アミノ酸由来人工核酸モノマーの工業生産プロセス確立、核酸医薬等の試験研究用途向けに販売を開始

この記事は約7分で読めます。
従来の医薬では治療できなかった疾患に対する革新的医薬としての発展が期待されている核酸医薬の原料となるモノマーを、世界で初めて販売開始!
【ポイント】

  • 名古屋大学によって開発されたアミノ酸由来の人工核酸モノマー(1)(iL-aTNAシリーズ、SNAシリーズ)の工業生産プロセスを確立し、核酸医薬等の試験研究用途(2)向けに製造、世界で初めて販売を開始しました。
  • このモノマーを原料とした核酸医薬は生体内での安定性と安全性が高いという医薬として顕著な特徴が明確になりつつあり、従来の医薬では治療できなかった疾患に対する革新的医薬としての発展が期待されています。
  • 今後、更に新たな機能性人工核酸モノマーの製品ラインナップ拡充と応用製品の事業化に向けた取組みを通じて、個別化医療(3)に貢献していきます。

 

核酸医薬は疾患の原因となる遺伝子にも直接作用する核酸医薬は疾患の原因となる遺伝子にも直接作用する

【背景】
日華化学(本社:福井県福井市)は、この度、アミノ酸由来の人工核酸モノマー(iL-aTNAシリーズ、SNAシリーズ)の工業生産プロセスを確立し、核酸医薬等の試験研究用途向けに製造・販売を開始しました。

核酸医薬は、低分子医薬(4)やバイオ医薬(5)に続く第3の医薬とも言われ、従来の医薬では有効な治療法がなかった疾病に応用できる可能性があり、次世代の医薬として高い期待が寄せられています。

しかしながら、従来の天然核酸由来の核酸医薬は生体内で分解されやすく薬効が発現しにくい傾向があり、また化学修飾型人工核酸(6)由来の核酸医薬は生体毒性が高い傾向があるといったように、安定性と安全性の両立が困難であるといった課題を抱えていました。

 

 この課題を解決することを目的とし、東海国立大学機構名古屋大学(所在地:愛知県名古屋市、総長:松尾 清一) 大学院工学研究科の浅沼浩之教授らの研究チームによって、生体内で分解されにくく、安全性の高い化学修飾型人工核酸である「アミノ酸由来人工核酸モノマー」(iL-aTNAシリーズ、SNAシリーズ。以下「本モノマー」と省略。)が開発されました。本モノマーは既存の人工核酸とは構造が全く異なっており、糖骨格を持たないアミノ酸のセリン(7)やトレオニン(8)の誘導体を構造に持つ新しいタイプの化学修飾型人工核酸になります。

当社はこれまで、浅沼教授らの研究チームとオリゴ核酸(9)合成の業務提携先である北海道システム・サイエンス株式会社との共同研究により、個別化医療に貢献する新たな核酸医薬の実用化に向けて開発を進めてきました。浅沼教授らの研究チームによる非臨床試験の結果から、本モノマーを組み込んで合成される核酸医薬は生体内で分解されずに薬効が発現しやすく、かつ生体毒性が低いという医薬として顕著な特徴が明確になりつつあり、今後、従来の医薬では治療できなかった癌、代謝性疾患、神経・筋疾患や遺伝性疾患に対する革新的医薬としての発展が期待されています。更に、生体内での安定性や安全性が高いという特徴から、投与量の制御が容易でありコストパフォーマンスに優れる核酸医薬や、細胞内で発現している微量な変異遺伝子を高感度に直接検出できる試薬などへの応用可能性が考えられています。

【開発の成果と今後の展開】
当社では本モノマーを組み込んだ核酸医薬の非臨床試験向け需要増に対応するべく、本モノマーの合成方法を見直し、従来の合成方法と比べて合成効率を大幅に高めた工業生産プロセスを確立しました。そしてこの度、本モノマーの製造、及び、核酸医薬等の試験研究用途向けに販売を開始致しました。現在、本モノマーの販売を行っているのは世界で当社のみとなります。まずは共同研究、連携先である大学や研究機関向けに販売・提供を行うことで、新たな核酸医薬の研究・開発に貢献してまいります。
 

