ゾンビ企業率の高い地域は「東北」 業種は「小売」 業歴30年以上が7割超

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ゾンビ企業は約16.5万社――前回(7月27日発表)の「ゾンビ企業」レポートでは、国際決済銀行(BIS)の定義に基づき、TDBの企業財務データベース「COSMOS1」からゾンビ企業1万2037社を抽出、ゾンビ企業率は11.3%、ゾンビ企業数は企業概要データベース「COSMOS2」によって全国16.5万社と推計した。今回、この1万2037社の属性について多角的に分析し、ゾンビ企業の実態を浮き彫りにした。
<調査結果(要旨)>

  1. ゾンビ企業の属性分析
    売上規模は「1億~5億円未満」(構成比44.4%)が最多。ゾンビ企業の3分の2が年商5億円未満の中小企業。従業員規模は20人以下が約7割
    業歴別にみると、「30年以上」が全体の7割超
    「売上高経常利益率」の平均は▲3.59%と倒産企業の▲4.07%に近似している。「有利子負債月商倍率」は10.39倍で生存企業(※)の約2倍に達する。「借入金平均金利」は1.26%と生存企業と同等。「現預金手持日数」は一定量を確保し、「自己資本比率」は1.24%と辛うじて資産超過を維持。つまり、利払い能力のないゾンビ企業の経営課題は収益力向上と債務削減
  2. ゾンビ企業率の分析
    業種別では、最も高いのは「小売業」(17.4%)
    地域別では、「東北」(16.0%)、「中国」(13.3%)が高い
    取引金融機関別では、「信用組合」(13.8%)、「政府系金融機関」(12.5%)が高い

ゾンビ企業の属性分析:「規模別」「業歴別」「財務分析」 
規模別:3分の2が年商5億円未満

売り上げ規模別売り上げ規模別

ゾンビ企業(1万2037社)を規模別にみると、売上規模では「1億〜5億円未満」が構成比44.4%で最多となった。ゾンビ企業の3社に2社は年商5億円未満の中小企業である。従業員規模別にみると「6〜20人」が最多で、構成比36.9%となった。「5人以下」の小規模業者も31.0%と多い。BISの定義上、ゾンビ企業は設立10年以上の企業であることを鑑みれば、業歴に比して収益力が思うように高まらない中小・零細業者がゾンビ企業化しやすいと言える。

業歴別:「30年以上」が全体の7割超

業歴別業歴別

10 年ごとに区切った業歴別にみると、「50〜59年」が最多で構成比15.4%。 業歴30 年以上が全体の7割超に達し、50年以上でも4割を占める。 

後継者の有無:「後継者不在」は6割超 

後継者の有無後継者の有無

後継者の有無をみると、「後継者あり」の企業は39.0%、「後継者不在(未定・未詳含む)」は61.0%となり、ゾンビ企業の過半は後継者不在となっている。 

なお、一般的な企業の後継者不在率も61.5%(※)と同水準であり、大差がないようにみえるが、ゾンビ企業は国際決済銀行(BIS)の定義として設立10 年以上経過している企業であることを加味すれば、実質的な後継者不在率としてはやや高いと言えよう。

※2021年11月の特別企画:全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)。 

財務分析:有利子負債月商倍率は10倍超と倒産水域を上回る 
ゾンビ企業を財務面から分析し、「生存企業」「倒産企業」との比較を行った。 各種財務指標は、対象企業の平均値(※)から算出。生存企業は、『全国企業財務諸表分析統計 第64版』(帝国データバンク発行)の2020年度時点の全地域全業種15万418社(ゾンビ企業を含む)。倒産企業は、2000年以降に倒産した企業のうち、倒産した年から3期以内の決算内容が判明している3万8979社を対象として集計・分析した。

売上高経常利益率売上高経常利益率

企業の収益力を示す「売上高経常利益率」をみると、ゾンビ企業の平均は▲3.59%と経常赤字になっていることがわかる。これは倒産企業の平均である▲4.07%と近似しており、ゾンビ企業の収益力は倒産水域にあると判断できる。 

