ジェームズ ダイソン アワード2022 世界29か国・地域、1,600以上の応募作品から傷口用保護材スマートpHセンサーが国際最優秀賞作品に決定

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次世代のエンジニアやデザイナー支援・育成を目的に、ジェームズ ダイソン財団が主催する国際エンジニアリングアワード、James Dyson Award (以下、JDA) 2022の国際最優秀賞、サステナビリティ賞、国際準優秀賞の3つのグローバル賞受賞作品を発表しました。これら3作品は、10月に発表した国際TOP20の中から、ダイソン社創業者兼チーフエンジニアのジェームズ ダイソン自身が選出し、決定しました。

  • 国際最優秀賞作品 – SmartHEAL(ポーランド): ポーランドのワルシャワ工科大学の学生が発明した、pH値を測定することで傷の治り具合を示す傷口用保護材のスマートセンサー。(上記写真左)
  • サステナビリティ賞 – Polyformer(カナダ): カナダのマックマスター大学の学生が発明した、ペットボトルを発展途上国向けの安価な3Dプリンター用フィラメントに再生するための機械。(上記写真中央)
  • 国際準優秀賞 – Ivvy(ベルギー): ベルギーのアントワープ大学のシャルロット ブランケ(Charlotte Blancke)が考案した、患者の快適性と機動性を向上させる、既存の点滴棒器具に代わるウェアラブルデバイス。(上記写真右)

*動画はこちらから(英語のみ): https://youtu.be/r6g_72Dpp18

 

ジェームズ ダイソン アワードは、2005年の初開催より、世界中の若きエンジニアや科学者から寄せられた300を超える前途有望な発明に、100万ポンド以上(約1億5,100万円)*の賞金を授与しています。1,600以上もの応募作品が世界中から寄せられた今年、ジェームズ ダイソンは、国際優秀賞2作品(各3万ポンド 約453万円*)、準優秀賞1作品(賞金5,000ポンド 約76万円*)を選出し、今後のさらなる研究開発や発展を支援します。
*参考金額: 1ポンド=151円 受賞発表時の為替相場に応じて換算予定

JDA 2022を振り返り、ダイソン社創業者兼チーフエンジニアのジェームズ ダイソンは次のように述べています。
「毎年、ジェームズ ダイソン アワードは、若者たちが地球環境の改善や環境問題・医療問題の解決に熱心に取り組んでいることを実証しています。自分の関心のある問題について大げさに語る人がいますが、この若い発明家たちはもっと生産的なことを行っています。彼らは、工学、科学、独創的なデザインを駆使して、問題解決に真摯に取り組んでいます」 
 

各受賞作品

  • 国際最優秀賞 – SmartHEAL: トーマス・ラジンスキー(Tomasz Raczyński)、ドミニク・ブラニッキ(Dominik Baraniecki)ピョートル・ウォルター(Piotr Walter) – ポーランド

この発明作品で解決を試みる問題
傷口は、保護材で覆われていると治り具合がわかりにくいものです。しかし、保護材を頻繁に交換すると、傷の治りが遅くなり、感染症や組織の破壊を引き起こす可能性があるのです。*¹

傷の治りが悪いと、組織の炎症だけでなく、壊死(体組織の回復不能な壊死)を引き起こし、重症化したり、死に至ることがあります。

米国政府の推計によると、2060年には高齢者人口は7,700万人を超えると言われており、米国では、65歳以上の高齢者の3%が開放創を有していると言われています。この年齢層では、特に慢性創傷が持続的な問題となる可能性があります。*²

解決策
現在の創傷の診断方法は、色、匂い、温度などの主観的な評価や高価な生化学的検査に頼っているのが現状です。*⁴

SmartHEALは、高精度、低価格で応用範囲の広い、傷口用保護材スマートpHセンサーです。SmartHEALは、RFID(無線自動識別)通信システムを利用し、傷口のpHをモニターすることで保護材を剥がすことなく、つまり、組織を破壊することなく傷口の状態を把握し、感染症を検出することができます。4そして、医療関係者はそのデータを分析し、傷口に合った治療法を処方することができます。スマート保護材は、バランスのとれた創傷環境を作り出し、その状態を維持します。*⁵

