ふるさと納税体制と運営のこだわり
私ははここ八代で生まれ育ちそのまま市役所に就職しました。その後、市民課や生活援護課などいくつかの部署を経て、平成31年からふるさと納税の仕事に従事しています。今のこのふるさと納税の部署に来るまでずっとふるさと納税の仕事がしたくてしたくてたまりませんでした。念願叶った今は、この仕事が楽しいし何でもやってやろうという意気込みで取り組んでいます。
今年の4月にはふるさと納税のための新しい係ができ、3人体制で取り組んでいます。連携している中間事業者は地元の企業です。元々、八代市をご担当いただいていた中間事業者の人が独立し立ち上げられたU-STYLE(ユースタイル)という会社です。この会社にはサイト運営やコールセンターを担当してもらっています。
私のこだわりは、ふるさと納税を通じて、事業者さんに外部に自社商品を出す楽しみや、寄付者さんにお届けできる喜びを知ってもらいたいということです。逆に、事業者さんがやりたくないことをこちらが無理強いする必要はまったくないと思っています。
地域でもトップクラスの返礼品事業者数と返礼品目
全国の寄付獲得上位自治体を見るに、人気ある地域産品に恵まれていることに対しうらやましい気持ちはもちろんあります。これに対し八代市には確かに地域産品はあるものの、返礼品という切り口で見ると中途半端かもしれません。例えば八代市は、トマトの生産量が日本一で、地元ではとてもおいしいトマトがびっくりするような安い値段で手軽に買うことができます。他にも生産量日本一でいえば、国産いぐさや、柑橘フルーツの一種である晩白柚(ばんぺいゆ)が挙げられます。しかし、このように生産量日本一はあるものの、返礼品提供や寄付獲得になかなかつながってこないという現実はあります。
そんな八代市ではありますが、ふるさと納税に積極的に取り組んでいる事業者さんと一緒にがんばっています。現時点で、事業者は約180事業者。返礼品で1000品目ほどあります。
※令和4年度ふるさと納税支援事業者に関する評価調査報告書 (令和5年3月22日時点 速報版)
https://fstx-ri.co.jp/news/555?ref=3(限定公開)
成功のカギは返礼品事業者との関係性づくり
まだ私がふるさと納税に携わりたいと願っていた頃、こんなことを教わりました。「着任したらまず最初に返礼品事業者全てを回りなさい」「いつでも連絡が取れる体制を作りなさい」「事業者との関係性ができたら必ず成功します」ということです。こうして今や実際にふるさと納税に携わるようになって、これは本当に正解だと実感しています。
ふるさと納税の部署に着任した当初は、特に用事や案件がなくてもとにかく積極的に事業者さんに連絡を取ろうとしていました。例えば「他の自治体でこういうことが流行っているようなので御社でもやってみませんか」など、いろいろ提案したものです。成果が出ると喜んでもらえるので、さらに「では次はこれをしましょうか」と、コミュニケーションを積み重ねてきました。
部署の取り組みとしては、原則として年に2回事業者さんと一緒に勉強会をやっています。マーケティングやECの講師を招いて、「梱包や発送の方法はもっといい方法がありますよ」「箱を開けて手紙が入っているものと入っていないもの、比較してどっちがうれしいですか」など、寄付者目線を養っていただく機会を提供しています。
そして最近の取り組みは、私たち担当職員と事業者さんとの間でチャットツールを導入したことです。それまではメールでやり取りしていましたが、「いつもお世話になっています」といった形式的な挨拶もあり、ちょっと心理的に遠かったかもしれません。でもチャットルールなら写真つきのメッセージを気軽に送れます。「この返礼品をどう思いますか」「今度こういうものを出してみたいのですが」など、やり取りがぐっと身近になってきました。それまで年に1,2回しかお会いできていなかった事業者さんとも、もっと気軽に連絡が取れるようになってきました。導入して本当によかったと思っています。
ふるさと納税をきっかけに事業者自らが顧客を獲得する
お陰さまで事業者さんと関係強化でき寄付額も増加傾向にはあります。しかし、事業者さんに対しては、ふるさと納税制度に依存しすぎないこと。寄付者目線を決して忘れないでほしいと願っています。だからこそ勉強会もしますし、返礼品と一緒にお礼状、商品パンフレット、お手紙を入れてもらうよう声をかけさせてもらっています。こうした取り組みが功を奏してか、今や事業者さんがふるさと納税をきっかけに自らリピーターを獲得するサイクルができつつあります。事業者さんが出品しているECサイトからリピートするされることもありますし、寄付者さんから直接電話連絡があり、またこの商品を買いたいとの問い合わせをもらったなど、うれしい声も聞こえてくるようになりました。
寄付者クレームでは100%の納得をしてもらうまで対応する
寄付者さんとの関係も大事にしています。
これまで私たちは寄付者さんからのクレーム対応を中間事業者に任せきりにしてしまっており、クレームがクレームを生む悪い循環になってしまっていたとの反省がありました。そういうことがないようこの4月から体制を変え、クレームが来たら寄付者さんが納得いく形で終わらせるようにしています。
