東南アジアのエアコン市場 気候変動を加速する低効率エアコンが74%を占め、日本を含む多国籍家電メーカーが製造・輸出にかかわっていることが明らかに。

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CLASPは、 9月20日、IGSDの支援を受けて作成した、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの6市場におけるエアコン市場の調査報告書を発表した。

その結果、2021年の6市場におけるエアコンの総販売台数(620万台)の内、74%が「低効率」に分類され、シンガポールを除く、残りの5市場は低効率のエアコンが主流化していることが明らかになった。

低効率のエアコンには温暖化排出係数の高い、旧式の冷媒が使用されている。低効率エアコンの増加は、気候変動をすすめ、各国の送電網に負荷をかけるだけでなく、消費者にも高い電気代を負担させることになる。

なお、これらのエアコンは、自国では高効率なエアコンを製造している、多国籍企業によって製造されている。つまり、国内の法律や規制の目をかいくぐった、「環境ダンピング」と言える。

レポートのPDFはこちら https://is.gd/v5Eppr

毎年、記録的な熱波が東南アジア、そして世界をうだるように暑くする中、何百万人もの人々の生活と暮らしを支えるため、家庭用エアコンの需要が急増すると予測されている*1。

報告書では、もしこれら6カ国すべてが、エアコンの「環境ダンピング」を止めることができれば、2025年から2050年の25年間で、累積排出量を二酸化炭素換算で10億トン以上削減することができるとしている。これは、マレーシア、フィリピン、タイの年間総合計CO2排出量に相当する。同じく、2025年から25年間の累計で、消費者は1億4800万米ドル(約218億円)の電気代を節約することができ、これはインドネシアの2021年のGDPの12%に相当する。

 

*1 2019年時点では、東南アジアの家庭の15%しかエアコンを所有していなかったが、販売台数は今後20年間で6倍に増加する見込み(IEA. (2022) )。

 

 

  • 報告書の主なポイント 

●この「環境ダンピング」に責任のある主要な多国籍ブランドは、中国、日本、韓国、米国に本社がある。東南アジアの電力の大半は化石燃料で発電しているため、エネルギーを多く使用する非効率なエアコンは、間接的にではあるが実質、炭素排出をすすめることになる。

 

●2021年には、6市場の総販売台数(620万台)の74%が「低効率*2」に分類された。しかし、低効率エアコンの販売状況は国によって異なる。インドネシアとフィリピンではかなり古い技術を使った低効率エアコンが販売されており、割合はそれぞれ97%と78%となっている。一方、ベトナム、マレーシア、タイはいずれも60%前後で、シンガポールは最も効率的なエアコン市場で、低効率エアコンの販売台数はわずか21%だった。

 

●東南アジアに輸入されるエアコンの大半は、エアコンを生産している多国籍企業の自国の最低エネルギー性能基準(MEPS)を満たしていない。つまり、非効率なエアコンはそのブランドの国内では販売が禁じられている。中国から東南アジアに輸入されるエアコンの約93%は、中国のMEPSの要件を満たしていない。韓国から東南アジアへ輸出されるエアコンの59%、日本から東南アジアへ輸出されるエアコンの21%は、各ブランドの自国要件を下回っている。

 

● 東南アジアの6つのエアコン市場は、温室効果の高いHFC冷媒を使用している。エアコンに使用される温室効果の高い冷媒、それがR-410Aだ。R-410Aは、オゾン層を破壊する物質に関する​​モントリオール議定書の下で廃止が予定されている旧式の冷媒で、地球温暖化係数が2,088、つまり二酸化炭素の2,000倍以上もの温室効果がある。

R-410Aを使用するエアコンは2021年に東南アジアで販売されたエアコンの35%を占め、シンガポール(90%)とタイ(66%)では最も高い割合となっている。

*2 中国(インバータ)の最低エネルギー性能基準(CC≦4.5kWの場合はCSPF6.1Wh/Wh、4.5kW<CC≦7.1kWの場合はCSPF5.1Wh/Wh、7.1kW<CC≦14.0kWの場合はCSPF4.5Wh/Wh)を下回るエアコン。同基準は、ASEANの2025年目標であり、エアコンのU4Eモデル規制のガイダンスに準ずる。

 CLASPのクリスティーン・イーガン最高経営責任者(CEO)は、この調査について次のように述べている。

 

「毎年、高温が記録更新されるような世界的な気候緊急事態のさなかにあって、手頃で効率的なエアコンの生産と販売が、東南アジアやその他の地域の市場にまで広がっていないことは衝撃的です。この調査は、このような時代遅れの、エネルギーを大量に消費する家電製品の流入を止めることによって、追加的なコストとCO2の削減が可能であることを示しています。何百万人もの人々に命を救う冷房を提供するために行動を起こさないのは非論理的です」

 

また、IGS(Institute for Governance & Sustainable Development)のシニア・カウンセルのテッド・フェリスは、次のように警告している。

「この報告書は、あらゆる生物と生態系に有害な貿易慣行を警告しています。時代遅れの冷媒を使用した非効率的なエアコンの野放図な環境ダンピングは、気候緊急事態の中で記録的な熱波に直面している脆弱な東南アジアの地域社会に法外な犠牲を強いています。今、この流れを変えることが急務です。本報告書は、旧式冷媒を使用した非効率なエアコンの高いライフサイクルコストをなくすために、多国籍企業と輸出入国の協力的なコミットメントを含む一連の解決策を強調しています」

この報告書では、調査結果をもとに、環境ダンピングを軽減するための実行可能な勧告として、以下の3点を提案している。

  • 妥協のないエネルギー性能基準の導入

  • 好ましい貿易慣行の促進

  • 反環境ダンピング政策の執行の緊急性

 

これらの措置は、環境とエネルギーシステムに対する悪影響を低減し、誰もが冷房を利用することができるようにするために極めて重要である。

<団体情報>

CLASP

 CLASPは、人の暮らしと環境を改善するため家電製品の効率とエネルギーアクセスに関する調査と促進をリードする国際的な非営利組織です。CLAPは政府や産業界、地域社会などと協力し、できる限り高品質で資源消費量の少ない製品に向けた政策や市場の推進に取り組んでいます。https://www.clasp.ngo/

 

IGSD
ガバナンスと持続可能な開発のための研究所 (IGSD) は、短期的な温暖化と自己増幅的な気候フィードバックを減速させ、地球の気温を1.5℃に抑える、あるいは少なくともこの気温を維持するために、二酸化炭素以外の気候汚染物質の迅速な削減とその他の迅速な気候緩和戦略に取り組んでいる。科学、技術、法律と政策、気候資金を活用し、世界レベル、地域レベル、国レベル、サブナショナル・レベルで活動している。https://www.igsd.org/

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