レイチェル・カーソンが、『沈黙の春』で「鳥の鳴き声が聞こえない春が来る」とDDT(有機塩素系の殺虫剤、農薬)の危険性を訴えたことにより、その使用が禁止されて半世紀。その間、私たち人間は、より毒性の強い農薬を
使用することでさらに地球環境を悪化させてきた。
カーソンの時代の農薬よりはるかに毒性の強い農薬によって、最初に犠牲となるのは小さな無脊椎動物、昆虫だ。
土壌は劣化し、河川は化学物質に汚染されているばかりか、集約農業や森林伐採によって昆虫のすみかは縮小し、加えて急激な気候変動で虫たちの生態環境は悪化し、減少スピードが加速している。
この現象は、虫好きの人の耐え難い悲しみであるだけでなく、虫嫌いの人を含む全人類の豊かな暮らしをも脅かす。なぜか? それは、作物の受粉、他の生物の栄養源、枯葉や死骸・糞の分解、土壌の維持、害虫防除など、様々な理由で人間は昆虫を必要としているからだ。昆虫をこよなく愛する昆虫学者は訴える。「今、昆虫たちはあなたの助けを必要としている」と。
EU全域にネオニコチノイド系殺虫剤の使用禁止を決断させた運動の立役者であり、気鋭の生物学者である著者が、多様な昆虫と共存することの重要性を訴える渾身の一冊。ぜひ、虫の羽音が聞こえなくなるまえに。
- 目次
はじめに 私の昆虫人生
第1部 なぜ昆虫が大切なのか
1章 昆虫についての短い歴史
2章 昆虫の重要性
3章 昆虫の不思議
第2部 昆虫の減少
4章 データで見る昆虫減少
5章 移り変わる基準
第3部 昆虫が減少した原因
6章 すみかの喪失
7章 汚染された土地
8章 除草
9章 緑の砂漠
10章 パンドラの箱
11章 迫りくる嵐
12章 光り輝く地球
13章 外来種
14章 「既知の未知」と「未知の未知」
15章 いくつもの原因
第4部 私たちはどこへ向かうのか?
16章 ある未来の光景
第5部 私たちにできること
17章 関心を高める
18章 都市に緑を
19章 農業の未来
20章 あらゆる場所に自然を
21章 みんなで行動する
- 著者紹介
Dave Goulson(デイヴ・グールソン)
1965年生まれ。英サセックス大学教授。生物学(進化生物学、行動生物学、生態学)。昆虫、とくにマルハナバチの生態研究と保護を専門としている。激減するマルハナバチを保護するための基金を設立。300 本以上の論文を発表しているほか、一般向けの著書を複数出版している。 EU 全域にネオニコチノイド系殺虫剤の使用禁止を決断させた運動の立役者。自身もナチュラルガーデンを造園しており、その様子を配信している。王立昆虫学会フェロー。
- 訳者紹介
藤原 多伽夫(フジワラ タカオ)
1971年生まれ。静岡大学理学部卒業。おもな訳書にブライアン・ヘア , ヴァネッサ・ウッズ 『ヒトは〈家畜化〉して進化した』、パトリック・E・マクガヴァン『酒の起源』(ともに白揚社)、スコット・リチャード・ショー『昆虫は最強の生物である』、チャールズ・コケル『生命進化の物理法則』(ともに河出書房新社)、ジェイムズ・D・スタイン『探偵フレディの数学事件ファイル』(化学同人)ほか。
- 商品情報
書名:『サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」』
出版社:NHK出版
発売日:2022年8月30日
定価:2,750円(税込)
判型:四六判
ページ数:432ページ
ISBN:ISBN978-4-14-081910-4
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