イノカは、2030年までに世界での市場規模が約500兆円に達する見込みであるブルーエコノミー(出典1)の拡大を牽引すべく、日本が有する固有の海洋生物多様性を重要な資源と捉えています。医薬品や化学品、化粧品、食料品をはじめとする研究開発での利用を促進することにより、将来的なグローバル競争力の源泉とすることを目指します。
※2 世界初:2022年7月7日時点 当社調べ。独自の論文調査による。
※3 遺伝資源:生物多様性条約においては「遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物、その他に由来する素材のうち、現実の、又は潜在的な価値を持つもの」と定義される。全ての生物は遺伝子を持っており、医薬品開発やバイオテクノロジーの素材として役に立つ可能性がある。
- 日本が世界に誇る「海洋遺伝資源」の危機
サンゴ礁(サンゴが形成する地形)は海の表面積の0.2%を占めるにすぎない一方で、サンゴ礁海域には海洋生物種のうち約25%(約10万種)が生息しています。(出典2)
したがって、サンゴ礁の生物多様性は、海洋における遺伝資源の宝庫とされています。
海洋遺伝資源を由来とする製品化事例としては、抗がん剤や研究用試薬などが挙げられます。
日本には全世界における造礁サンゴ約800種類のうち約450種類ものサンゴ種が沖縄から鹿児島エリアに分布するなど、世界有数のサンゴ礁生態系を有していることから、日本固有の海洋遺伝資源は、潜在的な価値も含めて重要な資源とみなされています。
しかしながら、20年後には気候変動に伴う海水温の上昇によりサンゴの70~90%が死滅する可能性があると予測されており、サンゴ礁生態系が有する豊かな遺伝資源も失われる恐れがあります。
- 純国産サンゴ礁水槽立ち上げの経緯
背景:国際ルールによる他国の遺伝資源利用の制限
遺伝資源の取得の機会(Access)とその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分(Benefit-Sharing)は、生物多様性の重要課題の一つで、Access and Benefit-Sharingの頭文字をとってABSと呼ばれています。
「遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分」は、生物の多様性に関する条約の3つ目(※)の目的に位置づけられており、条約第15条において次のことが規定されています。
■ 各国は、自国の天然資源に対して主権的権利を持ち、遺伝資源への取得の機会(アクセス)について定める権限は、当該遺伝資源が存する国の政府に属する。遺伝資源にアクセスする際は、提供国の国内法令に従う
■ 遺伝資源にアクセスする際には、提供国政府による「情報に基づく事前の同意(Prior Informed Consent:PIC)」と、提供者との間の「相互に合意する条件(Mutually Agreed Terms: MAT)」の設定が必要
これらのABSに関する基本的なルールが着実に守られるための枠組みとして、平成22年10月に愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議において、名古屋議定書(正式名称:生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書)が採択され、平成26年10月に発効しています。日本は、平成29年5月22日に名古屋議定書を締結しました(8月20日発効)。
海外の遺伝資源を利用する場合には、これらのABSに関する国際ルールや、遺伝資源提供国の法令を遵守することが必要です。
※ 生物多様性の多様性に関する条約の3つの目的:①生物の多様性の保全、②その構成要素の持続可能な利用、③遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分
解決策:国産遺伝資源のみによって構成される「純国産サンゴ礁水槽」
当社は、これまで国内の研究者にヒアリングを進める中で、サンゴやサンゴ礁に住む生物・微生物から得られる有効物質を医薬品、化学品、食品開発に利用することを図る上では、名古屋議定書によって定められた上記ルールを遵守するため、沖縄や鹿児島などサンゴ礁がある地域以外での研究を困難にしているという状況を目の当たりにしてきました。
