- 現場検証の背景
2050年までの脱炭素社会の実現には、我が国全体のCO2排出量の約14%を占める「鉄鋼部門」における排出抑制の取り組みが不可欠であり、そのためには現在日本において主流となっている高炉法に比べ、CO2排出量を75%以上削減できる電炉法による鉄鋼生産の拡大が求められています。朝日工業は、鉄スクラップを主要原料として、環境に配慮しながら鉄筋と構造用鋼を製造する電炉メーカーです。「資源循環型社会を創るトップランナーでありたい」という認識の下、資源循環型社会の実現を目指し、限りある資源の有効利用に取り組んでいます。電炉鋼材普及において鍵を握るのが、原料である鉄スクラップの品質管理です。鉄スクラップは受け入れ時の現場検収員による高度な検品作業により原材料品質を担保しています。しかし、日々搬入される大量のスクラップに対する正確な検品作業には、習熟したスキルが要求される反面、人手不足や熟練工の高齢化など、事業者が対応を迫られている構造的な課題は少なくありません。そのような状況を打破すべく、属人的なスキルのAIによる客観化、技術継承を行うために、EVERSTEELは朝日工業との鉄スクラップ自動解析AIシステムの現場検証実験を開始しました。
- 現場検証の内容
1.現場滞在、および検収員のスキル定量化
EVERSTEEL代表の田島が直接工場に2週間滞在し、朝日工業専用の検収AI開発に向け、独自の検収基準・不適合品対応の現地調査、操業把握を実施しました。国内の熟練工が行う、単純な厚みやサイズだけに限らない独自の等級査定を、AI検収で実現するために、EVERSTEELでは開発者側が、現場検収員と同等の検収スキルを獲得した上で開発を行うことをモットーにしています。特に現場調査では、検収員ごとの等級査定のばらつきの定量化を行いました。工場では検収員が鉄スクラップを目視で確認し等級査定をしており、検収員には経験と高いスキルが求められますが、検収員によって等級査定のばらつきは免れず、業界全体の課題となっています。今回の現場調査を経て、検収員全員の査定結果と荷降ろしされるスクラップの検収作業を分析し、検収員による査定のばらつきを定量化しました。
2.本AIシステムの開発
等級分類では、本AIシステムによりトラック1台に積載されたスクラップに対する等級査定を実施致します。ヘビースクラップの査定において、検収員の査定精度に比べ、EVERSTEELの査定精度は約88%となり、現場検証期間において、すでに本AIシステムが検収員の検収スキルと近い精度で検収を実施可能であることを確認いたしました。またヤードで夜間に撮影されたスクラップデータでも解析を実施し、深夜帯のデータでも問題なく等級分類が可能であることを検証しました。
通常の等級分類AI開発では、教師データを作成するために、検収員が画像1枚毎に等級査定データを入力する膨大な作業が必要です。しかしEVERSTEELでは、日々の操業で通常に実施される検収員のトラック1台ごとの検収結果のみを教師データとすることが可能です。今回の朝日工業との取り組みでも、本AIで約88%という高い精度を確認できました。図2での単一の等級で構成されるトラックに対する解析に加え、図3では、複数の等級が混在するトラックに対しても、検収員の査定に近い精度でAI解析が可能であることが確認できています。
図2. 単一等級分類スクラップでの結果比較例(青:AI、橙:検収員)
図3. 複数等級混在スクラップでの結果比較例(青:AI、橙:検収員)
異物検出では、本AIシステムにより鋼材中への混入が課題となる不純物や、炉内にて急反応を引き起こす密閉物といった「異物」を検出します。現場検証期間において、本AIシステムによってトランプエレメントの代表であるモーターについて、図4の例のように検出可能であることを確認いたしました。
図4. 異物検出結果例(モーター)
- 本運用に向けた展望
本AIシステムの本運用に向け、11月より現場検収員と同等レベルを目指したAI開発を開始します。本期間では、実操業への導入を想定し、これまで解析対象としたヘビースクラップに加え、新断、ダライ粉、シュレッダーといった荷受スクラップの全品種への解析拡大を行い、ベテラン検収員と同等レベルの査定が可能なフル機能のAIの開発を行います。また、ヤード荷下ろし全荷受口へカメラ導入を実施し、データ収集スピードを加速させることで、開発効率を一挙に向上し短期間での開発完了を目指します。
図5.国内に流通する鉄スクラップ品種例(左)、異物例(右)
- 両社の代表コメント
朝日工業株式会社:常務取締役 管理本部長 関根傑氏
「少子高齢化が進み労働人口が減少していく日本で、重工業である鉄鋼業では業務効率化のためにAI技術の導入が不可欠です。朝日工業では業務効率化プロジェクトの第一歩として、この度EVERSTEELとのAI検収の開発に着手しました。また、これまで電炉メーカーでは鉄スクラップ中の全ての不純物などの特定は最終段階の製鋼でしか分からず、問題発生時の原因特定が困難とされてきました。質の良い鉄を製鋼するためには原料であるスクラップ段階で、AIによる安定的な検収の実施が必要です。EVERSTEELとのAI検収の開発を進めることで今まで困難とされてきた問題の解決に取り組んでまいります。」
株式会社EVERSTEEL:代表取締役社長 田島圭二郎
「脱炭素社会実現への転換が強く叫ばれる昨今ではありますが、特に鉄鋼業のような重厚長大産業において、新たな操業への転換は容易ではありません。多くの企業の中でも率先して技術導入を行い、業務改革を行う朝日工業様との取組みは、弊社としても大変貴重なものです。荷下ろし全4荷受口へカメラ導入し、本格的な開発で一挙に成果をあげるという朝日工業様のご意向のもと、早期に検収員レベルと同等の検収が可能なAIの開発を完了させていきます。」
- 現場検証のインタビューをnoteにて公開
朝日工業株式会社のみなさまにインタビューした内容をnoteで公開しています。
https://note.com/eversteel/n/n7b6c7010a9bd
- 会社概要
朝日工業株式会社について
会社名:朝日工業株式会社
本社所在地;東京都豊島区東池袋3-23-5 Daiwa東池袋ビル
代表取締役社長:中村 紀之
設立:1991年10月29日
URL;http://www.asahi-kg.co.jp/
株式会社EVERSTEELについて
会社名:株式会社EVERSTEEL
本社所在地:東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ202
代表者取締役社長:田島 圭二郎
設立:2021年3月16日
URL;https://eversteel.co.jp/
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社EVERSTEEL(担当:広報 小宮)
Email:contact@eversteel.co.jp東京都文京区本郷7-3-1 東京大学南研究棟アントレプレナーラボ202