企業のメインバンク「ネット銀行」急伸、10年で5倍 楽天銀行は初の1000社 全国シェアトップは三菱UFJ銀行

この記事は約8分で読めます。
人口減少、超低金利による貸出金利の低下など金融機関は厳しい経営環境が続くなか、地方銀行を中心に再編の動きが活発化している。10月には、戦後初となる愛知県下の地銀統合として、愛知銀行と中京銀行による持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ(FG)」が発足した。11月には、ふくおかFGと福岡中央銀行が経営統合に向け基本合意に達し、同グループ最大の経営基盤となる福岡県下で勢力を拡大させる。

 コロナ禍で疲弊した中小企業への支援が、経営再建や事業承継、取引先の新規開拓など、資金繰りから企業再編・再生へと移ろうなかで、地域金融機関に求められる役割は経営の様々な場面で増している。金融機関によっては実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などで地域密着型の経営を選択する傾向もあるなか、金利以外の魅力度を高めた金融機関が様々な課題を持つ企業から幅広い支持を得る形となり、今後メインバンクシェアに変化が訪れる可能性がある。

<調査結果(要素)>

  1. 2022年の全国メインバンク社数トップは「三菱UFJ銀行」となった。企業数は9万5718社となり、2009年の調査開始以降14年連続のトップとなった。しかし、社数は減少が続いているほか、全国シェアも6.53%と前年から0.11ポイント(pt)減少。13年連続のシェア縮小となり、減少幅は21年に続き全金融機関で最大となっている
  2. 業態別にみると、シェアが最も高いのは「地方銀行」で40.52%となり、前年から0.01pt増加した。全業態のなかでは唯一3年連続でシェア4割を超え、2009年の調査開始以降、地方銀行のシェアは総じて拡大傾向が続いている
  3. 各都道府県別に企業がメインバンクとして認識している金融機関をみると、「東京都」と「大阪府」、「埼玉県」、「愛知県」、「兵庫県」の5都府県で、都市銀行がトップシェアとなった。一方、42道府県では地方銀行・第二地方銀行がトップシェアを占めた

帝国データバンクでは、2022年10月末時点の企業概要データベース「COSMOS2」(約147万社収録、特殊法人・個人事業主含む)をもとに、企業が「メインバンク」と認識する金融機関を分析した。一企業に複数のメインがあるケースでは、各企業が最上位として認識している金融機関をメインバンクとした。同調査は2021年12月に続き14回目。
[注] 本調査は帝国データバンクが独自に調査・保有する企業概要データベース「COSMOS2」に収録された企業データであるため、各金融機関がメインとして認識する実数と異なる場合がある

全国金融機関ランキング2022:多摩信金、前年からの増加社数が全国最多
2022年の全国メインバンク社数トップは「三菱UFJ銀行」となった。企業数は9万5718社となり、2009年の調査開始以降14年連続のトップとなった。しかし、社数は減少が続いているほか、全国シェアも6.53%と前年から0.11ポイント(pt)減少。13年連続のシェア縮小となり、減少幅は21年に続き全金融機関で最大となっている。2位は「三井住友銀行」の7万6880社(シェア5.25%)で、前年からシェアで0.08pt、社数で約560社減少した。3位の「みずほ銀行」も、シェアで0.06pt、社数で400社超減少した。この結果、都市銀行(メガ)上位3行のメイン社数は昨年比で約1800社、シェアにして計0.25ptの減少となり、昨年に比べて減少幅は緩やかとなったものの、減少傾向が続いた。一方、同じメガの「りそな銀行」(3万753社、同2.10%)「埼玉りそな銀行」(1万7593社、同1.20%)は、ともに社数で増加した。

地方・第二地方銀行では「北洋銀行」(2万3965社)が最多。次いで「福岡銀行」(2万2096社)、「千葉銀行」(2万1422社)、「西日本シティ銀行」(2万777社)と続く。上位10行のうち、千葉銀行は最もメイン社数が増加した。また、全体で最もメイン社数が増加したのは「多摩信金」(7212社)で、前年から352社増加した。上位60行庫でも300社を超える増加幅となったのは、多摩信金と宮崎銀行(9519社、+313社)の2行庫のみだった。

ネット銀行が急伸、10年前から社数5倍超 地銀・信金のシェア拡大続く
業態別にみると、シェアが最も高いのは「地方銀行」で40.52%となり、前年から0.01pt増加した。全業態のなかでは唯一3年連続でシェア4割を超え、2009年の調査開始以降、地方銀行のシェアは総じて拡大傾向が続いている。次いでシェアが大きい「信用金庫」(シェア23.47%)は4年連続でシェアが拡大したほか、拡大幅は0.08ptと全業態中最大だった。エリア・県単位で拠点の集約・再編が続く「農協」(シェア1.24%)もシェアが拡大しており、農協では2009年からのシェア拡大幅が地方銀行に次いで大きい。 

他方、全国で3メガを含む「都市銀行(メガバンク)」のシェアは19.30%で、前年を0.24pt下回り過去最低を更新した。シェアの低下幅は前年と並んで2009年以来過去最大で、シェア縮小の傾向が続く。「第二地方銀行」(シェア9.64%)は4年連続で1割を下回り、2年連続で前年から縮小した。「信用組合」(シェア2.46%)は3年ぶりにシェア低下の動きが止まった。

