IoT機器の消費電力を1/10に低減する国産半導体技術を有するナノブリッジ・セミコンダクター社がシリーズA2資金調達を実施し事業を拡大

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電子機器の放射線耐性向上や消費電力削減に有用な国産半導体技術であるNanoBridge(R)(ナノブリッジ)技術を保有するナノブリッジ・セミコンダクター株式会社(注1、以下 NBS)は、リアルテックホールディングス株式会社(注2、以下 リアルテックHD)と株式会社識学(注3、以下 識学)にシリーズA2優先株式を発行し、約1億3,000万円の資金調達を行います。
 NBSは、2019年9月にNECの研究者が設立したベンチャー企業です。NanoBridgeは、固体電解質中の金属原子の析出・溶解を印加電圧により制御し、LSIの配線間にナノメートルサイズの金属架橋(ブリッジ)を生成・消滅してスイッチのオン・オフ状態を実現する技術です。繰り返し回路の書き換え可能、オン・オフ状態の維持に電力が不要(不揮発性)のため低消費電力、かつ高い放射線耐性と温度耐性を有しており、製造後に回路の再構成が可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)やメモリに最適な技術として注目されています。今後、航空宇宙向けの用途や、低消費電力なIoT用途におけるグリーンイノベーションとして期待されています。
 

 NBSは従来からNanoBridgeの事業化(注4)を進めてきましたが、このたび同事業のさらなる成長に向けて増資を行うことにしました。NBSは今回の資金調達により、特に航空宇宙や通信インフラなど耐放射線性が必須とされる領域でのNanoBridge FPGA向け設計ツールを整備し、そのユーザー向けインターフェイスの利便性を向上しながら、IoTデバイスや自動車など国内外の製造業向けに幅広くNanoBridge事業を展開します。

 NBSでは、NanoBridgeの可能性を更に広げるための、半導体デバイス/回路の研究者、およびエンジニアの採用を進めることにも、増資金を活かしてまいります。
(コンタクト先:https://nanobridgesemi.com/?page_id=463

 本件に対する出資者のコメントは以下の通りです。

 ナノブリッジ・セミコンダクター社は積年の努力と熱意による素晴らしい技術を保有していますが、米国勢が寡占しているFPGA市場に真っ向から勝負するのはとてつもないチャレンジです。こんなつらい道を歩むベンチャーなんか始めないで大企業に残って静かに安寧に過ごす道も目の前にあったのに、そうはしなかった。その熱意への投資だと思っています。原子サイズの金属架橋スイッチというイノベーションを実装すべく、宇宙向けFPGAという第一歩を共に歩めることを嬉しく思います。
                      リアルテックHD グロースマネージャー 村山 類 クリスチャン

 ナノブリッジ・セミコンダクター社の電子機器の放射線耐性向上や消費電力削減に有用な半導体技術により、電子機器の重要課題の一つである消費電力の抑制を解決できると期待しております。出資のみならず、「識学」を通じて、同社の更なる成長を支援してまいりたいと考えております。
                                      識学 代表取締役 安藤広大

技術詳細
 宇宙空間では、宇宙からの強い放射線に直接曝されるため、電子回路にとって過酷な環境です。特に問題となるのが、半導体部品の誤動作(注5)です。現在、国内で製造されている大・中型の人工衛星の中核部品として用いられる高い放射線耐性を持つ高機能LSIの大半は、海外からの輸入であり、高価格であることや輸入制限から、自由な人工衛星開発を阻害する要因となっており、国産化が望まれています。
 NanoBridgeFPGAは、きわめて高い放射線耐性をもつ論理集積回路であり、その基盤技術は革新的衛星技術実証1号機小型実証衛星1号機(RAPIS-1)(注6)において実証され、開発体制は実用段階に移行しています。今回の投資によって、NanoBridge FPGA向け設計ツールを整備し、かつユーザー向けインターフェイスの利便性を向上させることで、これまでになく自由かつ安価に設計・製造できる、スペース・デモクラタイゼーション(誰もが自由に宇宙で半導体を利用できる環境)の実現を目指して事業を進めて参ります。
 
 一方、NanoBridge FPGAはIoT(アイ・オー・ティー)の持続的な普及にも貢献します。IoTは、既存のパソコンやスマートフォンではない“モノの端末”がインターネットに繋がる仕組みのことで、すでに現状でも様々なIoTが登場しています。総務省の統計では、世界全体のIoTデバイス数は2023年に約340億台に増加していくことが予測されています。これらIoT端末の普及に関しての課題は、ネットワーク負荷の増大があげられます。現在でも300億台に近いIoTデバイスがインターネットに接続してそれぞれが通信を行うので、莫大な量のデータ通信が必要となっています。現在の通信インフラではキャパシティが足りず応答が遅延する可能性や、インフラを維持するため莫大な消費電力が必要となり、このペースで端末数が増えると今後国内外の通信インフラの見直しが不可欠となります。
 このため、ネットワークのキャパシティの課題を解決する「エッジコンピューティング」が期待されています。「エッジコンピューティング」は、IoTデバイスやエッジサーバーなど、データが生成される場所、もしくはその近くで実行する分散型コンピューティングの一種で、現場の端=エッジで演算処理を行うことで通信量を減らすことができ、さらにAIを用いることで効率良く処理することができるようになります。しかしながら、エッジでAI処理を行うための論理集積回路の消費電力が大きく、電池駆動の場合の電池寿命や交換頻度の制約などが発生し、普及の課題となっています。IoT の持続的な普及に向けて、NanoBridge FPGAは、低消費電力でAI処理のできる真に利用価値の高いグリーンなIoT端末を提供し、地球環境に貢献します。
                                                 以上

(注1) 本社:茨城県つくば市、代表取締役:杉林直彦
(注2) 本社:東京都墨田区、代表:丸幸弘、永田暁彦
(注3) 本社:東京都品川区、代表取締役:安藤広大
(注4) 世界唯一の技術をもとにNECからスピンオフ 1/10の省電力化を実現するFPGA「ナノブリッジ」
https://jpn.nec.com/rd/special/202101/index.html
(注5) ソフトエラー(放射線によるビット反転エラー)やシングルイベントラッチアップ(放射線により過大電流が流れて永久損傷になる可能性があるエラー)などがあります。
(注6) 革新的FPGA(NBFPGA:NanoBridge based Field Programmable Gate Array)https://www.kenkai.jaxa.jp/kakushin/kakushin01.html

 

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