ダイソン社創業者兼チーフエンジニア ジェームズ ダイソンは次のように述べています。
「私たちは皆、保護材や絆創膏を恐る恐る剥がして、その下がどうなっているのか見たことがあるでしょう。傷の治り具合を示す重要なデータであるpH値を医師や患者に提供する傷口用スマート保護材SmartHEALは、国際最優秀賞を受賞しました。これは治療を改善し、感染を防ぎ、命を救うことができます。この受賞が、商業化に向けて困難な道を進むチームの原動力となることを願っています」

次のステップ
今後、検証を終えてから臨床試験を開始する予定です。そして、3年後の2025年にSmartHEAL傷口用保護材の流通・販売を開始できるよう、認証取得を目指します。

国際最優秀賞受賞に関し、SmartHEALチームは次のように述べています。
「私たちは、今年のジェームズ ダイソンアワードの国際最優秀賞を受賞し、とてもワクワクしています!これは私たちにとって、より大きなもの、世界を変えることのできる発明になるための素晴らしいチャンスです。SmartHEALの商品化に向けて、プロトタイプの改良、特許の取得、必要な臨床試験の合格に努めていきます。ジェームズ ダイソン本人からの『おめでとう!あなた方がジェームズ ダイソン アワードの国際最優秀賞です』という言葉は、今でも私たちの耳に残っており、信じられない気持ちと喜び、嬉しさでいっぱいです!」

事実と統計情報
•先進国では、一生の間に人口の1~2%が慢性創傷を経験すると言われています。*⁶
•創傷閉鎖と年齢との間には負の相関があるため、高齢化社会の劇的な増加は、こうした数字を増加させるでしょう。
•慢性創傷は、米国では全人口の約2.5%のQoLに影響を与え、創傷の管理は医療に大きな経済的インパクトを与えています。*⁷

https://www.cornerstoneuc.com/2021/04/23/side-effects-of-improper-wound-care/
*² https://www.liebertpub.com/doi/10.1089/wound.2021.0026
*³ https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acssensors.1c00552
*⁴  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4486717/#:~:text=pH%20has%20a%20significant%20role,at%2Drisk%20or%20infected%20wounds.
*⁵ https://www.news-medical.net/health/How-Could-Smart-Bandages-Revolutionize-Wound-Care.aspx
*⁶ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5017042/
*⁷ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8024242/
 

  • サステナビリティ賞 – Polyformer: スワレ・オワイス(Swaleh Owais)とレイテン・チェン(Reiten Cheng)- カナダ

この発明作品で解決を試みる問題
スワレとレイテンは、ルワンダのメイカースペースで働くうちに、フィラメントの輸入価格が高額すぎるため、現地の多くの人々がメイカースペースの3Dプリンターを使えないことを知りました。*⁸ 彼らはまた、別の課題として、ルワンダにはペットボトルをリサイクルするためのインフラが整っていないことにも注目しました。

解決策
Polyformerは、ペットボトルを3Dプリンターのフィラメントに変える低コストの機械です。Polyformerは、ペットボトルを長い帯状に切断し、それを成形機に供給します。そして、この帯状の素材をノズルを通して、1.75mmのフィラメントに熱成形します。フィラメントは通風孔を通り、プラスチックを冷却した後にスプールに巻き付けられ、3Dプリンターに挿入されます。 

この発明のターゲットは、3Dプリンター用フィラメントの輸入価格が高い発展途上国です。Polyformerによって、メーカーは安価で高品質な3Dプリンター用フィラメントを容易に入手することができるようになります。これにより、途上国でのデザインインフラの活用やキャリアアップが促進されるとともに、作り手が自ら廃棄物をリサイクルし、その成果を生産的に活用することができるようになります。 *⁹

