改正資金決済法内閣府令案についてのJPYCとしての考え方

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前払式支払手段扱いの日本円連動ステーブルコイン『JPYC』を取り扱うJPYC株式会社(東京都千代田区、代表取締役:岡部 典孝)は、2022年12月26日に公表された改正資金決済法に係る政令・内閣府令案に関し、当社の見解をここにお知らせします。
 

2022年12月26日、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」、いわゆる改正資金決済法に係る政令・内閣府令案(以下、内閣府令案)が公表されました。その内容は、主に電子決済手段等に係る規定の整備、為替取引分析業務に係る規定の整備となっています。資金決済システム及び規制環境の更なる発展に向けて、責任ある一企業として弊社も議論に積極的に貢献していきたいと考えており、以下に当社の受け止めと考え方を公表いたします。なお、内閣府令案における技術的または法令解釈上の疑問点については、当社は1月31日を締切としていたパブリックコメントを通じて質問を金融庁に提出致しました。当社は、パブリックコメントへの参加や当社の考え方を公表しながら様々なステークホルダーと対話し、ステーブルコインの課題の整理や規制の明確化に貢献し、引き続き重要な役割を果たしていけるよう努めて参ります。

全体として、今回の内閣府令案は資金移動業による日本円ステーブルコインの発行や償還、海外発行ステーブルコインのセルフウォレットによる国内流通を解禁したものであり、高く評価すべきものと考えます。改正案そのものでは、国内事業者の「ステーブルコイン」の発行や流通について定められていましたが、海外発行のコインの扱いなどについては固まっていませんでした。また、国内ステーブルコインの発行者を銀行や資金移動業者、信託会社に限定するとともに、売買・交換、管理、媒介等の流通を行う仲介業者には新設された「電子決済手段等取引業」への登録制が導入されることが示されています。

今回の内閣府令案は、ステーブルコインの利用者の保護とイノベーションを通じた資金決済システムの安全性・効率性・利便性の向上を両立させた、バランスの良い規制であると考えます。この規制の下であれば、国内事業者は海外事業者と公平に競争でき、結果的にステーブルコインが日本国内で速やかに普及していくことが期待できます。他方で、暗号資産でステーブルコインを購入する時と、ステーブルコインで暗号資産を購入するに異なるライセンスが必要となってしまう点について、実務上、1つの事業者が暗号資産交換業と電子決済手段等取引業を兼業することが認められるとすれば、利用者の安全性、利便性、効率性をどのように高めていけるかが事業者として課題になっていくと考えます。

今回の内閣府令案は、具体的には以下の点を評価できると考えます。
 

  • 評価すべき点1:第二種資金移動業の滞留規制が緩和された

内閣府令案では、利用者がセルフウォレットに出した分を100万円の枠に含めないことが示されました。これにより、利用者は、1日あたり100万円の購入・償還が可能になりました。すなわち、セルフウォレットの利用者が自由にステーブルコインを用いた決済を行うことが可能になったと理解しています。これらの規定により、資金移動業による電子決済手段型ステーブルコインを発行する事業者が複数出てくることが予想されます。
 

  • 評価すべき点2:海外発行ステーブルコインが電子決済手段等取引業者で扱えることに

内閣府令案では、電子決済手段等取引業者は、1日100万円まで海外発行ステーブルコインを購入・売却することが可能になり、海外発行ステーブルコインがそのまま国内で流通できることになりました。たとえば、外国人観光客が日本においてUSDCで決済した場合に1日100万円まで決済した小売店が日本円に換金できるということを意味します。これにより、日本国内でもステーブルコイン決済できる事業者が今後増えていくのではないかと予想されます。
 

  • 評価すべき点3:前払式支払手段型ステーブルコインの規律が明確化された

内閣府令案では、前払式支払手段型ステーブルコインの発行体が都度承諾または関与する前払式支払手段が電子決済手段にあたらないことが明確化されました。また、上記に関わらず2年間の経過措置が与えられたことにより、ブロックチェーンゲーム事業者やNFT事業者等に与える影響はかなり抑えられたと考えます。

