日本人高齢者の腸内細菌叢安定性評価に関する論文がBioscience of Microbiota, Food and Health誌に掲載されました

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株式会社サイキンソー(本社:東京都渋谷区、代表取締役:沢井 悠)は、神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の山下智也教授との共同研究により、日本人高齢者の腸内細菌叢安定性評価指標を開発しました。本研究の成果は、2023年10月18日付けで『Bioscience of Microbiota, Food and Health』に早期公開されました(URL:http://dx.doi.org/10.12938/bmfh.2022-047)。
  • 論文概要

タイトル

Gut microbial stability in older Japanese populations: Insights from the Mykinso cohort

(和訳:日本人高齢者の腸内細菌叢安定性評価:マイキンソーコホートからの洞察)

  • 研究概要

【背景と目的】

マイキンソーコホート*1を用いた研究により、これまで、性別、年齢とBMIで層別化した健康な日本人の平均的な腸内細菌叢の特徴を明らかにしてきました。これらの研究成果を踏まえ、日本人の菌叢の基準範囲を定義し、基準値範囲からの逸脱の程度をスコア化した「フローラスコア」を社会実装しました(特許第7295547号)。さらに、マイキンソーコホートの腸内細菌叢を相関*2ネットワーク解析することによって、高齢者のやせおよび肥満で菌種間相互作用が偏位していることを明らかにしました(Yoshida N, et al. BMFH, 2021)。菌種間相互作用の偏位は、菌叢の不安定性に繋がることが示唆されています。

前回に引き続き、サイキンソーは神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の山下教授との共同研究を行い、高齢者のエンテロタイプ別の菌叢共起ネットワークに着目し、やせおよび肥満の菌叢安定性を評価することを試みた。

【方法】

今回の研究では、サイキンソーが実施している研究プロジェクト「マイキンソーコホート研究」に2017年1月から2021年10月までに参加した日本人14,482名の便サンプルのうち、属性情報に基づき高齢者のみに絞り込んだ4,414名を分析しました。WHOのBMI分類に従って、やせ型(BMI<18.5)、普通型(18.5≦BMI<25)、肥満型(25≦BMI)に分類しました。具体的には、便からDNAを抽出し細菌固有の配列を網羅的に解析することで、腸内細菌組成比を算出しました。得られた腸内細菌組成データに対して相関ネットワーク解析*3および安定性解析*3などの統計解析を行い、BMIと腸内細菌叢の安定性との関係を調べました。

【結果】

エンテロタイプおよびBMIによる層別化により、群間の菌叢ネットワークの差を検定したところ、やせで菌叢ネットワークの密度が低いことが観察されました(図1)。さらに、シミュレーションに基づく安定性解析の結果、やせで安定性の指標が低いことが明らかとなりました(図2)。

図1. エンテロタイプP型のBMIで層別した体型間の菌叢の相関ネットワーク差を可視化したグラフ  赤色:普通体重と比べて各体型(左:やせ および 右:肥満)で特徴的な菌種間相互作用図1. エンテロタイプP型のBMIで層別した体型間の菌叢の相関ネットワーク差を可視化したグラフ  赤色:普通体重と比べて各体型(左:やせ および 右:肥満)で特徴的な菌種間相互作用

図2. エンテロタイプP型のBMIで層別したシミュレーションに基づく菌叢安定性解析の結果  (やせ(左)では時間の経過(横軸)によって菌組成の変化が大きい)図2. エンテロタイプP型のBMIで層別したシミュレーションに基づく菌叢安定性解析の結果  (やせ(左)では時間の経過(横軸)によって菌組成の変化が大きい)

【まとめ】

今回の研究により、エンテロタイプとBMIで層別化された日本人高齢者の腸内細菌叢ネットワークの特徴と高齢者に多いやせにおける菌叢ネットワークの不安定さを明らかにすることができました。このことは、腸内細菌叢の安定性がフレイル *4の指標となることが示唆されます。今後は、腸内細菌菌叢の安定性、不安定性を指標化し、フレイルのバイオマーカー、治療ターゲットについても研究を進めていく予定です。