ダイソン社創業者兼チーフエンジニア ジェームズ ダイソンは次のように述べています。
「Polyformerは、使用済みのペットボトルを3Dプリンターのフィラメントにすることで、埋め立てられるゴミの量を減らし、特に発展途上国のエンジニアやデザイナーに安価で豊富な材料を提供することに貢献します。彼らのアイデアは、他の発明家たちにも3Dプリンターを使ってアイデアを試作する新しい可能性を提供することでしょう。」

次のステップ
現在、スワレとレイテンはルワンダのパートナーであるメイカースペースで展開するための新しいPolyformerを製作中で、PolyformerプロジェクトとしてPolyjoiner、Polydryer、Polyspoolerなどの新しい発明品を開発しているところです。

<彼らの新しい発明品>
1. Polyjoiner
一般的な500mlのペットボトルでは3mのフィラメントしか作れず、多くの出力作業にはこれは十分な長さではありません。そこで、スワレとレイテンは、複数のフィラメントを自動的に結合し、1本の長いフィラメントにする仕組み、Polyjoinerを開発しました。
簡単なデモはこちらから: https://youtu.be/JGTlgK1d208

2. Polydryer
PET素材は吸湿性があるため、ペットボトルに入れた水の一部を吸収してしまいます。フィラメントに水分が含まれてしまうと、出力品質に悪影響を及ぼします。そこで、スワレとレイテンは、3Dプリンターのフィラメントから水分を蒸発させる低価格な機械、Polydryerを開発しています。

 3. Polyspooler
3Dプリンターのフィラメントは、長い繊維をスプールに巻き付ける必要があります。これによって、プリンター稼働中にフィラメントが絡まることがありません。Polyformerチームは、リサイクルフィラメントを自動で巻き取る機械、Polyspoolerを開発し、より実用性の高いフィラメントを開発しています。

Polyformerプロジェクトは100%オープンソースで、すべてのCAD、コード、製作手順は彼らのDiscordサイトで公開されています(https://discord.gg/d6eYykSs)。オープンソースソフトウェアは、開発コストが低く、セキュリティが高く、品質が良いため、発展途上国の成長にとって有益です。*¹⁰ コラボレーション、雇用機会、スキル開発をサポートし、コミュニティの発展と集団公平性を促進します。*¹¹

サステナビリティ賞受賞に関し、Polyformerチームは次のように述べています。
「ジェームズ ダイソン アワード2022サステナビリティ賞の受賞は大変光栄なことです。賞金は、ルワンダのパートナーであるメイカースペースに、数台のPolyformerとPolyformer-Liteを配備するために使用します。この機械により、ルワンダの学生、デザイナー、メーカーが低価格の3Dプリンター用フィラメントを入手することができるようになります。つまり、コミュニティの3Dプリンターをより有効活用できるようになります。自身でPolyformerを作ってみたい方は、こちらをご覧ください(https://discord.gg/77esvRwu)。」

事実と統計情報
•米国で発生するプラスチック廃棄物4,000万トンのうち、2021年には、わずか5%から6%、つまり約200万トン
しかリサイクルされていません。*¹²
  o2020年のボトルのリサイクル総量は27.2%となり、2019年の28.7%から低下しています。
  oペットボトルは分解に450年以上かかると言われています。
•2021年の世界の3Dプリンターの市場規模は138億4,000万米ドル(約1兆9,400億円)で、2022年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)20.8%で拡大すると予測されています。
  o世界的に見ると、2021年に220万台の3Dプリンターが出荷され、2030年には2,150万台に達すると予想されています。*¹³
•標準的な1kgのフィラメントのロールは、ルワンダでは45ユーロ以上(約6,800円)で販売されています。ドイツでは、同じフィラメントを11ユーロ(約1,660円)で購入することができます。この価格差は、ルワンダの購買力の低さによって、さらに大きくなっています。フィラメントが法外に高いため、ルワンダ人が3Dプリントサービスを利用するには、高い障壁があります。*¹⁴
•発展途上国における消費者のリサイクル行動に影響を与える主要な要因の第一は、リサイクルサービスの利用しやすさであり、多くの場合、リサイクル回収サービスの利便性に基づいています。*¹⁵
•リサイクルへのアクセスが容易な消費者は、リサイクルを行う可能性が25%高いことが分かっています。*¹⁶

