人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方。調査結果より、多くの企業では人材を「資本」として捉えていなかったが、今後は人材を「資本」として捉えるべきと考えるビジネスマンが過半数以上を占める結果となった。
以下に、調査結果の一部を紹介させていただきます。
- これまで、人材を「資本」として捉えていましたか?
9割を超すビジネスマンは、人材を「資本」としては、捉えていなかった。
捉えていない(45人、90%)、捉えている(5人、10%)、どちらでもない(0人、0%)
■なぜ、人材を「資本」として捉えていなかったのか?
そもそも、人材を「資本」として考えたことがなかった。
会社にとって、何が「資本」となるのか?など、深く考えたことがないため。
経営者でもないので、会社にとっての「資本」などは、自分には関係ないため。
上記は、一部の方の意見ではあるが、多くのビジネスマンにとって、自分とは関係がないことと考えている人が多いことが分かった。そこで、現在、人材が「資本」として、なぜ、注目されているのか?を伝えたうえで、
改めて、人材を「資本」として捉えるべきかを聞いてみた。
<なぜ、人材を「資本」として考える人的資本経営が注目されているのか?について>
人材を「資本」と考える、人的資本経営が注目されている理由(主に、以下の1~4が該当します)
1: 無形資産の価値向上
2: ESG投資の重要性の高まり
3: 人的資本開示の義務化
4: ステークホルダーからのニーズ
- 1:無形資産の価値向上
人的資本が注目されている理由の一つに、無形資産の価値向上があります。技術革新が進む今、様々な仕事が技術に代替されています。そんな状況だからこそ、人的資本を含む無形資産の重要度が高まっています。今後、企業が高い競争力を身につけるには無形資産の価値を高め、その価値を最大限活かすことのできるシステムを構築することが大切。
- 2:ESG投資の重要性の高まり
ESG投資の重要性が高まっていることも、人的資本が注目されている理由の一つです。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視した投資のことを指します。ESG投資によってサステナビリティに努めることが求められている今、社会(Social)にあたる人的資本の価値を高める必要がある。
- 3:人的資本開示の義務化
現在、欧米を筆頭に人的資本開示を義務化する動きが進んでおり、人的資本への関心を高めています。2020年8月には、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業を対象に、人的資本についての情報開示を義務付けました。日本においても、コーポレートガバナンスコードが改訂されるなど人的資本の情報開示に向けた動きが進んでいます。このことから、人的資本への注目が高まっている。
- 4:ステークホルダーからのニーズ
投資家など企業を取り巻くステークホルダーからの人的資本への関心の高まりも、人的資本への注目が高まっている理由の一つです。近年、株主を中心とした投資家が人的資本などの無形資産を評価する傾向が強まっています。実際に米国企業では2020年の市場価値構成要素において無形資産が90%を占めています。こうした動きから投資家は人的資本についての情報開示を企業に求めており、そうした情報が重要な判断指標となっている。
また、上記1~4の事柄は、人材が注目されていることを表しており、人材に価値があることを明確化していることから、我々働く人材の価値を高めることにつながると考えられます。上記を、調査時に伝えたうえで、以下の質問を実施。
- 今後、人材を「資本」として捉えるべきか?
8割を超すビジネスマンは、今後、人材を「資本」として捉えるべきと考えている。
捉えるべき(40人、80%)、捉えるべきではない(5人、10%)、どちらでもない(5人、10%)
さらに、これからの新時代に「人的資本経営」が果たす役割について、人事領域に特化したITコンサルティング事業を手掛ける㈱オデッセイ秋葉社長に、「人的資本経営」について聞いてみた。
- Q1 なぜ、「人的資本経営」が大事なのか?求められるのか?
