<概況>
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2023年度上半期の倒産件数は4208件(前年同期3123件、34.7%増)と、上半期としては2年連続で前年を上回り、4年ぶりに4000件を超えた。前年同期を34.7%上回るなど、増加率(年度半期ベース)は2000年度以降で最も高くなった
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負債総額は1兆5868億3600万円(前年同期1兆7657億9500万円、10.1%減)だった。前年同期から減少したものの、パナソニック液晶ディスプレイ㈱やユニゾホールディングス㈱など大型倒産が相次いだこともあり、上半期としては10年ぶりに2年連続で1兆円を超えた
<主要ポイント>
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業種別にみると、15年ぶりに全7業種で前年同期を上回った。『サービス業』(前年同期811件→1022件、26.0%増)が最も多く、『小売業』(同559件→885件、58.3%増)は前年同期から300件を超える大幅増だった
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主因別にみると、『不況型倒産』が2000年度以降初の前年同期から4割増となった
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態様別にみると、「破産」が3959件で、前年同期を1000件以上上回った
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規模別にみると、負債「100億円以上」の倒産が10件で、大型倒産の増加が目立った
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業歴別にみると、『新興企業』が1230件で、上半期としては10年ぶり1200件を超えた
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地域別にみると、15年ぶりに全9地域で前年同期を上回った。『北海道』(前年同期96件→118件、22.9%増)、『東北』(同147件→225件、53.1%増)、『関東』(同1167件→1552件、33.0%増)、『九州』(同231件→358件、55.0%増)では、2019年度上半期を超えた
集計期間:2023年4月1日~9月30日
発表日:2023年10月10日
集計対象:負債1000万円以上法的整理による倒産
集計機関:株式会社帝国データバンク
■業種別
15年ぶりに全7業種で前年同期を上回る 『小売業』は300件超の大幅増加
業種別にみると、上半期としては2008年度以来、15年ぶりに全7業種で前年を上回った。『サービス業』(前年同期811件→1022件、26.0%増)が最も多く、『小売業』(同559件→885件、58.3%増)、『建設業』(同622件→841件、35.2%増)と続いた。『小売業』は前年同期から300件を超える大幅増だった。『運輸・通信業』(同168件→217件、29.2%増)は、上半期としては2014年度以来9年ぶりに200件を超えた。資材価格の高止まりや人手不足が続く『建設業』は、上半期としては2年連続で前年を上回った。
業種を細かくみると、『サービス業』では、「ソフトウェア開発」など「広告・調査・情報サービス」(前年同期228件→334件)が大幅に増加した。『小売業』では、「飲食店」(同202件→381件)が上半期としては過去最多の2020年度(392件)に迫る件数となった。『建設業』では、「内装工事」など「職別工事」(同249件→384件)の増加が目立った。
■倒産主因別
『不況型倒産』は3377件、2000年度以降初の前年同期から4割増
主因別にみると、「販売不振」が3312件(前年同期2339件、41.6%増)で最も多く、全体の78.7%(対前年同期3.8ポイント増)を占めた。「業界不振」(前年同期31件→40件、29.0%増)などを含めた『不況型倒産』の合計は3377件(同2382件、41.8%増)となった。前年同期からの増加率は、2000年度以降で初めて40%を超えた。
「その他の経営計画の失敗」(前年同期136件→152件、11.8%増)は3年ぶりに前年同期を上回った。「経営者の病気、死亡」(同140件→138件、1.4%減)は前年同期を下回ったものの、上半期としては6年連続で100件を超えた。
※倒産主因のうち、販売不振、輸出不振、売掛金回収難、不良債権の累積、業界不振を「不況型倒産」として集計
■倒産態様別
「破産」は3959件、前年同期を1000件以上上回る
