国内で自生する根寄生雑草ヤセウツボが寄生する相手を効率的に認識するために必要な受容体タンパク質を同定~根寄生雑草による農業被害の防除法構築に期待~

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■要 旨

●明治大学農学部の瀬戸 義哉准教授、同大学院農学研究科の竹井 沙織(博士前期課程2年)、内山 雄太(博士前期課程修了)の研究グループは、アメリカ・ソーク研究所のMarco Bürger博士、Joanne Chory教授らとの共同研究により、根寄生雑草の一種であるヤセウツボが、寄生する相手となる宿主植物を見つけるために必要な受容体タンパク質を同定することに成功しました。本受容体は、宿主植物の根から分泌されるストリゴラクトンと呼ばれる分子を高い感度で認識することで、宿主植物が近くに存在することを効率的に認識して発芽することを可能にしていると考えられます。

●根寄生雑草による被害は年間1兆円にものぼると言われており、アフリカ等の地域では深刻な農業被害をもたらしています。特に、ヤセウツボは日本でも広く生育している根寄生雑草であり、将来的に農業被害を及ぼすことも懸念されます。本成果は、これら根寄生雑草を防除するための効果的なツールの構築につながる可能性があります。

●本成果は、2023年4月1日に日本植物生理学会が発行している国際学術誌Plant & Cell Physiologyに公開されました。

■概 要

 根寄生雑草はトウモロコシやソルガム、陸稲などの主要作物にも寄生し、寄生した相手である宿主植物から水や栄養を奪って生活します。根寄生雑草に寄生された作物においては、収量が劇的に低下するなどの農業被害が見られ、その被害額は世界で年間1兆円と言われています。これら根寄生雑草の多くは、何か別の植物に寄生しないと生存できないため、寄生する相手が近くに存在するときにのみ発芽するという特殊な発芽システムを有しています。この際、寄生する相手の根から分泌される植物ホルモン※1分子であるストリゴラクトン(以下SL)を認識して発芽します。本研究では、日本国内でも自生する根寄生雑草であるヤセウツボが、発芽時にSLを認識するために必要な受容体タンパク質を同定することに成功しました。これらの成果は、根寄生雑草による宿主植物認識メカニズムの解明を通じ、効果的な防除ツールの開発につながることが期待されます。本研究成果は、2023年4月1日に国際誌Plant & Cell Physiologyにオンライン公開されました。

  

本研究は、JST創発的研究支援事業(JPMJFR211S、植物病原菌が生産するストリゴラクトン様活性分子の探索、研究代表者:瀬戸義哉)、JSPS科研費(19K05852、20H05684)、加藤記念財団研究助成、三菱財団自然科学研究助成金の助成を受けて実施されました。

■研究の背景

 ストリゴラクトン(SL)は、栄養条件に応じて植物の枝分かれを適切に制御するホルモン分子として重要な役割を持っています。また、SLは貧栄養時に根から分泌されることで、リンなどの無機栄養を供給してくれる共生菌であるアーバスキュラー菌根菌※2を活性化し、共生を促進する役割も担っています。すなわち、SLは植物が貧栄養に応答するために利用している非常に重要な分子と言うことが出来ます。一方で、アフリカを中心に農業被害をもたらしている根寄生雑草は、土壌中に放出されたSLを悪用する形で感知して発芽し、作物などの根に寄生することで、水や栄養を奪い取り作物を枯死に至らしめることが知られています。SLを感知して発芽するというシステムは、寄生する相手が近傍に存在するときにのみ発芽する、という意味で根寄生雑草が有する緻密な生存戦略であると考えられます。根寄生雑草による農業被害額は全世界で年間1兆円を超えるとも言われており、その防除が重要な課題となっています。本研究で研究対象に用いているヤセウツボはもともと日本には生育しない外来種ですが、現在では様々な地域に生息していることが知られています。日本国内における大きな農業被害は報告されていませんが、将来的には農地に侵入して被害をもたらすことも懸念されます(図1)。

 根寄生雑草は、50メートルプールに小さじ一杯にも満たない低濃度のSLを感知することができ、非常に高感度にSLを認識して発芽します。しかしながら、なぜそこまで高感度にSLを感知することができるのかは解明されていません。また、ヤセウツボにおいては、SLの受容に関わるタンパク質は同定されていませんでした。一方、2015年に、国内外の3つの研究グループにより、特にアフリカを中心に農業被害をもたらしているストライガ※3という根寄生雑草において高感度なSL受容に関わる受容体タンパク質の同定が報告されました。これらの受容体は、通常の種子植物が有しているホルモン受容体から独自に派生した受容体ファミリーであり、系統解析からヤセウツボにも同じファミリーの遺伝子が存在することが示されていました。しかしながら、それらの詳細な機能は調べられていませんでした。