日本企業にとって「人的資本経営」がなぜ重要なのかをひとつだけ挙げるとすれば、「持続的に成長できる競争力のある企業になるための必要条件」だと私は考えています。昨今世界中の投資家が「人的資本経営」などの非財務情報を活用した経営に注目しているのも、同じ考え方です。きっかけは、2008年に世界を震撼させたリーマンショックと言われています。このリーマンショックの影響で事業の継続が困難になった企業や、業績を大幅に悪化させた企業が世界中に溢れましたが、当時の投資家や投資会社、そして経営者もこれを予測できませんでした。そこで教訓として思い知らされたのが、財務情報だけでは企業が持続的に成長できるか否かを判断するには限界があるということだったのです。
このような視点の変化から投資家は「ESG投資」に注目するようになりました。これは、E(Environment:環境)、S(Social:社会)、G(Governance:企業統治)の観点で企業がどのように取り組んで成果を上げているかを把握して投資につなげるものです。「人的資本」に関する情報は、S(社会)の重要な要素になります。
これらの潮流の中で、世界に後れを取っていた日本でも昨年コーポレートガバナンスコードの改訂があり、人的資本や知的財産への投資についての情報開示が義務化されました。
このように非財務情報の重要性が高まるなかで、「人的資本」に関する情報を活用した経営が世界のトレンドになっていますし、何よりも、マーケットや投資家が「人的資本」に関する情報の開示を求めている(一部は開示を義務化されている)ので、企業としては早急に対応しなければならない重要なテーマとなっています。
- Q2「人的資本経営」とは、どのような経営のことですか?
これまで、資源と考えていた人材をこれからは資本と捉えて経営する考え方です。例えば、人材を資源と認識していた時は、人件費等も節約して経営の効率化を図ることを意識しましたが、「人的資本経営」では、人材は資本のため、人材に何をどの程度投資して、どんな成果に繋げたかが問われることになります。
日本の「人的資本経営」については、経済産業省が進めている「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」において考え方がまとめられ、そのアウトプットとして「人材版伊藤レポート」が2020年9月に発表され、続いて2022年5月にはその続編である「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。これらが、日本の「人的資本経営」の基本的な指針になっていくと考えられています。
- Q3「人的資本経営」と「タレントマネジメントシステム」の関係性について、教えてください。
「人的資本経営」を進めていくうえで、タレントマネジメントは必須と私は考えています。「人的資本経営」では、基本的に人材に関する情報を多岐にわたって管理し分析、レポートする必要がありますので、システムの活用無くしては対応は困難と思います。タレントマネジメントで管理される人材情報を活用する目的も、「人的資本経営」では大きく二通りあります。
人的資本経営を推進していくための社内活用と、もうひとつは、株式市場や投資家等社外への開示です。
社内活用では、管理すべき指標を決めたうえで、現在の状態がタイムリーに可視化されることと、各指標についてドリルダウンして原因分析や対策立案に繋げられることが求められます。一方の社外への開示については、株式市場(現時点ではコーポレートガバナンスコードへの対応)や投資家が求めるESG等に関する情報情報を、分かり易く的確に開示する必要があります。
このような人材情報の活用は、タレントマネジメントシステムを導入すれば、すべてが自動的に解決できる訳ではありません。各企業が自社の経営戦略の中で人的資本に対しどのように対応していくのかを十分に検討したうえで、何をどのように社内で管理していくのか、社外にはどんな情報をどのように開示するのかを決めて、タレントマネジメントシステムで管理している情報をダッシュボード化したり、レポートを作成する必要があります。ユーザー企業の具体的な考え方があってこそタレントマネジメントの機能が活かせると考えています。
- Q4 なぜ、「タレントマネジメントシステム」を導入しようとしている企業が増えていますか?増えている場合、それがなぜですか?
タレントマネジメントの導入をご検討されている企業は、急ピッチで増えている感覚です。
10年ほど前は、グローバル展開されている大企業のご検討が目立ちましたが、最近は中堅企業でのご検討も増えています。この背景には、上述の「人的資本経営」を意識されての導入のほかに、従業員の方々の特性を把握してそれぞれの適性にあった適材適所配置を行うことで、従業員の方々のモチベーション向上やウエルビーイングの実現、そして従業員の生産性向上にも繋げ、労働力不足に対応したいと考えて導入を検討されるケースも増えています。
- Q5「タレントマネジメントシステム」を導入するうえで、大事なことは何ですか?
