子宮頸がんの罹患率は2000年以降上昇しています。(出典:国立がん研究センター がん情報サービス)
現在、子宮頸がん対策で効果が高いとされるHPVワクチンの接種は、日本での集団接種が2013年に開始されたものの、僅か2ヶ月で積極的な勧奨が差し控えられました。 その後2022年4月に接種の積極的勧奨が再開されましたが、この間、子宮頸がんの前がん状態(CIN)および子宮頸がんの罹患率が上昇し続けています。(出典:国立がん研究センター がん情報サービス)HPV感染後は、CIN・上皮内がんを経て子宮頸がんへの進行を抑える効果はワクチンにはなく、子宮頸がん検診による「がん化の早期発見」と、子宮温存のための「円錐切除」による対応が中心です。しかし円錐切除は、手術における取り残しや追加治療が必要となる場合、また再発する場合もあります。さらに円錐切除術後には早産率の上昇もあり、不妊症の原因になることもあります。(出典:東海大学 三上幹男 日本婦人科腫瘍学会(2017年))
今回北診療教授らが開発に取り組む治療法は、「光線力学的療法(PDT)」の技術を応用して子宮頸がんの前段階、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)の状態で治療するもので、手術で切除することなく低侵襲で行える、患者さんに優しい治療法です。この治療法を前がん状態と診断されたが治療方法に悩んでいる患者さんに、一刻でも早くお届けするために、クラウドファンディングを行うことにいたしました。
【会見概要】
日時 | 2022年7月5日(火) 10:30~11:30 |
場所 | 関西医科大学 枚方キャンパス 医学部棟4階 中会議室 |
出席予定者 | 関西医科大学 友田幸一学長、産科学・婦人科学講座 岡田英孝教授、同 北正人診療教授 |
発表予定 | 10:30 開始、出席者紹介 10:32 ご挨拶(友田学長) 10:35 開発の背景(岡田教授) 10:38 開発の詳細(北診療教授) 11:10 クラウドファンディング概要説明 11:13 質疑応答 |
<本事業の背景>
子宮頸がんは、年間で約1万人の女性が診断されるがんです。子宮頸がんの罹患率は、2000年までは下降傾向でしたが、2000年以降は上昇に転じています。死亡率は1995年以降、横ばいからやや上昇傾向になっており、特に初期がんである上皮内がんが、日本では近年大きく増加しています。(出典:国立がん研究センター がん情報サービス)現在、子宮頸がん対策で効果が高いとされるHPVワクチンの接種は、日本では集団接種が2013年に開始されましたが、僅か2ヶ月で積極的な勧奨が差し控えられました。2022年4月、ようやく接種の積極的勧奨が再開されましたが、この間、子宮頸がんの前がん状態(CIN)および子宮頸がんの罹患率が上昇し続けています。(出典:国立がん研究センター がん情報サービス)これらの課題を解消していくためには、HPVワクチンの積極的勧奨と並行して、多方面から子宮頸がんに立ち向かい、対策を進めていくことが必要です。
<本事業の意義>
現在の子宮頸がん対策で効果が高いとされるHPVワクチンは、多くの子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの感染予防のためのワクチンです。しかし、HPV感染後は、CIN・上皮内がんを経て子宮頸がんへと進行していく段階を抑える効果はありません。この場合は、子宮頸がん検診による「がん化の早期発見」と、子宮温存のための「円錐切除」が中心です。しかし円錐切除は、子宮頸部の表面を手術で取り除く方法であり、手術における取り残しや追加治療、その後の再発もしばしば問題になります。これらの場合は、さらに子宮頸部の追加切除や子宮摘出 が必要になります。
また、円錐切除は術後の早産率が26%(出典:東海大学 三上幹男 日本婦人科腫瘍学会(2017年))と、日本における全妊娠の早産率とされる約5%(出典:日本産科婦人科学会HP 早産・切迫早産)と比較して高いことも知られており、不妊症の原因になることもある手術です。
今回、北診療教授らは、「光線力学的療法(PDT)」の技術を応用して、子宮頸がんの前段階、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)の状態で治療することで、その後の子宮頸がん発症を予防する治療法の確立を目指して、開発を進めています。この「光線力学的療法(PDT)」は、「がん細胞に集まり、光に反応して抗がん作用を示す薬剤(5-アミノレブリン酸:5-aminolevulinic acid)」と、「特定の波長の光の照射」を組み合わせ、がん細胞に細胞死を誘導する仕組みです。
北診療教授の研究ではこの技術を応用して、子宮頸がんの前段階、子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)の状態で治療することで、その後の子宮頸がん発症を予防する治療法の確立を目指して、開発を進めています。
