長﨑 正朗 特定教授は、量子コンピュータのゲノム解析への応用手法を模索するべく連携し、量子コンピュータが特に力を発揮すると期待されている2つの計算タスク(量子AIと組合せ最適化計算)でゲノム解析における個別具体的な問題に取り組んでまいります。
①量子AIの技術構築
機械学習・深層学習をはじめとするAI技術により、コンピュータは画像や文字配列など大量のデータから自動でパターンを抽出することができます。これまでは古典コンピュータで構築されていたAIモデルを、量子コンピュータを用いて構築するモデルのことを「量子AI」と呼び最先端の研究分野として注目されています。量子AIにより、分類タスクにおけるモデルの予測性能の向上などが期待されています。
②組合せ最適化計算の技術構築
組合せ最適化とは「多数の組合せの中から条件を満たす解の中で一番よいものを求める」計算のことを指します。例として「巡回セールスマン問題」が挙げられ、ロジスティクスの領域ではトラックが配送先を巡り出発地点に戻るルートのうち距離が最小のものを求めることなどに応用されます。組合せの元となる要素の数が増えると解の候補も膨大な数になってしまい古典コンピュータで解くことは難しいですが、「量子重ね合わせ」の性質を持つ量子コンピュータなら効率的に解くことができるのではないかと期待されています。
BlueMeme代表取締役 松岡 真功 コメント
量子コンピュータをめぐるソフトウェアの開発は、今後のIT産業の未来を左右する重要な課題です。量子コンピュータのハードウェアの成熟を待つのではなく、現状あるものでブレイクスルーを探っていくことに価値があります。京都大学との共同研究の機会を頂いた事をここに感謝するとともに、引き続き量子コンピュータアプリケーションの開発に注力して参ります。生み出された成果はライフサイエンスに限らずあらゆる分野において活用されるものと考えております。
京都大学 長﨑 正朗 特定教授 コメント
深層学習が提案された後、黎明期を通じてその後改良および解析機器の実装開発が進むことで、現在すでに、ゲノムサイエンスのさまざまな情報解析において活用されています。量子計算についても黎明期ののちに同様になると考えています。特に、ヒト全ゲノム情報は、1台で年間1万人規模、1人あたり、数日、数万円で測定できるようになるなど、公共インフラとして活用できるところまで来ています。今後さらに、ゲノムサイエンスにおいて、このような情報に対応する適切な計算アルゴリズム、計算規模が求められると考えており、その1つの重要なファクターが量子コンピュータと量子アルゴリズムと考えており大変期待をしています。
株式会社BlueMemeについて
BlueMemeは、2012年にローコード開発基盤「OutSystems」を日本で初めて導入し、日本のローコード開発市場を第一線でけん引してまいりました。当社独自の開発方法論「AGILE-DX」を用いてローコード技術とアジャイル手法の効果的な運用を実現しています。BlueMemeは、日本企業の国際的な競争力の向上に寄与すべく、ユニークな受託開発、コンサルティング、トレーニングを通してお客様のシステム開発の内製化とDXを支援しています。
社名 :株式会社BlueMeme
代表者 :代表取締役 松岡 真功
所在地 :東京都千代田区神田錦町3-20
資本金 :967,808,046円(2022年9月30日時点)
事業開始 :2009年8月(設立2006年12月・資産管理会社として設立後、現代表にて事業開始)
上場市場 :東証グロース(証券番号:4069)
URL :https://www.bluememe.jp/
京都大学担当
京都大学 学際融合教育研究推進センター スーパーグローバルコース 医学生命系ユニット/京都大学大学院 医学研究科附属ゲノム医学センター 長﨑 正朗
※共同リリースのため重複して配信される場合がございますが予めご了承ください。
※本件による2023年3月期の業績予想への影響はありません。