一次対応の時点で、寄付者さんの話を最後まできちんと聞いて適切な対応をしています。もちろん、事業者さんに起因するクレームであれば、きちんと原因や責任に向き合ってもらわねばなりません。ただ、やはり大切にしていることは、寄付者さんに完全に納得してもらうことです。確かに時には、多少理不尽なクレームがないわけでもありません。そういう時は「もう二度と寄付しないという気持ちにさせてはいけない」「また次も寄付していただきたい」。ポータルサイトで手厳しいレビューを書かれた寄付者には「今のこの私の対応で納得していただき、レビューを書き換えてもらえればいいな」という気持ちで対応しています。
市には、集まったお金を市民や事業者のために大切に使ってもらいたい
私が着任した平成31年からお陰さまで寄付額は順調に増加し、令和3年度は17億円。4年度は21億8千万円になる見通しです。しかし、私は単に寄付額の増額だけを目指してきたわけではありません。
寄付獲得額の増加に合わせ、基金の残高も積み上がりました。この基金を八代市民の皆さんがもっとふるさと納税への興味を高めるために使ってもらえたらと思います。福井県坂井市の事例はとても参考にしています(※)。
※当社編「ふるさと納税において、寄付の使い道のあるべき姿を追求し、実⾏している福井県坂井市⾃治体の分析レポートを発表しました。」
https://fstx-ri.co.jp/news/290?ref=3(全文公開)
今検討しているのは市民向けマルシェの開催です。八代市のふるさと納税に参画している事業者さんに出品してもらい、市民の皆さんには八代にはどんな返礼品があるのか見てもらいたい。パネルを使って、今まで八代がどのようにふるさと納税に取り組んできたか知ってもらいたい。そして、得られた寄付金をあなたならどういうものに使ってほしいですかと投げかけたい。市民の皆さんには使い道を考えてもらい、私たちがそれを聞くきっかけになるようなイベントができればいいと考えています。
無口で内向的な女子職員がふるさと納税にほれ込むまで
八代で生まれ育ちそのまま市役所に就職した私は、八代から出たことがありません。今でも実は初対面の人とまったくしゃべれないほど内向的な性格です。
市役所に就職し、市民課の窓口、図書館、生活援護課などを経験してきました。それでも人見知りで話が苦手だった私は、窓口以外の担当を希望していたのにその願いはものの見事に叶わず、福祉部署の窓口担当になったことがありました。高度かつ繊細なコミュニケーションが求められるポジションに配置されかなり落ち込んでしまいました。
希望叶わずヤケになりかけていた私に、仲のよい友人から「あなたにはふるさと納税の仕事が合っていると思うよ」と励まされたことは、私の中で大きなきっかけになりました。それってどんな制度なのだろうと最初に読んだ本は、平戸市が日本一になった時に市長が書かれた本でした(※)。市の一職員がこれだけのことを成し遂げ、そして街に変化を起こせるのはすごいことだと大きな驚きがありました。
※黒田成彦著「平戸市はなぜ、ふるさと納税で日本一になれたのか? 」KADOKAWA
そこから自分で本やネットで調べるだけでは飽き足らず、ふるさと納税のトップランナーたちにSNSで友達申請をし、全国をあちこち回って多くの方にお会いしました。
そうこうしているうちに、私も八代でふるさと納税の担当に絶対なってやるという気持ちが高まってきました。上司に猛アプローチを繰り返し、念願叶って今の部署に配置されたというのが経緯です。
平成28年にふるさと納税を知ってから実際に担当する平成31年までの間に、本で読んだこと、ネットで知ったこと、人からお聞きしたお話。それらをノートにまとめていました。今でこそふるさと納税の業務を任せていただき一定の成果が出てきつつありますが、今でもそのノートを見直し初心を忘れないようにしています。
他自治体のふるさと納税担当職員さんにお伝えしたいこと
年々、自治体ごとにふるさと納税の取り組み度合いやレベルはもちろん変化しますし、担当者も交代していくものです。この前提を踏まえ、まずお伝えしたいことは、外部事業者との契約についてです。特にネットのURL、ページデザイン、画像、テキスト、コメントなどが誰に帰属するかには気を付けましょう。これらデータや著作物は、本来は自治体に帰属されるべきものです。ここはきちんと明文化しておくべきです。
そしてもう1点はやはり、ふるさと納税を楽しみましょうということです。自治体業務は多々ありますが、これほど楽しい職場はありません。庁舎に引きこもり事務処理をするだけではもったいないです。外に出て多くの人とたくさんお話をすることが、仕事を楽しむことにつながっていくと思います。
(インタビューを終えて=あとがき)
もし別部署に異動したらという意地悪な質問に、きっぱりと「辞めると思います!今以上に魅力的な業務はないと思っているので、たぶん仕事をする気がなくなります」と即答されたことが印象的でした。口下手な女の子がふるさと納税で変わったというストーリーを発見しました。ふるさと納税制度は、確かに地方自治体を変えましたが、本質は自治体職員の心理や行動を変えたことではないでしょうか。
当社ではふるさと納税制度の永続を願うと同時に、友田美穂氏のような担当者がより輝けるステージの創出に寄与したいと考えています。
社名:株式会社ふるさと納税総合研究所本社所在地:⼤阪府⼤阪市
代表取締役:⻄⽥匡志(中⼩企業診断⼠、総合旅⾏業務取扱管理者)
事業内容:ふるさと納税市場における調査、研究、アドバイザリー、コンサルティング、ソリューション提供等