*⁸ https://www.ic3dprinters.com/trade-wars-and-tariffs-a-3d-printing-perspective/
*⁹ https://www.forbes.com/sites/richarddaveni/2019/03/19/how-3d-printing-can-jumpstart-developing-economies/
*¹⁰ https://www.researchgate.net/publication/261960028_Success_of_Open_Source_in_Developing_Countries_The_Case_of_Iran
*¹¹ https://www.openaccessgovernment.org/open-source-technology/129261/
*¹² https://www.weforum.org/agenda/2022/06/recycling-global-statistics-facts-plastic-paper/
*¹³ https://www.grandviewresearch.com/industry-analysis/3d-printing-industry-analysis
*¹⁴ https://nyerekatech.com/shop/pla-filament-1-75mm-1kg-roll-for-3d-printer/
*¹⁵ https://www.researchgate.net/publication/323104735_Post-consumer_plastic_packaging_waste_in_England_Assessing_the_yield_of_multiple_collection-recycling_schemes
*¹⁶ https://www.researchgate.net/publication/299074048_What_keeps_Chinese_from_recycling_Accessibility_of_recycling_facilities_and_the_behavior
 

  • 国際準優秀賞 – Ivvy : シャルロット ブランケ(Charlotte Blancke)の発明

この発明作品で解決を試みる問題
シャルロットは、母親の同僚が、自分の子どもが治療で使うことになった点滴器具に不満を持ち、娘の快適性を高めるために、実際に点滴のポールをコートハンガーに替えたそうです。

それをきっかけに調査したところ、在宅医療が増加しているが、在宅点滴療法に使用する機器は、在宅という異なる環境で使用するにもかかわらず、病院と同じものであることがわかりました。療養や長期療養のために在宅医療サービスを利用する患者が増える中、複雑な医療機器が家庭内で頻繁に用いられるようになり、しばしば不適切な条件下で使用されるようになりました。*¹⁷

解決策
輸液療法とは、カニューレや針を通して、輸液や薬剤を一定のペースで投与する治療法です。18 Ivvy は、現在の点滴ポールに代わるウェアラブルデバイスで、患者さんに最適な可動性を提供し、使いやすい輸液ポンプと、看護師が遠隔で患者をモニターするためのソフトウェアが搭載されています。

現在は、静脈内治療に関するフィードバックが不足しており、既存の輸液ポンプのインターフェースも複雑です。シャルロットは、シンプルなインターフェースで直感的に使用できる輸液ポンプを開発しました。看護師は在宅治療の設定を簡単に行うことができ、患者さんはLED、ディスプレイ、音による通知で治療の様子を確認することができます。 

ダイソン社創業者兼チーフエンジニア ジェームズ ダイソンは次のように述べています。
「昔ながらの背の高い台で点滴をしながら治療を受けると、自宅が病院のように思えてきます。Ivvyは、シンプルなコンセプトで、人々の治療を改善し、生活の質を向上させることができます。シャルロットのアイデアが商品化に向けて発展することを祈っています」

次のステップ
業界のプロフェッショナルと協力しながら、シャルロットはIvvyのさらなる発展を目指しています。

事実と統計情報
•現在の点滴スタンドはコストがかかり、デザインも複雑です。看護師と点滴ポールの間には無線通信がなく、機械は大きな電力を消費します。*¹⁹
•最も一般的な点滴スタンドは、自立式の移動ポールです。このデザインの最大の欠点は、転倒しやすいことです。背が高く、底面が比較的小さいため、不安定です。*²⁰

*¹⁷  https://www.fda.gov/medical-devices/home-health-and-consumer-devices/home-use-devices
*¹⁸ https://www.healthline.com/health/infusion-therapy
*¹⁹ https://www.hindawi.com/journals/jhe/2020/7963497/
*²⁰ https://hal.archives-ouvertes.fr/hal-01966833/document

James Dyson Awardは2023年も開催を予定しております。応募開始時期に関しては別途アナウンスいたします。

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