ICRICR

ゾンビ企業の定義にもなっている「インタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)」は、▲13.50倍と、生存企業を大きく下回るほか、倒産企業の平均をも下回っている。 ゾンビ企業の定義上、こうした傾向となっているが、生存企業のICRが56.84倍であることを加味すれば、収益面の悪化に伴う利払い能力の低下がゾンビ企業の大きな特徴である。 

有利子負債月商倍率有利子負債月商倍率

借入負担を示す「有利子負債月商倍率」は、生存企業の5.41倍に対して、ゾンビ企業は10.39倍と約2倍になっている。 倒産企業の平均が8.50倍であることから、ゾンビ企業は既に倒産水域を上回る過剰債務状態にあることが判明した。 

借入金平均金利借入金平均金利

一方で、金利負担を示す「借入金平均金利」は、生存企業の1.16%に対して、ゾンビ企業もほぼ同等の1.26%と低水準となっている。  近年の低金利政策や条件面で優遇のある制度融資の利用が進んでいることで、ゾンビ企業であっても金利負担は生存企業と同程度である。借入負担は重いものの、金利面での負担感は小さい。

現預金手持ち日数現預金手持ち日数

手元資金の量を示す「現預金手持日数」は、生存企業の104.02日と比べ、ゾンビ企業は83.63日とやや少ないものの、倒産企業平均である27.90 日と比べれば潤沢と言える。 ゾンビ企業であっても、手元現金を一定量確保していることから一応の資金操作ができていることがうかがえる。ただし、上述の有利子負債月商倍率の状況を踏まえれば、借入によって手元資金を厚くしているだけとみることもでき、抜本的な収益性の回復が課題とみられる。

自己資本比率自己資本比率

企業の安定性を示す「自己資本比率」をみると、ゾンビ企業は1.24%と辛うじて資産超過を維持していることがわかる。 倒産企業の平均が▲18.50%(債務超過)となっていることを鑑みれば、ゾンビ企業は倒産の一歩手前で踏みとどまっていると言える。

ゾンビ企業の財務分析をまとめると、ゾンビ企業は収益力の低さと過剰債務によって生み出されている半面、借入による手元資金の確保と低金利によって一応の資金繰りをつけられていることが判明した。しかしながら、自己資本比率は債務超過一歩手前であり、過剰債務の解消と抜本的な収益力の向上が早期に果たされなければ、倒産という選択肢を採らざるを得なくなる可能性が高い。

ゾンビ企業率の分析:「業種別」「地域別」「金融機関別」 
業種別:ゾンビ企業率は「小売業」が高い 

業種別業種別

生存企業に占めるゾンビ企業の割合を「ゾンビ企業率」と定義し、業種別の状況をみると、「小売業」が最も高い 17.4%となった。全業種平均のゾンビ企業率 11.3%と比べると6.1ポイント高い。 また、燃料価格や人件費等の上昇に伴う価格転嫁が難しく利幅を確保しにくい「運輸・通信業」(ゾンビ企業率 14.9%)や、設備投資に伴う債務が大きくなりやすい「製造業」(同12.9%)が全業種平均を上回った。 

業種細分類別業種細分類別

業種をさらに細かくみると、ゾンビ企業率の高いものとしては「菓子・パン類卸売業」(同26.3%)や「酒場・ビヤホール」(同 25.6%)、「病院」(同24.3%)、「印刷業」(同 24.3%)がある。上位業種の内容をみると、「菓子・パン類卸売業」や「スポーツ用品小売業」「和洋紙卸売業」といった価格転嫁が難しく比較的収益性の低い業種と、「病院」や「印刷業」、「旅館」といった設備投資による債務過多に陥りやすい業種とに概ね二分されている。 