倒産態様別にみると、『清算型』倒産の合計は4093件(前年同期3015件、35.8%増)となり、全体の97.3%(対前年同期0.8ポイント増)を占めた。『再生型』倒産は115件(同108件、6.5%増)発生した。
『清算型』では、「破産」が3959件(前年同期2895件、36.8%増)で最も多く、前年同期を1000件以上上回った。「特別清算」は134件(同120件、11.7%増)と、上半期としては2年ぶりに前年を上回った。
『再生型』では、「民事再生法」は115件(前年同期107件、7.5%増)発生した。個人事業主(77件)が2年連続で前年を上回ったが、法人(38件)は2年連続で前年を下回った。
■規模別
負債「5000万円未満」が最多 大型倒産の増加が目立つ
負債規模別にみると、「5000万円未満」の倒産が2424件(前年同期1786件、35.7%増)で最多となった。一方、「100億円未満」が14件(同9件、55.6%増)、「100億円以上」が10件(同7件、42.9%増)となるなど、大型倒産の増加が目立った。
資本金規模別では、『1000万円未満(個人事業主含む)』の倒産が2868件(前年同期2078件、38.0%増)発生し、全体の68.2%を占めた。
■業歴別業歴
「30年以上」が最多 『新興企業』は10年ぶり1200件超え
業歴別にみると、「30年以上」が1355件(前年同期1014件、33.6%増)で最も多く、全体の32.2%を占めた。このうち、老舗企業(業歴100年以上)の倒産は46件(同37件、24.3%増)発生し、上半期としては3年ぶりに前年を上回った。
業歴10年未満の『新興企業』[「3年未満」(前年同期151件→174件、15.2%増)、「5年未満」(同228件→293件、28.5%増)、「10年未満」(同540件→763件、41.3%増)]は1230件(前年同期919件、33.8%増)と、上半期としては10年ぶりに1200件を超えた。内訳を業種別にみると、「サービス業」(同297件→377件、26.9%増)が最多、「小売業」(同173件→298件、72.3%増)、「建設業」(同188件→246件、30.9%増)が続いた。
■地域別
15年ぶりに全9地域で前年同期を上回る 4地域は2019年度上半期超え
地域別にみると、上半期としては2008年度以来、15年ぶりに全9地域で前年を上回った。このうち、『北海道』(前年同期96件→118件、22.9%増)、『東北』(同147件→225件、53.1%増)、『関東』(同1167件→1552件、33.0%増)、『九州』(同231件→358件、55.0%増)の4地域では、コロナ禍前の2019年度上半期の件数を超えた。『北海道』は、「建設業」(同10件→28件)の大幅増が全体の件数を押し上げた。『関東』は、「東京」(同578件→795件)の大幅増もあり、全体でも上半期としてはコロナ禍前の2019年度(1517件)以来の1500件超えとなった。『九州』は、「卸売業」(同21件→48件)などで増加が目立った。『東北』は、上半期としては2019年度(207件)以来4年ぶりに200件超えを記録した。このほか、『近畿』(同789件→1033件、30.9%増)は、「小売業」(同139件→245件)が前年同期から7割以上増えた。特に「飲食店」(同58件→102件)の増加が目立った。
<注目の倒産動向>
■ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産
2023年度上半期は324件発生、喪失総額は600億円にせまる
2023年度上半期の「ゼロゼロ(コロナ)融資後倒産」は、324件(前年同期205件、58.0%増)発生、年度半期ベースで過去最多を更新した。また、実際の融資額が判明した約330社のゼロゼロ融資借入額の平均は約5800万円となり、「不良債権(焦げ付き)」に相当するゼロゼロ融資喪失総額は推計で約596億1700万円にのぼった。
■人手不足倒産
2023年度上半期は135件発生 年度上半期ベースで初の100件超え
2023年度上半期の「人手不足倒産」は、135件(前年同期66件、104.5%増)だった。前年同期から倍増、年度上半期ベースで初の100件超えとなり、通年で過去最多を大幅に更新する見込み。業種別では、『建設業』(51件)が最も多く、『サービス業』(31件)、『運輸・通信業』(23件)が続いた。
■後継者難倒産
2023年度上半期は287件発生、年度半期ベースで過去最多
2023年度上半期の「後継者難倒産」は、287件(前年同期232件、23.7%増)だった。前年同期を55件上回り、年度半期ベースで過去最多を更新した。また、「経営者の病気・死亡」による倒産が全体の約4割を占めるなど、後継者の選定ができずに代表者が活動できなくなり倒産となった企業が目立った。