  • 山下智也教授からのコメント

共同研究を実施した神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科の山下教授からも今回の研究に関して以下のようなコメントをいただきました。

「生活習慣病に関連して、『肥満』が悪いという思い込みが起きがちです。高齢者に限れば、『やせ』は、必ずしも良い健康状態を表しているとは限らず、筋肉の減少を反映しておれば、フレイルやサルコペニア *5に関連して、寝たきりになりやすいことを意味するかもしれません。本研究にて、高齢者の『やせ』と、腸内細菌叢の不安定性との関係性が示されたことになります。あくまで関連が示されただけで、因果関係(『やせ』ていると、腸内細菌叢が不安定になるのか、不安定だから『やせ』るのか)が分かったわけではありません。この因果関係を明らかにする研究を実施すれば、腸内細菌を体重管理のために利用できる可能性を示すことができます。不安定とすれば、変化させやすい(=治療に反応しやすい)可能性があり、期待できると良い方に解釈もできます。今後、腸内細菌叢と健康との関係が、さらに解明されて、健康管理に利用できるようになれば理想的です。」

  • 結びに

サイキンソーは今後もマイキンソーコホートを拡大しながら腸内細菌叢と健康の関わりについて研究し、腸内フローラ検査などのサービスを通じて、一人ひとりがより健康的な生活を送るための情報を発信してまいります。

【引用文献】

Yoshida N, et al. “Average Gut Flora in Healthy Japanese Subjects Stratified by Age and Body Mass Index.” Bioscience of Microbiota, Food and Health, December 7, 2021, 2021–56. https://doi.org/10.12938/bmfh.2021-056.

【用語説明】

*1 マイキンソーコホートとは、サイキンソーが展開している腸内フローラ検査サービス「マイキンソー」の受検者を対象とした研究プロジェクトにおける研究対象者であり、2023年10月時点で5万人を超えています。

*2 相関ネットワーク解析では、ある菌種のペアに強い関連があるほど円の中に線が引かれて密になり、関連がない場合は疎となります。図に示すように群間で関連する菌種に差があり、異なる菌種相互作用を特定することができました。

*3 安定性解析とは、相関ネットワーク解析で得られた各群の菌種間相互作用の相関係数を微分方程式に当てはめ、各菌の個体数の変動をシミュレーションし、変動の大きさから安定性/不安定性を評価する方法です。

*4 フレイルとは、筋力の減退等により生活機能が障害され支援が必要な状態を指します。フレイルの一般的な特徴には,筋力低下,運動機能低下,体重減少,筋萎縮(サルコペニア),運動耐容能低下,頻回の転倒,不動状態,失禁,および慢性疾患の頻回の増悪などがあります。

*5 サルコペニアとは、加齢に伴う、筋力の量減少および筋力の低下のことを指します。65歳以上の高齢者の15%程度がサルコペニアに該当すると考えられています。

【謝辞】

本研究にご参加いただいた皆様に感謝いたします。

本研究はサイキンソーが実施している研究プロジェクト「マイキンソーコホート研究」の一環として実施いたしました。ご参加いただいた皆様に深く感謝いたします。

  • 人材募集

株式会社サイキンソーでは「細菌叢で人々を健康に」というミッションを共に実現する仲間を募集しています。お気軽にご連絡ください。

・ 研究プロジェクトマネージャー

    https://herp.careers/v1/cykinso/-tiZHQyYp4U8

・ 研究支援 &学術

   https://herp.careers/v1/cykinso/q4MRB4i_6HoQ

・ データサイエンティスト

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募集ページはこちら:https://cykinso.co.jp/recruit

  • 会社概要

「細菌叢で人々を健康に」を企業理念として、腸内フローラをはじめとする人体の常在細菌叢をデータサイエンスの力で解き明かし、ヘルスケアに貢献することを目指しています。

・会社名:株式会社サイキンソー

・設立   : 2014 年 11 月 19 日

・所在地:東京都渋谷区代々木 1 – 36 – 1 オダカビル 2 階

・代表者:代表取締役 沢井 悠

・主な共同研究先:大阪大学微生物病研究所

・HP    :https://cykinso.co.jp/

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