日本国内においても自動車産業をはじめ電機、機械など幅広い産業で生産活動が滞る事態に陥った。また、穀物や資源価格の高騰に円安が加わり、今なお多方面で悪影響が続いている。
このため、供給網の安定化などを目的に製造や部品調達などを国内へ回帰する動きもみられるなど、改めて海外ビジネスを進めるにあたって課題が浮き彫りになってきている。
そこで、帝国データバンクは、海外進出・取引に関する企業の見解について調査した。本調査は、TDB景気動向調査2023年6月調査とともに行った。
<調査結果(要旨)>
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直接・間接のいずれかの形で海外進出または海外と取り引きを行っている企業は28.1%
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海外進出への課題として、「外国為替レートの変動」が42.6%で最も高かった(複数回答)
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期待する支援サービス、「法制度や商習慣に関する支援」が32.2%でトップ(複数回答)
※ 調査期間は2023年6月19日~30日、調査対象は全国2万7,771社で、有効回答企業数は1万1,105社(回答率40.0%)
※ 本調査における詳細データは景気動向オンライン(https://www.tdb-di.com)に掲載している
※ 調査機関:株式会社帝国データバンク
現在、企業の28.1%で海外進出や海外取り引きを実施
現在、自社が海外進出または海外と取り引きを行っているか尋ねたところ、「生産拠点や販売拠点、直接輸入など直接的な進出・取引を行っている」企業は17.3%(複数回答、以下同)、「業務提携や輸出、間接輸入など間接的な海外進出・取引を行っている」企業は21.0%となった。
「直接・間接のいずれかの形で海外進出・取引をしている」企業(28.1%)はおよそ3割となる一方で、「進出していない」企業は67.4%だった。
海外事業の内容をみると、直接的な進出・取引は商社などを経由しない「直接輸入/仕入」が8.9%で最も高く、次いで「現地法人の設立」(5.2%)、支社・支店などを含む「生産拠点」(4.8%)や「販売拠点」(4.5%)、M&Aなどの「資本提携」(1.4%)が続いた。
他方、間接的な進出・取引は、商社や取引先を経由した「間接的輸入/仕入」(9.9%)がトップとなり、以下、商社や取引先を経由した「間接的輸出」(8.4%)、商社などを経由しない「直接輸出」(5.3%)、生産委託などの「業務委託」(3.9%)、技術提携などの「業務提携」(2.7%)が並んだ。
「直接・間接のいずれかの形で海外進出・取引をしている」企業を従業員数別にみると、「1,000人超」の企業は60.0%だった。一方で、「5人以下」の企業では21.5%にとどまった。企業からは、「自社は小規模なので海外進出は考えていない」などの声があがり、企業規模によって海外ビジネスに関する取り組みに顕著な差が表れた。
「外国為替レートの変動」について、4割を超える企業で海外進出・取引の課題 と認識
今後、海外進出を検討または進める場合、もしくは海外ビジネスを促進する場合どのようなことが障害や課題、トラブルになるか尋ねたところ、「外国為替レートの変動」が42.6%で最も高かった(複数回答、以下同)。次いで、「社内人材(邦人)の確保」(33.9%)、「進出先の政治情勢に関する情報収集」(32.3%)、「言語の違い」(30.4%)や「文化・商習慣の違い」(29.8%)などが上位に並んだ。
とりわけ、海外進出・取引がある企業の6割以上が為替レートの変動を海外ビジネスを行う上で、課題と認識していた。他方、海外に進出していない企業では、言語の違いを課題と感じている割合が高かった。
期待する支援サービス 、「法制度や商習慣に関する支援」が32.2%でトップ
今後、海外進出を検討または進める場合に、国や地方自治体などの行政や支援機関などに期待する支援サービス、情報について尋ねたところ、進出国の貿易制度、法人設立の手続き・制度などの「法制度や商習慣に関する支援」が32.2%でトップとなった(複数回答、以下同)。次いで、貿易保険・保障、為替変動への対応などの「リスクマネジメント」(32.1%)が続き、展示会・見本市への出展支援、商談会やマッチング支援などの「販路確保や開拓支援」(25.0%)、展開戦略・ブランディング・知的財産戦略の支援など「事業計画支援」(24.3%)、マーケット動向、競合企業情報などの「市場動向調査支援」(24.2%)が上位に並んだ。
特に、海外に進出していない企業では、「事業計画支援」や「人材育成支援」が海外ビジネスを行う企業と比較して高く、新たに海外事業を進めるための準備に関する支援サービスを期待している様子が表れた。
本調査の結果、直接、間接に関わらず海外進出・取引をしている企業は4社に1社以上となった。ただし、従業員規模で濃淡が表れており、1,000人を超える大企業ほど海外ビジネスを進めている傾向が表れた。
他方、海外進出や取り引きを全く考えておらず現状必要としない企業や「コロナ禍前には北米への出店を計画していたが、コロナ禍明けの急激な金利上昇及び金融環境の悪化、為替リスクが顕在化しており、当分は海外進出を見合わせようと考えている」とあるように、新型コロナ流行以降の要因で海外ビジネスに二の足を踏む企業も多い。加えて、国内回帰の動きも表れており、海外より国内企業との取り引きを強める企業も出てきている。
今後、海外進出を進める場合、4割を超える企業で「外国為替レートの変動」を課題と認識しており、昨今の急激な円安進行など為替変動に対するリスクマネジメントの支援を求めている。また、海外ビジネスを行っていない企業では言語や文化の違いを高い障壁と感じ、人材不足を補うためのサービスを必要としていた。
ポストコロナ時代に対して、企業は国内だけではなくて海外にも再び目を向けて行く必要はあろう。しかしながら、海外ビジネスを進めるためには世界情勢、原材料価格の高騰、為替動向などのリスクだけではなく、言葉や文化の相違など基礎的な障壁も企業が海外ビジネスに挑戦するためのハードルとなっている。
一つ一つの壁を乗り越えるためには行政の支援・発信だけではなく、専門企業の情報発信や業務支援なども後押しとなる。日本経済のさらなる発展のためには、官民一体となり海外に目を向けた取り組みが必要となろう。
<企業からの主な声>
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海外取引を行ってきたが、現地と商習慣や人間性の違いに苦しむことが多かった。有能なコーディネーターの存在が不可欠であると感じている(機械製造、熊本県)
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日本のマーケットは確実に少子高齢化が進んでいるため、海外に販路を見出す事は本当に重要と考えている(運輸・倉庫、大阪府)
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地元を中心に事業を行っており、考えていない(建設、岩手県)
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過去に現地での生産・営業活動を試みた事はあったが、人材不足と現地スタッフの教育が困難となり撤退した経緯がある(飲食料品・飼料製造、岡山県)
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リスクマネジメント(貿易保険・保証、為替変動への対応など)が非常に難しい(機械・器具卸売、東京都)