■研究手法と成果

 本研究グループは、ヤセウツボにおけるSL受容体候補遺伝子について、その詳細な機能を解析しました。ヤセウツボにおいては5つの候補遺伝子が存在していますが(OmKAI2d1~OmKAI2d5)、先行研究を参考にモデル植物であるシロイヌナズナにこれらのSL受容体候補遺伝子を導入した形質転換体を作製しました。シロイヌナズナの種子発芽は、高温条件では顕著に阻害されますが、ヤセウツボのSL受容体候補遺伝子を導入した形質転換体にSLを添加することで発芽阻害が回復するという現象に基づいて、導入した遺伝子の評価を行いました。その結果、OmKAI2d3を導入した形質転換体種子においては、非常に低い濃度のSL存在下でも、高温による発芽阻害が回復することが明らかになりました(図2)。また、OmKAI2d4についても、比較的低い濃度のSL添加により発芽阻害が回復しました。これらの結果から、5つの候補のうち2つにおいてSL依存的な発芽回復が観察され、SL受容能を有することが分かりました。また、そのうちの一方は、ストライガが有する高感度SL受容体に匹敵するほどの高い感度を有することが明らかになりました。すなわち、ヤセウツボはOmKAI2dという高感度なSL受容体を利用することにより、近傍に存在する寄生する相手となるべき植物を効率よく察知して発芽すると考えられます。

 また、ヤセウツボはSLとは化学構造が異なるセスキテルペンラクトン類にも応答して発芽することが知られています。大変興味深いことに、OmKAI2d3を発現した形質転換体においては、比較的高い濃度ではあるものの、セスキテルペンラクトンを投与した際にも発芽阻害の回復が見られました。すなわち、OmKAI2d3がSLのみならず、セスキテルペンラクトンの受容にも関与している可能性が示唆されました。

■今後の期待

 今回の研究では、日本でも自生している根寄生雑草ヤセウツボにおけるストリゴラクトン(SL)受容体タンパク質を同定することに成功しました。本研究の成果は、SLを感知して宿主植物を認識するという、根寄生雑草独自の発芽メカニズムをより詳細に解明することにつながります。特に、今後の研究では、複数存在するSL受容体のうち、特定の受容体のみが高いSL感受性を有する詳細な分子メカニズムや、感受性が高い受容体と低い受容体を併せ持っている生物学的な意義を明らかにする必要があります。ヤセウツボは日本国内にも自生している根寄生雑草であり、将来的に農業被害を及ぼす可能性もあるため、今後SLを認識して発芽、寄生するまでの一連の流れについてより詳細な解析をすることにより、将来的にヤセウツボが農地に侵入した際にも、効果的な防除法の構築につながることが期待されます。根寄生雑草が宿主植物に由来するSLに依存して発芽するというメカニズムに基づいて、宿主が存在しない状態で強制的に発芽を誘導し、枯死に至らせるという「自殺発芽誘導法」という防除法が考案されています。この方法を実用化するためには、受容体に強力に作用する分子を見つけることが重要ですが、OmKAI2d3に作用する分子を探索することにより、ヤセウツボに対する効果的な自殺発芽誘導剤をより効率的に見出すことが可能になると期待されます。

用語説明

※1 植物ホルモン: 植物の成長を制御する化学物質の総称。一般的に植物ホルモンは、植物でごくわずかしか作られない。これまでに、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、 エチレン、ジャスモン酸、アブシジン酸、ブラシノステロイド、ストリゴラクトン、サリチル酸に加え、幾つかのペプチドホルモンなどが発見されている。

※2 菌根菌:菌根を作って植物と共生する菌類のこと。土壌中の糸状菌が、植物の根の表面または内部に着生したものを菌根という。菌根菌は、植物に着生後、土壌中に菌糸を張り巡らし、主にリン酸や窒素を吸収して宿主植物に供給する。代わりにエネルギー源として、植物が光合成により生産した糖などの炭素化合物を得る。そのため、植物は菌根菌と共生することにより、栄養分の乏しい土地での育ちが改善される。

※3 ストライガ:別名「ウィッチウィード」(魔女の雑草)とも呼ばれる根寄生性雑草。植物から分泌されるストリゴラクトンを認識して発芽して、近くの植物の根に寄生し、宿主植物から栄養を吸収する。ストリゴラクトンがなければ発芽できず、種子の状態で何年も休眠したまま生存し続ける。ストライガに寄生された植物は著しく生育が抑制される。特にアフリカでは、ソルガムやトウモロコシなどの農作物における被害が大きく、ストライガの撃退は食糧生産上、重要な課題となっている。

【参考図】

【論文情報】

題目:A divergent clade KAI2 receptor in the root-parasitic plant Orobanche minor is a highly sensitive strigolactone receptor and is involved in the perception of sesquiterpene lactones

著者:Saori Takei, Yuta Uchiyama, Marco Bürger, Taiki Suzuki, Shoma Okabe, Joanne Chory, Yoshiya Seto

 雑誌:Plant & Cell Physiology

DOI:10.1093/pcp/pcad026

https://twitter.com/plantxray/status/1647382937795694592

 (ソーク研究所の共同研究者が作成した本研究成果紹介動画を視聴頂けます)

<取材に関するお問い合わせ>明治大学 経営企画部 広報課 

TEL:03-3296-4082 FAX:03-3296-4087 MAIL:koho@mics.meiji.ac.jp

<研究に関するお問い合わせ>明治大学 農学部農芸化学科 准教授 瀬戸義哉

TEL:044-934-7100 MAIL:yoshiya@meiji.ac.jp

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