 

当社は中期経営計画「INNOVATION25」にてEHD(環境・健康・デジタル/先端材料)を軸とした成長戦略を発表しており、H(健康・衛生)領域においては2021年度30億円(連結実績)、2025年度52億円(連結予測)の事業計画を立てております。そしてこの度、当社の機能性人工核酸モノマーの製品群として、本モノマーをラインナップに載せることができました。また、2016年より可逆性光架橋型人工核酸モノマー(CNVシリーズ:開発品)の製造および販売を行っており、現在CNVシリーズを応用した遺伝子検査試薬の開発も進めております。今後、更に新たな機能性人工核酸モノマーの製品ラインナップ拡充とそれらを応用した遺伝子検査試薬の事業化に向けた取組みを加速させ、核酸医薬中間体や遺伝子検査試薬をH領域における新たな成長エンジンとして、個別化医療の実現を目指してまいります。
以 上

【注釈】
 

  1. モノマー:高分子(ポリマー)を構成する低分子の単位分子であり、単量体とも呼ばれる
  2. 試験研究用途:大学などの研究施設において、新しい物の合成実験や評価試験を行うことを目的とした用途
  3. 個別化医療:同じ病気の患者に対し、一律に同じ治療を行うのではなく、患者の体質や病気に関連する遺伝子を調べた結果から、一人一人に合った治療を選ぶことを特徴とする医療
  4. 低分子医薬:分子量500以下ほどの医薬の総称。主に化学合成によって製造する。低分子のため、組織移行性がよい。一方、本来は治療対象ではない組織や細胞まで医薬品の作用が及ぶ可能性がある。低分子薬とも言われる
  5. バイオ医薬:生物の持っている機能を応用して、遺伝子を組み替え、微生物や動物細胞に培養させて作るタンパク質を有効成分とした高分子の医薬
  6. 化学修飾型人工核酸:天然核酸に対して、核酸塩基・糖・リン酸ジエステル部に化学修飾を加えることで水素結合様式や高次構造さらには極性などの物性を変化させた核酸
  7. アミノ酸のセリン:非必須アミノ酸の1つであり、細胞膜の構成成分であるホスファチジルセリンの原料として重要なアミノ酸。角質層では最も多いアミノ酸成分
  8. トレオニン:必須アミノ酸の1つであり、胃炎改善作用、筋緊張昂進の抑制作用があり、大豆製品などに多く含まれる
  9. オリゴ核酸:数個から100個程度のヌクレオチド(核酸)が直鎖状に重合したポリヌクレオチド

【参考文献】

・”Enhancement of stability and activity of siRNA by terminal substitution with Serinol Nucleic Acid (SNA).”, Kamiya, Y.; Takai, J.; Ito, H.; Murayama, K.; Kashida, H.; Asanuma, H., ChemBioChem,2014, 15, 2549-2555.
・”Acyclic L-Threoninol Nucleic Acid (L-aTNA) with Suitable Structural Rigidity Cross-pairs with DNA and RNA.”, Murayama, K.; Kashida, H.; Asanuma, H., Chem. Commun., 2015, 51, 6500-6503
・”Introduction of 2,6-diaminopurines into serinol nucleic acid (SNA) improves anti-miRNA performance”, Kamiya, Y.; Donoshita, Y.; Kamimoto, H.; Murayama, K.; Ariyoshi, J.; Asanuma, H., ChemBioChem, 2017, 18, 1917-1922.

https://prtimes.jp/a/?f=d89007-20220606-1bb1c2ee0d17c314dcfbe06073324fdb.pdf

タイトルとURLをコピーしました