事業継続計画『策定意向あり』3年連続で5割を下回る コロナ禍のリスク低減とスキル・ノウハウ、人手不足が主要因に

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2023年は死者・行方不明者数が10万人を超えた国内最大の災害である関東大震災から100年の節目の年となる。その後も伊勢湾台風や阪神淡路大震災、東日本大震災など多くの災害によって甚大な被害が各地で発生してきた。

近年も毎年のようにゲリラ豪雨、台風などの風水害や土砂災害などの自然災害ほか、新型コロナウイルスの感染が拡大するなど感染症のリスクも目に見える形で社会生活、企業活動に影響を与えている。さらに、不穏な海外情勢やサイバー攻撃などの経営リスクが高まり、企業には危機管理が強く求められている。

平常時からこうした緊急事態に対する準備が、事業継続のみならず企業価値の維持・向上の観点からも重要である。

そこで、帝国データバンクは事業継続計画(BCP)に対する企業の見解について調査を実施した。本調査は、TDB景気動向調査2023年5月調査とともに行った。

<調査結果(要旨)>

  1. 企業のBCP策定率は18.4%、『策定意向あり』は48.6%と3年連続で5割を下回る

  2. 想定リスクは「自然災害」が7割でトップ 「感染症」は13.1ポイント低下

  3. リスクへの備えは「従業員の安否確認手段の整備」が68.2%でトップ

  4. BCPを策定していない理由はスキル・ノウハウの不足、人材確保できないが上位に

調査対象:全国2万7,930社で、有効回答企業数は1万1,420社(回答率40.9%)

調査期間:2023年5月18日~5月31日

調査機関:株式会社帝国データバンク

企業のBCP策定率は18.4%、『策定意向あり』は48.6%と3年連続で5割を下回る

自社における事業継続計画(以下、BCP)の策定状況について尋ねたところ、「策定している」企業の割合(以下、BCP策定率)は18.4%となった。前回調査(2022年5月)から0.7ポイント増加し、2018年から6年連続で増加している。しかし、「現在、策定中」(7.5%、前年比0.1ポイント減)、「策定を検討している」(22.7%、同1.9ポイント減)はそれぞれ減少し、BCPに対して『策定意向あり』(「策定している」「現在、策定中」「策定を検討している」の合計)とする企業は48.6%(同1.3ポイント減)となった。新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年をピークに、2021年以降は3年連続で5割を下回っていた。

BCP策定率を規模別にみると、「大企業」が35.5%(同1.8ポイント増)、「中小企業」が15.3%(同0.6ポイント増)となった。「大企業」は2016年からは8.0ポイント上昇している。一方、「中小企業」は3.0ポイントの上昇にとどまった。

想定リスクは「自然災害」が7割でトップ 「感染症」は13.1ポイント低下

BCPについて『策定意向あり』とする企業に対して、どのようなリスクによって事業の継続が困難になると想定しているか尋ねたところ、地震や風水害、噴火などの「自然災害」が71.8%となり、最も高くなった(複数回答、以下同)。次いで、「設備の故障」(41.6%)が続いた。

新型コロナ感染症の5類移行にともないインフルエンザ、新型ウイルス、SARSなど「感染症」(40.4%)は前回から13.1ポイントも低下した。

その一方で、震度5弱以上の地震が各地で起きていることから「取引先の被災」(31.4%)、「物流(サプライチェーン)の混乱」(34.7%)が上昇した。

リスクへの備えは「従業員の安否確認手段の整備」が68.2%でトップ

BCPについて『策定意向あり』とする企業に対して、事業が中断するリスクに備えて実施あるいは検討している内容を尋ねたところ、「従業員の安否確認手段の整備」が68.2%で最も高かった。(複数回答、以下同)。以下、「情報システムのバックアップ」が57.1%、「緊急時の指揮・命令系統の構築」が41.0%で続いた。

「大企業」では従業員の安否確認や情報システムの管理などの備えを重視し、「中小企業」では「調達先・仕入先の分散」や「代替生産先・仕入先・業務委託先・販売場所の確保」といったサプライチェーンに関する備えが「大企業」と比較して高かった。

BCPを策定していない理由はスキル・ノウハウの不足、人材確保できないが上位に

BCPを「策定していない」企業にその理由を尋ねたところ、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」が42.0%で最も高かった(複数回答、以下同)。次いで、「策定する人材を確保できない」が30.8%、「策定する時間を確保できない」が26.8%で続いた。

「大企業」では「策定する人材を確保できない」(36.4%)などリソース不足によって策定できないと考える企業が「中小企業」と比較して高かった。一方、「中小企業」では「必要性を感じない」(21.6%)が「大企業」と比較して7.2ポイントも高かった。

BCP策定への取組みに対する意識や優先順位が下がる傾向に

本調査の結果、BCPについて、『策定意向あり』とする企業の割合は48.6%にとどまり、新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた2020年をピークに3年連続で低下した。新型コロナウイルス感染拡大というリスクが表面化したことで一時的に企業の取り組み意識が高まったが、時間の経過とともに相対的に優先順位が低下してきたようだ。

BCPを策定するなかで想定するリスクとしては、「自然災害」が最も重要視されているほか、「設備の故障」や「感染症」、「情報セキュリティ上のリスク」を想定している企業も多い。その備えとして「従業員の安否確認手段の整備」や「情報システムのバックアップ」といった人的資源や知的財産の保護を目的としたものが高い傾向にあった。

一方で、BCPを策定していない企業では、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」ことを理由にあげる企業が4割超に及んでいる。そのほか、策定する人材や時間を確保できないと考える企業の割合も高いことが策定への大きな障壁となっているようだ。

ポストコロナに向けて経済活動が加速していくなか、BCP策定への取組みに対する意識や優先順位が下がる傾向がある。しかし、BCPの準備を怠ることで経済活動に与えるマイナスの影響は大きく、企業、行政が連携して対策を講じていくことが求められよう。

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