地域別:ゾンビ企業率が高いのは「東北」 

地域別地域別

ゾンビ企業率を地域別にみると、最も高いのは「東北」の16.0%。全国平均の11.3%に対して4.7ポイント高い。次いで「中国」の13.3%となっている。 「東北」については、東日本大震災からの復興に伴う資金繰り支援策や返済猶予措置などがあり、他地域に比べ借入負担が増加していることが背景にあるとみられる。また、これら支援措置の実施以降、抜本的な収益面の改善に至っていないことも理由となっていよう。 金融支援はあくまで延命措置であり、支援期間内で収益構造の見直しが進まなければ、必然的にゾンビ企業となる可能性がある。

都道府県別都道府県別

都道府県別図都道府県別図

金融機関別:構成比では「地方銀行」が最多 

取引銀行別取引銀行別

金融機関別の構成比と、ゾンビ企業率をみた。 まず、ゾンビ企業が取引している金融機関(1社あたり最大10行までを集計)の構成比は「地方銀行」が最も多く、構成比31.2%を占めた。「第二地方銀行」を合わせた構成比は4割超に達している。次いで「信用金庫」が同20.1%、「政府系金融機関」が同16.9%となった。 地方銀行や信用金庫といった地域密着の金融機関を軸に、政府系金融機関が受け皿となる形でゾンビ企業に関わっている。

取引金融機関業態別取引金融機関業態別

更に、金融機関別のゾンビ企業率(※)をみると、「信用組合」が13.8%と最も高く、次いで「政府系金融機関」の12.5%となっている。逆に「都市銀行(メガバンク)」は7.0%と、取引先に最もゾンビ企業が少ない業態となっている。 信用組合, 3.1%政府系金融機関, 16.9%信用金庫, 20.1%都市銀行, 16.0%第二地方銀行, 11.2%外国銀行, 0.0% ※金融機関が取引している企業のうち、ゾンビ企業が含まれている割合。なお、ゾンビ企業 1,000 社以上と取引のある業態のみ抜粋している。  

ゾンビ企業の主な倒産事例(参考)

ゾンビ企業の主な倒産事例ゾンビ企業の主な倒産事例

ゾンビ企業の主な倒産事例を調査  ゾンビ企業は、2011年度に過去最多の2万1132社(ゾンビ企業率19.8%)となった。リーマン・ショック後に施行された中小企業金融円滑化法によって、延命した企業が多かった時期に当たる。当時のゾンビ企業のうち、2022年7月までに確認できた主な倒産企業は、カブトデコム(株)(北海道、建設業、負債5061億円)や、(株)ウエストワンズ(兵庫県、サービス業、負債264億円)など。 

2020年度のゾンビ企業・倒産2020年度のゾンビ企業・倒産

今回分析を行った2020年度のゾンビ企業1万2037社では、2022年7月までに確認できた主な倒産として、アンフィニ(株)(大阪府、電力事業、負債87億円)、タストン・リサイクル(株)(東京都、製造業、負債51億円)、土山印刷(株)(京都府、製造業、負債27億円)などがある。 

今回、ゾンビ企業に関する調査は第2弾となり、より詳細なゾンビ企業の属性・実態が判明した。大きな特徴として、「借入金利」「手元資金」には一定の余裕がみられる半面、「低収益」「過剰債務」が深刻な問題となっていることがわかった。業種別、地域別にもそれぞれ特徴があり、様々な属性に応じたよりきめ細やかなサポートが必要とされるだろう。 また、サポートと言っても、最大の課題である「低収益」「過剰債務」に対しては、縮小均衡による収益力の向上や、私的整理手続きの活用等による債務カットといった抜本的かつ即効性の高い施策が必要不可欠なケースも多いと思われる。 ゾンビ企業は、現時点では辛うじて資産超過を維持できている状況であり、このまま債務超過に転じれば倒産リスクも極めて高くなる。いずれにしても、ドラスティックな早期の立て直しを実行しない限り、国内のゾンビ企業はポスト・コロナの局面において増加を続ける可能性が高い。

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