実店舗を持たず、インターネットバンキングなどオンラインでの金融事業を主力事業とする「ネット銀行(新形態の銀行)」では、他業態に比べ大幅なシェア拡大が続く。 ネット銀行のシェアは0.17%(前年比+0.03pt)、社数で約2500社に達した。10年前から社数で5.5倍、シェアで約6倍に拡大している。10年前に比べどの業態から「流入」したかを分析した結果、最も多いのは「都市銀行」で36.45%、「地方銀行」(26.17%)、「信用金庫」(15.89%)などが続いた。コロナ禍で、企業の入金方法などが対面からインターネットバンキング(IB)などに変化しているなか[1]、決済手数料や基本利用料の低さを背景に、ネット銀行の口座開設・切り替えを進める企業が増えている。ネット銀行では「楽天銀行」が、メイン社数で初めて1000社を突破した。PayPay銀行(旧ジャパンネット銀行)、住信SBIネット銀行もそれぞれメイン社数の増加が100社を超えており、これら3行を中心にネット銀行全体のシェアを押し上げている。

[1] 企業の多様な資金調達手法に関する実態調査 (2021年3月)― 帝国データバンク

1行で「単独過半シェア」、20県 統合予定を含めると22県に
各都道府県別に企業がメインバンクとして認識している金融機関をみると、「東京都」と「大阪府」、「埼玉県」、「愛知県」、「兵庫県」の5都府県で、都市銀行がトップシェアとなった。一方、42道府県では地方銀行・第二地方銀行がトップシェアを占めた。

都道府県シェアで最も高いのは「長崎県」の十八親和銀行で、県内シェア84.30%を占めた。前年から0.04pt増加し、2番目に高い「和歌山県」(紀陽銀行:県内シェア63.52%)を20pt超上回り、1行単独シェアとしては全国的にみても極めて高い。3位以下は、「島根県」(山陰合同銀行:同61.97%)、「奈良県」(南都銀行:同61.20%)、「愛媛県」(伊予銀行:同60.28%)、「宮崎県」(宮崎銀行:同60.02%)と続き、単独で県内シェアが6割を超えたのはこの5県のみ。ただ、上位6県のうち3県はシェアが減少しており、他行などからの侵食もみられる。

1行が単独過半数のシェアを有する都道府県は合計20に上り、前年に比べ変化はなかった。ただ、既に経営統合が発表されている青森県(青森銀行+みちのく銀行:シェア70.51%)、福井県(福井銀行+福邦銀行:同55.12%)を加えると、単独過半数シェアの都道府県は計22となる。愛知県では経営統合する愛知銀行と中京銀行のシェア合計は約1割にとどまるが、県内トップシェアの三菱UFJ銀行に次ぐ県内2番手の規模となる。2022年に新たに経営統合の方針が発表された長野県(八十二銀行+長野銀行:同61.62%)は、八十二銀行単独で県内シェア50%を超える。一方、福岡県における福岡銀行と福岡中央銀行のシェア合計は38.37%にとどまった。

このほか、前年からシェアを拡大させたのは21、低下したのは26。最もシェアが拡大したのは「宮崎県」の宮崎銀行(前年比+0.58pt)。最も縮小させたのは「香川県」の百十四銀行(前年比▲0.58pt)となっている。

今後の見通し ~ 「ネット銀行」既存金融機関に代わる受け皿として台頭 ~
経営統合や合併を軸とした地銀の合従連衡など、「地銀再編」が再び進みつつある。地場産業の衰退による融資先の減少などコロナ禍前から厳しい経営環境を余儀なくされてきた地域金融機関は、中小企業の事業承継問題やデジタル変革(DX)、脱炭素対応など前向きな資金需要に加え、コロナ融資などで過大な債務を背負った中小企業の事業再生を支援する役割も求められるようになり、低金利貸出以外のニーズにも対応可能な経営基盤の強化を迫られている。近年、「重複エリアの融資先などで情報交換が密となり、新規開拓などでメリットが活かせている」(大手地銀)など多行間連携によるシナジー(相乗)効果は既に認められており、経営の独立性は保持しつつもハード・ソフト面を共有するなど、緩やかな連携=アライアンスの結成を目指す動きが先行していた。今後は、営業エリアの重複解消や店舗・人員など組織のスリム化に向け、「経営統合」という、さらに一歩踏み込んだ対応を取る地域金融機関が増える可能性がある。

相次ぐ経営統合や、トップ行による寡占化などは、「借り手」からは手数料の引き上げや店舗整理に伴う利便性悪化、競争低下による融資への悪影響を心配する声も少なくない。一方、低コストでの送金や口座維持手数料の無料化など利便性の高い決済機能面を強みに、ネット銀行が店舗型金融機関の新たな受け皿となりつつあるほか、他地域から越境してサービスを提供する金融機関も多く、金融機関の選択肢は以前に比べ増えている。コロナ禍における地方経済下支えが至上命題となる地域金融機関では、経営統合や事業・資本提携などの形に捉われることなく、融資先企業のニーズに沿った金融・経営支援を持続的に展開できる経営基盤の強化が、引き続き求められる。
 

タイトルとURLをコピーしました