本品は、てんかん発作を予知するプログラム単体の医療機器です。心拍変動を常時モニタリングして異常を解析し、通知をすることで、てんかん発作が起こることを事前に本人並びに周囲に知らせ、安全策を講じることを可能にします。
てんかんは世界中でおよそ100人に1人の割合で発症する身近な病気です。日本では約100万人の患者さんがいるとされています1。適切な診断と薬物治療により約7割の方は発作が抑制され、通常の日常生活を送っていますが、約3割の方は発作が完全には抑制できず2、予測できない発作による受傷(例えば、転倒によるケガや料理中のやけどなど)の不安とリスクを抱え、社会生活に支障をきたすことがあります。また、1年以上発作がない患者さんにおいても、5割超が「いつ発作が起きるか不安」と感じているという国内の報告もあります3。
クアドリティクス社の代表取締役社長の林康平は、「てんかん発作の予知によって、発作に伴う事故や受傷の予見性が高まれば、発作に対する不安が軽減されるだけでなく、患者さんがより自分らしく生活できるようになることが期待されます。弊社は今後も革新的な技術の提供によって、患者さんのQOL(Quality of Life: 生活の質)の向上に貢献してまいります」と述べています。
共同開発者であり、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学大学院工学研究科の藤原 幸一 准教授は、「私は工学に従事する研究者として、疾患の有無に関わらず、その人らしい社会生活と自己実現が目指せる社会づくりに貢献したいと考えてきました。一日も早くてんかん患者さんにてんかん発作予知という新たな技術を届けられるよう、研究開発を加速していきたいと思います」と述べています。
クアドリティクス社は、今後3年以内に本品の治験を完了させることを目指します。本品を上市することで、てんかん診療・研究の発展に貢献するとともに、将来的にコンパニオン診断による超即効型抗てんかん薬の発作前服用が、発作そのものを未然に予防できる社会の実現に向けて開発を進めてまいります。
■「心拍変動解析(HRV解析)に基づくてんかん発作警告機(仮称)」の概要
心拍変動を常時モニタリングし、異常を解析し、通知をすることで、てんかんの発作を事前に本人並びに周囲に知らせ安全策を講じることができます。
心拍変動は自律神経機能の指標となり、身体中の微細な変化を反映します。てんかん発作予知アルゴリズムもこの一部を応用しています。
なお、本研究及び機器の開発は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)医工連携・人工知能実装研究事業「心拍変動解析によるてんかん発作予知AIシステムの研究開発」の支援を受けています。本事業の代表機関は名古屋大学、分担機関はクアドリティクス株式会社、京都大学、熊本大学、国立精神・神経医療研究センター、聖隷クリストファー大学、東京医科歯科大学です(厚生労働省によるプログラム医療機器の優先審査対象品目の指定を受けた時点での参画機関、順不同)。
■プログラム医療機器に係る優先的な審査について
厚生労働省「プログラム医療機器に係る優先的な審査等の試行的実施について」(令和4年9月2日付け薬生機審発 0902 第2号)において通知された取り組みです。治療法、診断法又は予防法の画期性や医療上の有用性、世界に先駆けて日本で開発・申請する意思や体制といった要件を満たしたプログラム医療機器を優先的に審査する制度で、 本品は令和5年3月29日に対象品目に指定された3品目のうちの1つです。
■コンパニオン診断
コンパニオン診断(Companion Diagnostics ; CDx)とは、ある治療薬がその患者さんに効果があるか、副作用がないかを治療前に検査し、診断することです。これによって、作用する人にのみに投薬・治療をすることが可能となります。
■クアドリティクス社について
SAFE(Sensing & Analytics for Foresight & Empowerment)を基本の価値観として、身体の微細な変化を日常的に捉える検査手法を開発しています。
これにより、現代的な健康・安全ニーズに対して、手間のかからない「心を通して見える」予見的サービスで応え、症候化する前の早期対処・自己管理を可能にする社会を目指しています。
参考文献
1. 大槻泰介. てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究, 2013 https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22749 (2023年5月14日アクセス)
2. Kwan P. et al. Early identification of refractory epilepsy. N Engl J Med 2000; 342:314-319
3. 山内俊雄ほか. 意識調査からみたてんかん医療の現状と今後のあり方について III ー 質の高いてんかん医療を求めてー. てんかん研究 2015;33 : 62-75