自己採取HPV検査は、女性にとって受入れやすく、子宮頸がん検診として好まれる方法であることを確認

この記事は約9分で読めます。
 公益財団法人ちば県民保健予防財団の藤田美鈴主席研究員および羽田明調査研究センター長らは、市原市、慶応義塾大学、千葉大学等と共同で、自分自身で膣内の粘液を採取しヒトパピローマウイルス(HPV: human papillomavirus)の感染を調べる検査(自己採取HPV検査)の有効性を評価するためのランダム化比較研究を実施しています。その中で、自己採取HPV検査を経験した女性1,192名を対象にアンケート調査を行い、自己採取HPV検査は受け入れやすく、HPVの知識を高め、子宮頸がん検診として好まれる方法であることを確認しました。本研究成果は、2023年6月8日に、学術誌PLOS ONEにオンラインで掲載されました。

研究の背景 

 我が国では、年間約1万人が子宮頸がんに罹患し、約2,900人が死亡しています。子宮頸がんの原因はHPV感染であり、HPVワクチンの接種と子宮頸がん検診で予防することができます。しかし、約9年間にわたるワクチン接種の積極的勧奨の中断と先進国の中でも低い検診受診率により、近年、若い女性を中心に、子宮頸がんの罹患率や死亡率が増加しています。子宮頸がんの予防対策の推進は喫緊の課題の一つです。

 我が国の子宮頸がん検診は、古くから子宮頸部の細胞の変化を観察する「細胞診」で実施されてきました。2020年に子宮頸がん検診のガイドラインが更新され、細胞診に加えて、HPV検査が初めて推奨されました。HPV検査は細胞診とは異なり、自己採取でも医師採取と同等の正確性が確認されています。しかし、ガイドラインでは「医師採取を原則とする」とされ、自己採取は推奨されていません。「HPVが陽性であった場合その後の検査を受診するか」、などのデータの不足が理由とされています。そのため、国内での実装可能性を評価する研究が求められています。

 そこで私たちは、2020年に、市原市の子宮頸がん検診の枠組みの中で、自己採取HPV検査の有効性を評価するためのランダム化比較研究を開始しました。この研究は現在進行中ですが、その中で実施したアンケート調査の結果を報告しました。

研究の方法 

 研究の対象者は、2021年度の市原市の子宮頸がん検診の対象者である30-59歳の女性で、3年以上、市の検診を受診していない女性です。対象者に研究の内容をお知らせし、オプトアウトによる同意(注1)を受けました。研究参加者をランダムに、「自己採取群」と「通常検診群」に割付け、「自己採取群」になった女性には、その旨をお伝えするとともに、自己採取HPV検査の申込を受け付けました。申込者には、説明文書、同意書、自己採取キット(エヴァリンブラシ)、アンケート調査用紙、着払いの返信用封筒をお送りしました。このアンケート調査の対象者は、自己採取のキット、同意書、アンケート調査用紙の全てを返却した女性です。

研究の結果 

 研究対象者は20,555人でした。そのうち、割付前に参加を辞退された方(4,283人)、宛名不明だった方(12人)を対象から除外し、残りの16,260人を、自己採取群(8,145人)と通常検診群(8,115人)に割付けました。割付後に参加を辞退された方(自己採取群805人)を除外し、自己採取群の女性は7,340人となりました。そのうち、1,372人(18.7%)が自己採取検査を申し込み、1,196人(16.3%)が自己採取キットを返却し、1,192人(99.7%)がアンケート調査用紙を返却しました。

 子宮頸がん検診を受けなかった理由として最も多かったのは、「受診の時間を作るのが難しい」(45.4%)であり、「予約を取るのがめんどう」(44.7%)、「医師による検体の採取が恥ずかしい」(24.7%)が続きました。

 自己採取の経験としては、「痛かった」、「不快だった」、「恥ずかしかった」のネガティブな感想については、65.1-77.8%の女性が「全く当てはまらない」または「当てはまらない」と回答し、「簡単であった」、「便利であった」「説明書はわかりやすかった」、「説明書通りに採取することができた」のポジティブな感想については、75.3-81.3%の女性が「その通り」または「全くその通り」と回答しました。この結果から、自己採取検査の受入れは良いと思われました。一方、「正確に採取できている自信がある」については、21.2%の女性のみが「その通り」または「全くその通り」と回答しており、自己採取が正しくできているかについて不安があるようでした。

 HPVが子宮頸がんの原因であることを知っていた女性は、研究参加前は46.9%でしたが、研究参加後は86.7%と有意に上昇し、検査を経験することでHPVと子宮頸がんの知識を高められることが明らかになりました。

 将来の検診が医師採取の場合、「検診を受診する」と答えた女性は49.1%であった一方、自己採取の場合には89.3%が「検診を受診する」と回答しました。また、医師採取の場合には、高齢であるほど、また、未受診の期間が長いほど、「検診を受診する」と回答した方が少なくなりましたが、自己採取の場合は、どのグループでも9割近い女性が「検診を受診する」と回答しており、自己採取による検査は、年齢や検診未受診の期間に関わらず好まれることが示唆されました。

