持続可能な社会の実現に向けたエネルギー変換技術の現状と将来展望 ~国別では中国がリード~

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アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、持続可能なカーボンニュートラル社会の実現に不可欠なエネルギー変換技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し特許とグラントの動向をレポートとしてまとめました。

はじめに

あるエネルギーを別のエネルギーに変える、いわゆる「エネルギー変換」は火力・水力発電のような大規模なものが代表的です。しかし、身のまわりにも「エネルギー変換」はあります。たとえば、電球は電気エネルギーを光エネルギーに変換して周囲を明るくしています。自動車のエンジンもガソリンの化学エネルギーを運動エネルギーに変換しています。冷蔵庫では電気エネルギーを熱エネルギーに、スピーカーでは電気エネルギーを音エネルギーに変換しています。

このように、大規模な発電所だけでなく自動車や家電など日常的なモノでもエネルギー変換技術が使用されています。近年では、電力需要の急激な高まりにより、高効率かつ環境負荷が小さい再生可能エネルギーが注目されており、太陽光や波力などによる発電技術の開発が求められています。

日本は世界的に見てもエネルギー自給率が低く、燃料のほとんどを外国からの輸入にたよっています。現状では、火力による発電がメインのため化石燃料に依存しており、つねに安定してエネルギーを供給できるとはいえません。東日本大震災による原子力発電所事故の影響もありエネルギー自給率はますます減少しており、代替できる他の発電手法がのぞまれています。火力発電の発電効率向上や再生可能エネルギーの導入により必要電力をまかなっていますが、依然としてエネルギー自給率の改善にはいたっていません。さらに、パリ協定をはじめとする近年のカーボンニュートラルの流れにより、化石燃料を利用した発電は推奨されず、環境負荷が小さい発電手法が求められています。

エネルギーハーベスト技術

エネルギー変換技術のなかで注目されているのはエネルギーハーベスト技術です。エネルギーハーベスト技術とは光・振動・熱など環境中に存在するエネルギーを「収穫」することで周囲の環境から微小なエネルギーを収集し、利用可能な電力に変換する技術のことをさします。大規模な発電技術とはことなり、μW~W程度の小規模電力供給技術が主流です。また、周囲環境から発電できるため自立した電源として、IoT機器やマイクログリッドなどでの活用も予想されています。日本のような、地震などの災害が多く停電リスクが高い地域において、孤立した地域に対しての緊急時の独立電源としても役立つため、さらなる技術開発が期待されます。

カーボンニュートラル社会の実現にあたってエネルギー問題は重要課題です。そのためエネルギー変換の技術動向は、脱炭素の動きを知るための指標といえます。

アスタミューゼでは、世界中のグラント(研究開発予算)や特許、論文、スタートアップといったイノベーションに関わる膨大なデータベースを保有しています。ここではエネルギー変換技術のグラントと特許のデータを用いて、今後の展望について考察します。

エネルギー変換技術の技術動向分析

図1はエネルギー変換に関する国別の特許出願数の動向を2001年から示しています。2001年以降、中国以外の国に大きな変化は見られなかったのに対して、中国は2008年あたりから急激な増加が見られました。2013年から一時期出願数の減少が見られたものの、2016年より再度増加傾向が見られています。

図1:特許出願数と出願国の傾向(2001年~2021年)図1:特許出願数と出願国の傾向(2001年~2021年)

続いて各国の特許スコアについて考察します。アスタミューゼでは独自のアルゴリズムに基づき特許の評価を行っています。特許1件ごとに競争力を評価するパテントインパクトスコアを付与し、出願人ごとに出願特許のパテントインパクトスコアの総合値を算出することで、出願人の競争力を示すトータルパテントアセット(総合特許力)を付与しています。

出願人のトータルパテントアセットを帰属国ごとに集計し、帰属国のトータルパテントアセットとしました。帰属国別のトータルパテントアセットのランキングを図2に、企業別(出願人別)のトータルパテントアセットの結果を図3に示しました。2001年から2022年に出願された全世界の特許を対象としています。

図2:出願特許の帰属国別トータルパテントアセットランキング(2001年~2022年)図2:出願特許の帰属国別トータルパテントアセットランキング(2001年~2022年)

帰属国別では中国がトータルパテントアセットと件数がともに1位となっており、日本、アメリカ、台湾が続きます。

図3:出願特許の企業・研究機関ごとのトータルパテントアセットランキング(2001年~2022年)図3:出願特許の企業・研究機関ごとのトータルパテントアセットランキング(2001年~2022年)

1位が中国のBOE Technology Group Co., Ltd.で、次に韓国のSamsung Display Devices Co., Ltd.、4位にアメリカのApple, Inc.、日本はCanon, Inc.が17位にランクインしていました。全体としては中国が大半を占めている傾向にあります。

