新型コロナウイルス感染症の重症化メカニズムを解明

この記事は約5分で読めます。
 千葉大学病院(病院長 横手幸太郎)は、千葉大学大学院医学研究院 免疫発生学の研究グループ(中山俊憲前教授(現 千葉大学長)、平原潔教授、岩村千秋特任講師ら)とともに、2020年7月から取り組んでいる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化メカニズムを解明する臨床研究の成果が、このたび、国際医学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌(米国東部標準時間7月27日付)のオンライン版に掲載されましたので、ご報告いたします。
本臨床研究は、千葉大学病院並びに千葉県内の7つの協力病院(注1)、順天堂大学医学部附属順天堂医院、藤田医科大学病院、札幌医科大学附属病院において、研究への参加に同意した患者さんよりご提供いただいた肺組織検体と血液検体を用い、産業技術総合研究所、DLC研究所と提携して進められました。

本臨床研究の成果の概要(COVID-19重症化機構)本臨床研究の成果の概要(COVID-19重症化機構)

  • 研究の内容

1.COVID-19で亡くなった患者さん(8例)の肺の血管の周りに浮腫を伴った滲出性血管炎(注2)が起きていた。
2.滲出性血管炎を起こした血管には感染した新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が多数観察された。

図1. COVID-19患者肺の病理学的解析図1. COVID-19患者肺の病理学的解析

3.肺血管は傷つき、その内腔には血栓が形成され、血栓には血小板成分の1つであるMyl9(注3) (ミルナイン)というタンパク質が多量に沈着していた。
4.そこで、COVID-19の入院患者さん(123例)の血液を解析したところ、血中のMyl9濃度が上昇しており、COVID-19患者の重症度とその後の入院日数と相関していた。

図2. COVID-19患者における血栓内Myl9の沈着と血中Myl9濃度図2. COVID-19患者における血栓内Myl9の沈着と血中Myl9濃度

5.血中のMyl9濃度がCOVID-19の重症化判定および予測マーカーとなることがわかった。今後、この測定が重症度判定およびその後の病勢の予測に有用であることが示唆された。

  • 今後の展望

  本臨床研究では新型コロナウイルスが肺の血管へ直接感染することで引き起こされる血管傷害が、血栓形成の原因となり、それに伴って放出されるMyl9が、COVID-19の重症化判定および予測マーカーとなることを明らかにしました。
   COVID-19からの回復期には心血管疾患の発症リスクが増加することから(Nature Medicine. March (2022))、現在社会で大きな問題となっているLong COVID患者の病態評価に本研究成果が応用できる可能性があります。
   今後、血中Myl9濃度の簡易測定キットの開発や、Myl9を標的とした新規治療法の開発を、企業と連携し行うことで、社会に貢献できると考えています。さらに、本研究チームはヒトへの投与が可能なMyl9に対するヒト型抗体の作成に成功しており、実用化に向け、開発研究を着実に進めています。

  • 発表論文の詳細

Elevated Myl9 reflects the Myl9-containing microthrombi in SARS-CoV-2-induced lung exudative vasculitis and predicts COVID-19 severity, Proc Natl Acad Sci U.S.A., 2022; 119 (33) e2203437119. doi: 10.1073/pnas.2203437119

  • 研究経費

本研究は、以下の支援で行われました。
•国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のウイルス等感染症対策技術開発事業における研究課題「新型コロナウイルス感染症における重症化の早期予測判定システムの開発」(研究開発代表者:中山俊憲)
•免疫アレルギー疾患実用化研究事業における研究課題「新型コロナウイルス感染症で血管炎を誘導する新たな病的免疫細胞集団の同定と病態形成機構の解明」(研究開発代表者:平原潔)
•革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ(AMED-CREST)「生体組織の適応・修復機構の時空間的解析による生命現象の理解と医療技術シーズの創出」における研究課題「気道組織における病的リモデリング(線維化)機構の解明と病態制御治療戦略の基盤構築」(研究開発代表者:中山俊憲)
•公益財団法人武田科学振興財団ハイリスク新興感染症研究助成における研究課題「新型コロナウイルス感染症における血管病変を中心とした重症化メカニズムの解明と新規バイオマーカーによる治療戦略の樹立」(研究代表者:岩村千秋)
•JSTムーンショット型研究開発事業「ウイルス-人体相互作用ネットワークの理解と制御」(課題推進者:池原譲)
•千葉大みらい医療基金       ほか

  • 注釈

(注1)本臨床研究における協力病院:国保旭中央病院、船橋中央病院、成田赤十字病院、東千葉メディカルセンター、船橋市立医療センター、君津中央病院、千葉医療センター
(注2)滲出性血管炎:炎症などにより血液の液性または細胞成分が血管外へ漏出してしまい、血管周囲での浮腫を引き起こす病態。
(注3) Myl9:このタンパク質は炎症に伴って、血小板から放出され血管の内側に付着して「ネット様構造(Myl9 nets)」を構築する。(Hayashizaki et al., Sci Immunol., 2016)

タイトルとURLをコピーしました