5-アミノレブリン酸はヒトの体内で合成される生体アミノ酸で、医薬品やサプリメントにもなっています。医薬品としては、内服してがんを発光させ診断する光線力学的診断(PDD)の薬として国内でも用いられており、海外では塗布後に光線をあてて治療する光線力学的療法(PDT)の薬として、一部のがん等で用いられています(出典:J Clin Aesthet Dermatol. 2021)。5-アミノレブリン酸は体内ではミトコンドリア内でつくられますが、体外から投与されると、細胞質に取り込まれてからミトコンドリア内に取り込まれ、プロトポルフィリンIX(PPIX)が合成されます。正常細胞では、PPIXからヘムが合成されて生体で利用されます。ところが、がん細胞では、5-アミノレブリン酸からヘムへ生成されにくいため、細胞内にPPIXのまま蓄積します。
そして、がん細胞に蓄積したPPIXへ特定の波長の光を照射すると、蛍光を発するとともに、活性酸素が発生します。活性酸素は、がん細胞に細胞死(主にアポトーシス※2)を誘導します。これを利用するのがPDTです。
しかし既存のPDTでは、光を照射しにくく、患者さんと医師の双方に負担がかかるという治療のしにくさがありました。今回の研究ではPDTに使用可能なシリコン製の腟内アプリケーターを開発しました。これにより、PDT治療を受ける患者さんの器具挿入に伴う痛みや姿勢の負担を軽減させた、日帰り治療の実現を目指しています。
この治療法は子宮頸がんの前がん状態に対する有望な治療法でありながら、子宮頸がん予防の世界的潮流はHPVワクチンであり、企業の協力がなかなか得られず計画が止まってしまっています。この治療法を、日本をはじめとするワクチン接種が進んでいない国へ、ワクチン接種の機会を逸してしまった患者さんへ、前がん状態と診断されたが治療方法に悩んでいる患者さんへ、一刻でも早くお届けするために、我々はクラウドファンディングを行うことにいたしました。
本プロジェクトでいただくご寄付をもとに、近いゴールとしては国からの公的資金の獲得を目指しています。それ以降は、数年間にわたる非臨床試験、臨床試験を経て、実際の医療現場で活用していただくための検証を進めてまいります
<クラウドファンディング概要>
・プロジェクトタイトル:子宮頸がんの前がん状態を光で治療する未来へ|公的資金の獲得に向けて
・ページURL:https://readyfor.jp/projects/kgan_pdt
・実行者:関西医科大学 産科学・婦人科学講座 診療教授 北 正人
・目標金額:1,000万円
・形式:寄付金控除型 / All-or-Nothing方式(期間中に目標金額以上のご寄付が集まった場合のみ寄付金を受け取ります)
・募集期間:2022年7月5日(火)9時~2022年8月31日(水)23時
・資金使途:(1)京都大学医学部附属病院 先端医療研究開発機構(iACT)臨床試験橋渡しプログラム経費:500万円 / (2)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)戦略相談対策 費:335万円 / (3)クラウドファンディング手数料:165万円
<クラウドファンディングとは>
個人や組織がやりたいことをインターネット上に掲載し、不特定多数から資金を集める手法のこと。群衆を意味する「Crowd」と資金調達「Funding」を組み合わせた造語です。現在は防災やジャーナリズム、社会・政治活動、ベンチャー企業への出資、映画、ソフトウェア開発などの分野で利活用が進んでおり、近年は医療・医学界においても活用例が増えています。
<クラウドファンディングの事例>
今回本学と共同でクラウドファンディングを行うREADYFOR社の、過去の医療系プロジェクトをご紹介します。
・本学外科学講座 里井壯平診療教授 / 寄附 総額35,393,000円
プロジェクトタイトル:膵がん腹膜転移の患者さんに希望の光を。新しい治療法の挑戦へ
▶URL:https://readyfor.jp/projects/suigan
・本学小児科学講座 石﨑 優子 診療教授 / 寄附 総額10,240,000円
プロジェクトタイトル:起立性調節障害の子どもたちへ
▶URL:https://readyfor.jp/projects/KMUOD2021
■READYFOR社について
社名:READYFOR株式会社
サービス名:READYFOR
所在地: 東京都千代田区一番町8 住友不動産一番町ビル 7階
代表者: 米良はるか、樋浦直樹
設立:2014年7月
【用語解説】
1.前がん状態
ある組織にがんができる前に、がんに先立って発生する病変。
2.アポトーシス
細胞が構成している組織をより良い状態に保つため、細胞自体にプログラムとして組み込まれた細胞の死。
【本件取材についてのお問合せ】
学校法人 関西医科大学 広報戦略室(佐脇・矢島)
〒573-1010 大阪府枚方市新町2-5-1
電話:072-804-2128 ファクス:072-804-2638 メール:kmuinfo@hirakata.kmu.ac.jp