他のシステムでも似た部分があると思いますが、基本的なポイントとして3つあると思っています。
①タレントマネジメントを導入される企業の意識
まず、自社でタレントマネジメントで何のために導入するのか、そしていつまでにどのような成果を出すのか社内で十分議論して整理することが必要です。その結果、タレントマネジメントの導入計画の骨子が決まります。その計画に基づいて導入ベンダーとプロジェクトを進めていくことになりますので、ユーザー側で事前に導入計画のポイントについて整理しておくことは非常に重要です。
また、上記の計画を、実際にタレントマネジメントを利用する部門にも説明し、理解を得ておくことも必要です。
トップの意向や、一部の部門の意向でプロジェクトを開始したものの「現場が多忙で協力を得られず、プロジェクトが思うように進まない」、「導入プロジェクトは終了したものの、現場が利用しようとしない」というようなことにならないように、事前に現場部門含めて整合を取っておく必要があります。
②自社の導入計画にあったサービスを選ぶタレントマネジメント
タレントマネジメントを導入するには、自社用にオーダーメードで開発することもできなくありませんが、一般的にはクラウドサービスを活用するケースがほとんどです。昨今では、タレントマネジメントの機能を持ったクラウドサービスの種類も豊富になってきましたので、選ぶしても何を選べば良いか悩むところです。
自社に合ったクラウドサービスは何なのか?これを検討する際にも上記の導入計画が役に立ちます。
・タレントマネジメントとして実現したい機能をすべて網羅しているか
・段階的な機能拡張が容易に可能か
・人事/給与システムの機能も包含しているか
・実績は多いか
・そのクラウドサービスを熟知した信頼できる導入ベンダーがいるか
・クラウドサービスの価格は適切か
ぐらいは最低でも抑えておきたいポイントと思います。
③導入実績の多い導入ベンダーを選ぶ
クラウドサービスを選ぶと同時に導入ベンダーも選ぶ必要があります。多くのクラウドサービスでは、クラウドサービスを提供しているベンダーと導入作業を担当するベンダーが分かれているので注意が必要です。その導入ベンダーを選ぶにあたっては、
・今回選定するタレントマネジメントの導入実績が豊富か(導入経験期間も十分か)
・タレントマネジメントの導入に関する知見(ノウハウ)を持っているか
・過去の知見(ノウハウ)をユーザーに提供する仕組みを持っているか(導入テンプレート等)
・タレントマネジメントを導入する体制が整っているか
・導入費用は適切か
自社でしっかりと計画を立て、自社に合ったクラウドサービスと信頼できる導入パートナーを選択できれば、有効に活用できるタレントマネジメントを構築できる可能性は高まるはずです。
ご参考:人的資本経営やタレントマネジメントに関する詳細な情報について
オデッセイnote(https://note.com/ods_note/n/nd7d2512bf9aa)をご覧ください。
- その他、調査結果より
人材を「資本」と考える理由とは何か?(フリー回答)より、一部、回答を紹介します。
フリー回答①
なぜ、人材を「資本」として捉えるべきなのか?
例えば、企業価値を考えた時、あなたが企業の株を購入するとき、何が大事か、わかるだろうか?
大事な要素の中に、「企業で働いている社員の様子」があることを、知っているだろうか?
このことは、意外と知らないという人が多い。また、盲点となってしまっている。
しかし、企業を評価するうえで、「企業で働いている社員の様子」はとても大事なため。
もし、あなたが株を購入したいと思っている企業の社員の多くが、「うちの会社はダメだ。こんな会社、早く辞めたい。うちの社長も役員も無能な集団だ」と、発言しているような会社が、成長すると思いますか?
逆に、社員の多くが、「今年の目標の200%達成を目指す!うちの会社は自由にチャレンジさせてくれるし、給料も高い!」と、発言しているような会社と比べて、どうでしょう?だからこそ、企業で働いている人材も「資本」として見なければいけないと思う。
フリー回答②
企業を創っている、育てているのは、「人(ひと)」。
しかし、そんな「人(ひと)」のことを、重要だと考え、接している企業はどのくらいあるのだろうか?日本は、今、変わろうとしていると思う。ただ、経営者や経営陣も、働いている社員も、そのことに気付いているだろうか?これからの時代は、働く人たちのことを“大事”にすることで、企業全体のパフォーマンス向上に繋げ、人材を「資本」として考え、大切にするべきと思うから。
- 最後に
時代は、変わり続けている。
しかし、いつの時代も、大事にしないといけないことがある。
それは、人々の幸せである。
「人的資本経営」も、「タレントマネジメントシステム」も、私たちの暮らしや生活を、
働いている人々の働き方を、幸せに導いてくれるための新しい在り方だと思う。
人々の幸せとは何なのか?本当の意味での幸せが何なのか?を、いま、しっかりと考え、見つめ直す必要がある時がきているのではないだろうか?