他方、内閣府令案には、以下のような課題もあると考えます。
 

  • 課題1:ライセンスが増えたことによる混乱が懸念されます

内閣府令案で、暗号資産交換業に加えて電子決済手段等取引業、電子決済手段等取扱業ができたことにより、利用者がどこの事業者にいけば暗号資産を交換できるのか、あるいは、どこの事業者に行くべきか迷うおそれがあります。実際問題としては、一つの事業者が複数ライセンスを取得できると期待されますが、長期的には政策的意図がより明らかになり、利用者の視点に立つと、ライセンスが簡素になっていくことが望ましいと考えます。
 

  • 課題2:アルゴリズム型ステーブルコインの開発は困難になりました

アルゴリズム型ステーブルコインについては、いつでも電子決済手段に指定できることとなり、暗号資産として流通させることはできるが審査は厳しくなる可能性があり、日本国内で広く流通することは事実上困難になったと考えます。昨年のFTX破綻に関する事件を踏まえると、止むを得ない規制ではあるものの、この分野では日本がイノベーションをリードすることはさらに難しくなります。
 

  • 課題3:2年経過後にブロックチェーンゲームの開発に影響を与える可能性が高い

ゲーム会社等が都度承諾または関与する前払式支払手段を発行することは運用上困難ではないかと考えます。今後2年の間に、事業者側は体制の整備を進める必要があるでしょうし、同時に、業界団体としてはガイドラインの明確化を図る必要があるのではないかと考えます。

FTX事件の影響もあり、実質的に国内でステーブルコインを流通させないような厳しい規制が発表されるのではないかと予想する向きもありましたが、今回の内閣令案は、国家戦略であるWeb3.0とNFTの推進の為に必要不可欠なステーブルコインを、自己責任でセルフウォレットで管理できる利用者に解禁する規制になったと解釈しています。このことにより、セルフウォレットを使う利用者と交換業者に預ける利用者の格差が広がることが懸念されます。

また、規制が明確化された日本市場にステーブルコイン発行体が集まってくる可能性も出てきたことから、今年議長国として開催するG7において、日本が規制を主導できるかも焦点になると考えます。さらに、Web3.0は、ステーブルコインに関する規制が進んだこと、携帯電話事業者による投資が進んでいることが相まって、一気に普及する可能性があります。それに伴い、利用者が増えることで税制が簡素化されることに期待しています。

Web3.0が日本の成長戦略の柱のひとつとして重視される中、弊社としては、パブリック・ブロックチェーン上の日本円ステーブルコインの流通を増やし、価格の安定した取引を促進し、日本のWeb3.0イノベーションを後押ししたいと考えております。弊社は、引き続き関係省庁その他のステークホルダーと建設的な議論を重ねながら、責任あるイノベーションを進めていきたいと考えます。

■JPYC株式会社について
JPYC株式会社は、日本円ステーブルコインであるJPYCの開発運営を行っています。JPYCは、資金決済法に準拠し、自家型前払式支払手段として発行されています。技術的には暗号資産と同様の性格を持ちながら、法律的には日本法に対して完全にクリアになっています。現在、JPYCは、Ethereum・Polygon・Astarをはじめとする様々なパブリックブロックチェーン上で発行されています。

■会社概要
・会社名 :JPYC株式会社
・代表者 :代表取締役 岡部 典孝
・所在地 :東京都千代田区大手町1-6-1 大手町ビル4階 FINOLAB内
・設立  :2019年11月
・事業内容 :ERC20前払式⽀払⼿段の発⾏、NFT等ブロックチェーン全般に関するコンサルティング
・加入団体 :一般社団法人 日本資金決済業協会 第一種会員
  一般社団法人 ブロックチェーン推進協会(BCCC)会員
  一般社団法人 Fintech協会 ベンチャー会員
  デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)
・監査法人 :あかり監査法人
・URL       :https://jpyc.co.jp/
・Twitter   :https://twitter.com/jcam_official

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