本研究成果のポイント
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心臓サルコイドーシス患者における臨床的特徴や予後の性差を明らかにした
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心臓サルコイドーシスでは、男性の方が若年で診断される例が多いことを明らかにした
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心臓サルコイドーシスでは、男性の方が致死性不整脈の危険性が高いことを明らかにした
背景
サルコイドーシスとは、指定難病であり、まだ未解明な点が多い疾患ですが、体内に原因不明の炎症が起こり、その炎症を起こした細胞が肉芽腫と呼ばれる塊を作る病気とされています。この肉芽腫は、肺、皮膚、眼などの全身の臓器にできる可能性があり、心臓にできると心臓サルコイドーシスと呼ばれ、命に関わる危険な心室性不整脈
(*2)や心不全、さらには突然死を引き起こす可能性があることが知られています。心臓サルコイドーシスはこれまで発症頻度や診断される年齢に性差があることは知られていましたが、その詳細は不明でした。また、予後の性差に関してもほとんど報告がありませんでした。本研究は心臓サルコイドーシスの特徴や予後の性差を調べることで、心臓サルコイドーシスの理解を深め、性差を考慮したより適切な治療を検討することを目的として実施しました。
内容
本研究では、2001年から2017年の間に、国内33病院において、日本循環器学会のガイドライン(2016年)および米国不整脈学会のガイドライン(2014年)に基づいて心臓サルコイドーシスと診断された512人のデータを統計的に解析しました。全体のうち、183人 (35.7%) が男性でした。男女ともに診断年齢は60歳代が最も多く、40歳以下で診断された患者の割合は、男性では10.4%、女性ではわずかに1.8%と性差を認めました (図1)。また、男性は女性と比べて診断時の左室駆出率が低値でした。中央値で3.0年間の予後を追跡したところ、致死性不整脈 (心室細動・持続性心室頻拍・植え込み型除細動器(*3)の適正作動) が99人{女性:53人(16.1%)、男性:46人(25.1%)}に発生しました。これにより、男性は女性よりも致死性不整脈のリスクが高く、その他のリスク因子を考慮しても、統計的にも有意に男性は独立した予後予測因子であることが明らかになりました (図2)。
今後の展開
近年、様々な疾患で発症率や予後の性差が注目を集めています。今回我々のILLUMINATE-CS研究により、男性が女性よりも致死性不整脈のリスクが高いことが明らかになりました。この結果を受けて、今後の心臓サルコイドーシス患者さんの治療において、性差を考慮することの意義が示唆されました。予後の予測や植込み型除細動器による治療の必要性を検討する際に、性別が一つの要因になる可能性があり、更なるエビデンスの蓄積により、今後のより適切な治療に繋がることが期待されます。
用語解説
*1 多施設レジストリデータ:特定の疾患に関する様々なデータ(患者数、検査結果、予後など)を調査するため、複数の病院において、特定の疾患に罹患した患者を網羅的に登録したデータのこと。
*2 心室性不整脈:心室から生じる不整脈全般のこと。心室頻拍や心室細動はこの一種で、心停止の原因となる重篤な不整脈 (致死性不整脈) である。
*3 植え込み型除細動器:前述の致死性不整脈が出現した際に、自動的に不整脈を感知して電気ショックなどの治療を行う体内に植え込む小型の機械。
研究者のコメント
心臓疾患に限らず様々な疾患や分野で、病気のリスクや治療反応などの性差が注目を集めています。今回の我々の研究が、心臓サルコイドーシス患者さんの最適な治療に繋がることを期待しています。
原著論文
本研究はHeart誌のオンライン版に2023年4月25日付で公開されました。
タイトル:Sex differences in clinical characteristics and prognosis of patients with cardiac sarcoidosis
タイトル(日本語訳): 心臓サルコイドーシス患者における臨床的特徴および致死性不整脈リスクの性差に関する検討
著者:Takashi Iso 1), Daichi Maeda 1), Yuya Matsue 1), Taishi Dotare 1), Tsutomu Sunayama 1), Kenji Yoshioka 2), Takeru Nabeta 3)4), Yoshihisa Naruse 5), Takeshi Kitai 6), Tatsunori Taniguchi 7), Hidekazu Tanaka 8), Takahiro Okumura 9), Yuichi Baba 10), Tohru Minamino 1)11)
著者(日本語表記): 礒 隆史 1), 前田 大智 1), 末永 祐哉 1), 堂垂 大志 1), 砂山 勉 1), 吉岡 賢二 2), 鍋田 健 3)4), 成瀬 代士久 5) , 北井 豪 6), 谷口 達典 7), 田中 秀和 8), 奥村 貴裕 9), 馬場 裕一 10), 南野 徹 1)11)
著者所属:1) Department of Cardiovascular Biology and Medicine, Juntendo University Graduate School of Medicine, Tokyo Japan 2) Department of Cardiology, Kameda Medical Center, Chiba, Japan 3) Department of Cardiovascular Medicine, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Japan 4) Department of Cardiology, Leiden University Medical Center, Leiden, Netherlands 5) Division of Cardiology, Internal Medicine III, Hamamatsu University School of Medicine, Hamamatsu, Japan 6) Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, Osaka, Japan 7) Department of Cardiovascular Medicine, Osaka University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan 8) Division of Cardiovascular Medicine, Department of Internal Medicine, Kobe University Graduate School of Medicine, Kobe, Japan 9) Department of Cardiology, Nagoya University Graduate School of Medicine, Nagoya, Japan 10) Department of Cardiology and Geriatrics, Kochi Medical School, Kochi University, Nankoku, Japan 11) Japan Agency for Medical Research and Development-Core Research for Evolutionary Medical Science and Technology (AMED-CREST), Japan Agency for Medical Research and Development, Tokyo, Japan
DOI: 10.1136/heartjnl-2022-322243
本研究はJSPS科研費22K16147およびノバルティス ファーマの支援を受け多施設との共同研究の基に実施されました。なお、本研究にご協力いただいた皆様には深謝いたします。