■物価高(インフレ)倒産
2023年度上半期は383件発生 22年度通年を上回り過去最多へ
2023年度上半期の物価高(インフレ)倒産は、383件(前年同期158件、142.4%増)だった。前年同期から約2.4倍に急増し、このペースで推移すれば、11月にも前年度(463件)を上回る見込み。主因別では、「原材料」や「エネルギー」コスト高騰などが多数を占めたが、「人件費」の上昇による倒産が前年同期の約3倍となった。
今後の見通し
■2023年度上半期の企業倒産、4年ぶり4000件超 「増加局面」鮮明に
2023年度上半期(4-9月)の企業倒産は4208件となった。前年同期(3123件)に比べて1000件以上多く、年度上半期としては2019年度以来4年ぶりに4000件を超えたほか、2年連続で前年を上回った。コロナ対策で導入された実質無利子・無担保融資、いわゆる「ゼロゼロ融資」の返済が本格化したなか、エネルギーなどの「物価高(インフレ)」、「人手不足」「事業承継」問題が中小企業の経営に影を落としている。また、足元ではコロナ禍で猶予されてきた社会保険料などの「公租公課」の徴収も強化され、社屋や土地など資産を差し押さえられたことで経営に行き詰まる公租公課滞納倒産も目立ってきた。こうした四重・五重の苦境が襲い、経営体力に乏しい中小企業を中心に倒産件数を押し上げる要因となっている。
負債総額は1兆5868億3600万円となり、年度上半期としては2年連続で1兆円を突破した。前年同期に発生した自動車部品大手「マレリHD」のような超大型倒産の発生はなかったものの、「ユニゾHD」(4月、負債1262億円)や「パナソニック液晶ディスプレイ」(9月、負債5836億円)など、負債が100億円を超える大型倒産が10件発生した。この件数は13年度上半期(15件)以来10年ぶりの水準となる。
なお、2023年1-9月の企業倒産は合計で6128件となり、10月に2022年通年の倒産件数(6376件)を超え、2年連続の前年比増加が確実となった。このペースで推移した場合、23年の倒産件数はコロナ禍前と同等の8400件前後に達するとみられる。
■発覚が相次ぐ「粉飾決算」 コンプライアンス違反倒産も最多ペースで推移
粉飾決算で財務内容を欺いていた中小企業の倒産が相次いでいる。架空の売り上げ計上などが発覚した「粉飾倒産」の件数は、2023年度は8月までで38件判明し、年度上半期としては4年ぶりに前年を上回った。多額の簿外債務が発覚した「堀正工業」(東京、7月破産)、医療機器製造・販売の「白井松器械」(大阪、9月民事再生)など、10年以上にわたって行ってきた不適切な会計処理が経営破綻直前に判明し、自主再建に対する金融機関などの支援が得られず法的整理を余儀なくされたケースが目立つ。粉飾倒産のほか、業法違反や脱税などを含めた不正が発覚したことで経営破綻に追い込まれた「コンプライアンス違反倒産」は、23年度は8月までに146件判明し、年度上半期としては既に過去最多を更新している。
手厚い資金繰り支援が各企業に行き渡り、倒産を回避できた企業が増加したコロナ禍では、コンプライアンス違反による企業の倒産が表面化しづらい状況が続いた。しかし、こうした支援策が順次縮小・終了し、資金繰りに苦慮する企業が増えるにつれて、過去の粉飾決算といった事例が明るみに出るケースが多い。コロナ対策のゼロゼロ融資も返済が本格化するなか、粉飾決算を隠し切れなくなった企業の倒産増加が顕在化する可能性がある。
■「スタートアップ」「インボイス」「中小企業版・事業再生ガイドライン」に注目
政府は9月26日、物価高対策や賃上げなどを柱とした経済対策を10月末までにまとめると表明した。10月には4600品目以上の飲食料品が値上がりするほか、電気・ガス代など各種サービス価格も上がるなど、企業や家計の負担は今秋から一段と重くなる。2023年度上半期の「物価高倒産」は383件判明し、全倒産件数の約1割を占めるほか、前年同期(158件)の2.4倍に急増した。国内景気は緩やかに回復しているものの、長期化する物価高の影響が及ぼす企業経営への影響は無視できなくなっており、効果的な物価高対策が急がれる。ただ、今後しばらくは物価高の影響が続くとみられ、価格転嫁の状況とともに継続的なウォッチが必要となる。
消費税の税率や税額を請求書に記載する「インボイス(適格請求書)」制度が10月1日にスタートした。足元では大きな混乱は聞かれないものの、課税事業者による免税事業者との取引打ち切りや、消費税額分の値下げを求めたりするケースが今後表面化する可能性がある。個人事業者を中心に、立場の弱い免税事業者ゆえの負担増に耐えかねた廃業や倒産の動向に注視が必要だ。近時になって目立ってきた「スタートアップ企業」の倒産や、「中小企業版・事業再生ガイドライン」の活用状況なども、今後の倒産動向をみるうえで欠かせない視点となる。