以下に、ランキングに入っている企業のいくつかのエネルギー変換に関係する特許を紹介します。

  • BOE Technology Group Co., Ltd.:「Organic light-emitting diode display panel, fabrication method thereof and display device」(和訳:有機発光ダイオード表示パネル、その製造方法及び表示装置)

    • 公開番号:CN201710642629A

    • 出願年:2017年

    • 特許概要:有機エレクトロルミネッセンスディスプレイパネル、その製造方法及びディスプレイ装置。電圧印加による有機物の発光現象利用したエネルギー変換素子。

  • Apple, Inc.:「Finger biometric sensor including laterally adjacent piezoelectric transducer layer and associated methods」(和訳:横方向に隣接する圧電トランスデューサー層を含む指バイオメトリックセンサーおよび関連方法)

    • 公開番号:US53771109A

    • 出願年:2009年

    • 特許概要:指の生体認証を行うための圧電センサーの設計技術。表面に指を感知する圧電トランスデューサー層と電気を伝達する導電層で構成されるセンサーシステム。

  • Canon, Inc.:「Control apparatus and control method for vibration wave driven apparatus」(和訳:振動波駆動装置の制御装置および制御方法)

    • 公開番号:US7755251B2

    • 出願年:2008年

    • 特許概要:位相差制御や電圧制御の実行中に、振動子の共振周波数が振動子の固定駆動周波数よりも高い周波数側にシフトすることを防止できる振動波駆動装置。電気機械エネルギー変換素子として機能する圧電素子を有する振動型アクチュエータに、制御装置から駆動信号を供給する。

グラントの分析

次にエネルギー変換技術のグラントの傾向を確認していきます。図4に採択されたグラント数とその年次動向を示します。2010年ごろからグラント件数は伸びていますが、2018年ごろから件数が減少しているように見えます。しかし、グラント情報が各国の会計年度で更新・公開まで時間を要することから、直近のグラント件数が実際の件数に反映されていない可能性があることは注意が必要です。

図4:エネルギー変換関連技術に関するグラント件数の年次動向(2000年~2022年)図4:エネルギー変換関連技術に関するグラント件数の年次動向(2000年~2022年)

以下に、エネルギー変換技術に関連するグラントの例を紹介します

  • 代表者/所属:成田 史生 教授/東北大学

    • タイトル:「機能傾斜・最適化による新規圧電・磁歪複合材料の創成とエネルギー変換現象の解明」

    • 採択年:2022年

    • 資金調達額:42380千円

    • グラント概要:微小振動・衝撃や温度変化を電磁エネルギーに変換する複合材料の開発をそのメカニズムに関する研究。将来的には電池レスIoT、DXスマートセンサの設計に組み込まれるエネルギー変換素子として期待。

  • 代表者/所属:Winter, Jessica/ The Ohio State University

    • タイトル:「Energy Exchange in Dynamic DNA-Metal Hybrid Materials」(和訳:動的DNA-金属ハイブリッド材料におけるエネルギー交換)

    • 採択年:2023年

    • 資金調達額:2870000ドル

    • グラント概要:DNAナノ材料とそれらのナノ構造からなる複合材料のエネルギー変換メカニズムの研究。金ナノ粒子とDNAを複合した材料から、熱・磁気・化学的刺激によりエネルギー貯蔵・ハーベスティングが可能であると示唆され、そのメカニズムの解明により将来のナノスケールのエネルギー変換材料やそのデバイスの開発の基礎につながることが期待。

まとめ

エネルギー変換技術の特許出願数は中国が増加しており、それ以外の国は停滞傾向にありました。グラントの傾向はアメリカと日本において増加傾向が読み取れました。今後の動向としてはグラントで得られた研究成果をもとに、大学・研究機関から民間企業への技術の流れが起こり、関連技術を有するベンチャー企業数やこれら企業から特許出願数が増えていくことが予想できます。

世界全体でカーボンニュートラルな社会を目指す中で、エネルギー変換技術は主要技術のひとつです。その重要性から世界中でもより省電力で環境負荷の小さい、高効率な技術の開発が進められています。中でも、日本はグラントの件数や配布額の傾向から読み取れるように、エネルギー変換技術に注力しており、脱炭素社会を目指すために資金を投入していることがわかりました。今後も、日本をふくめた全世界でエネルギー変換技術への期待は高まり、環境・インフラ・半導体などの領域への展開が注目されていくと考えられます。

著者:アスタミューゼ株式会社 琴岡匠 博士(工学)/ 荒井喬広 修士(生命科学)

さらに詳しい分析は……

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