コメント 

 検診を受けなかった理由としては、他国と同様に、「時間がない」、「予約を取るのが面倒」、「医師による採取が恥ずかしい」などの理由が上位を占めていました。これらの理由は、自己採取検査により克服できる可能性があります。自己採取を経験した感想として、おおむね好意的な結果が得られたことは心強いことです。しかし一方で、自己採取が正確にできているかについては不安を感じている女性が多いことがわかりました。先行研究で、自己採取HPV検査による「不適切検体」(検査ができないと判断される検体)はまれであることがわかっています。また、自己採取と医師採取によるHPV検査は同等の正確性が確認されています。自己採取HPV検査をはじめて経験する女性には、これらの情報を前もって伝えることで、自己採取の正確性に対する不安を軽減する必要があると考えられました。将来の子宮頸がん検診としては、医師採取よりも自己採取が好まれることが明らかになりました。また、この研究の対象者が3年以上検診を受けていない女性であることを考慮すると、医師採取による子宮頸がん検診を受けると回答した女性が49.1%であったことは、私たちの予想を上回る結果でした。自己採取検査を経験することで、医師採取による検査を受ける意欲も高める可能性があります。

 本研究は、自己採取HPV検査を経験した1,196人のうち、1,192人(99.7%)がアンケートに回答していることから、自己採取HPV検査を経験した女性の意見を十分に反映できていると思われます。しかし、一方で、自己採取群の女性7,340人に対しては、アンケートに回答した方は、16.2%にすぎません。したがって、我が国の女性全体の意見を反映しているとは言えず、アンケートに回答した方は、自己採取HPV検査にもともと好意的であった方に偏っていた可能性があります。しかし、これは、研究倫理の観点から、自発的な研究の参加を確保するためには避けられないことです。諸外国で行われた自己採取HPV検査の感想を調査したアンケート調査でも似たような参加率が確認されています。本研究では、自己採取HPV検査を経験した女性においては、自己採取検査は女性からの受入れはよく、将来の子宮頸がん検診として好まれることを明らかにすることができました。

 この研究は、我が国で初めて大規模な集団で、自己採取HPV検査を受けた感想、子宮頸がん検診の好み等を明らかにしました。対策型検診の一つとして、自己採取HPV検査を組み込むにあたっては、検診を受ける女性の検査に対する意見を知ることは重要です。本研究で、検査の正確性についての不安はあるものの、おおむね良好な受け入れを確認することができたことは心強いことです。また、将来の検診として、自己採取HPV検査は、年齢や検診未受診の期間に関わらず好まれていました。しかし、一方で、自己採取検査の受入れが良くても、自己採取検査を受ける人が少なく、子宮頸がんやその前段階の異形成の発見の増加に寄与しなければ、自己採取HPV検査は有効であるとは言えません。今後、自己採取群と通常検診群の一次検診受診率、精密検査受診率、中等度異形成(CIN2: Cervical Intraepithelial Neoplasia 2)以上の検出率等を比較し、有効性についての結論を報告したいと思います。

用語の説明 

(注1)オプトアウトによる同意:研究の目的などの情報を通知または公開し、研究の参加を拒否する機会を保障することで同意を得る方法です。参加を拒否された方は研究の対象としません。既存の情報を利用する研究では、オプトアウトによる同意を受けることで研究を実施することができます。本研究では、検診の参加等は、市の事業として行われている既存の情報を利用して確認するため、オプトアウトによる同意を受け研究を実施しました。自己採取HPV検査およびアンケート調査については、本研究のために新たに試料または情報を得るため、自己採取検査実施者(アンケート調査を含む)には文書による同意も受けています。研究の開始にあたっては、市原市個人情報保護審査会の意見を聴き、ちば県民保健予防財団等の倫理審査員会の承認を受けています。

論文情報 

タイトル:Acceptability of self-sampling human papillomavirus test for cervical cancer screening in Japan: A questionnaire survey in the ACCESS trial

著者:Misuzu Fujita(1),(2), Kengo Nagashima(3),(4), Minobu Shimazu(5), Misae Suzuki(6), Ichiro Tauchi(6), Miwa Sakuma(6), Setsuko Yamamoto(6), Hideki Hanaoka(5), Makio Shozu(7), Nobuhide Tsuruoka(8), Tokuzo Kasai(1), Akira Hata(1),(9)

(1)公益財団法人ちば県民保健予防財団、(2)千葉大学大学院医学研究院公衆衛生学、(3)慶應義塾大学病院 臨床研究推進センター 生物統計部門、(4)統計数理研究所 医療健康データ科学研究センター、(5)千葉大学病院臨床試験部、(6)市原市保健センター、(7)千葉大学大学院医学研究院生殖医学講座、(8)有秋台医院、(9)千葉大学予防医学センター

雑誌名:PLOS ONE

DOI: 10.1371/journal.pone.0286909

タイトルとURLをコピーしました