この背景には、従来サンゴの継続的な飼育が難易度の高いものであり、研究目的での生体サンプルを確保するためには、サンゴ礁分布海域に近い臨海部の施設での研究が主流となっていたことも要因として挙げられます。
そこでイノカでは2022年3月から、サンゴをはじめ、魚やヤドカリ、微生物といった水槽内の全ての生物が、日本の海域由来の生体によって構成されるサンゴ礁水槽(=「純国産サンゴ礁水槽」)の実現に向けた調査研究を開始し、この度、2022年7月に、純国産サンゴ礁水槽を立ち上げることに成功いたしました。
イノカの環境移送技術により実現した今回の純国産サンゴ水槽には、下記3点の科学的意義があります。
① エリアを問わず、国産サンゴ礁生態系の遺伝資源に関する研究が可能となったこと
② 国産サンゴ礁生態系の遺伝資源の研究を推進するために必要な、標準的な実験環境が構築可能となったこと(人工海水の使用による)
③ 外来DNAの混入を防ぐ形で、国産遺伝資源の持続的な保全を実現したこと
今後、純国内サンゴ礁の遺伝資源を持続可能な形で利用する研究開発を飛躍的に加速することが可能となり、各産業領域におけるグローバル競争力の向上や、地球環境上でこれまで解決されてこなかったディープイシュー解決の切り口とすることを目指してまいります。
- 純国産サンゴ礁水槽を活用した共同研究のアイデア募集
イノカでは「海洋遺伝資源利用の推進」をテーマに、今回立ち上げた純国産サンゴ礁水槽を活用した、医薬品・化学品・化粧品等の研究開発を進める民間企業や、海洋遺伝資源に関する基礎研究を行う大学・研究機関といった共同研究パートナーの募集を開始いたします。
<主な対象>
・医薬品 / 化学品 / 化粧品等を開発されている事業者
・学術研究への活用を検討したい大学・研究機関
<共同研究実施に向けた想定フローの例>
1. 両者での遺伝資源活用に関するブレインストーミング・ディスカッション
2. 遺伝資源の培養の手法に関する検討
3. 研究計画 / 研究予算の策定
4. 国産サンゴ礁水槽内での有用遺伝資源開始
5. 有用遺伝資源のご提供
※ 柔軟にご対応可能ですので、 info@innoqua.jp 宛にお問い合わせください。
- 代表取締役CEO 高倉葉太コメント
イノカは株式会社として、2019年4月に産声をあげ、サンゴ礁を守る活動と事業の経済性をどのように両立をさせていくのかを追求してきました。
これまでに、サンゴの価値を「ひろめる」教育事業ならびにサンゴを未来の海に「のこす」サンゴへの影響評価事業の立ち上げを行って参りました。
今回発表した事業はサンゴの価値を人々の豊かな暮らしのために「いかす」事業となります。イノカを立ち上げた当初から、この「ひろめる」「のこす」「いかす」の三本柱によって、人と自然の真の共生は実現できると考え進めて参りました。
どの事業も発展途中にありますが、日本を代表する企業をはじめ実業界や教育界、学界や地域などから真の共生に向けてご理解とご協力をいただいています。是非とも皆様にお力添え頂きながら育てていきたいと考えています。海のため、地球のため共に歩んでいきましょう。
- 株式会社イノカについて
イノカは「人と自然が共生する世界をつくる」ことをビジョンに掲げ、国内有数のサンゴ飼育技術を持つアクアリスト(水棲生物の飼育者)と、東京大学でAI研究を行っていたエンジニアがタッグを組み、2019年に創業したベンチャー企業です。
「海の見える化」をミッションに掲げ、自然を愛し、好奇心に基づいて飼育研究を行う人々の力と、IoT・AI技術を組み合わせることで、任意の生態系を水槽内に再現する『環境移送技術』の研究開発を推進しています。2022年2月には世界初となるサンゴの人工産卵実験に成功しました。
当社は、遺伝資源を含む海洋生物多様性の価値を持続可能にすることを目的として、2022年7月には国内ベンチャー企業としては初の事例となる、「自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:以下「TNFD」)」のフォーラムメンバーへの参画を公表しております。
会社名 株式会社イノカ
代表者 代表取締役CEO 高倉 葉太
設立 2019年4月
所在地 東京都港区虎ノ門3-7-10 ランディック虎ノ門2階
会社HP https://corp.innoqua.jp
お問合せ info@innoqua.jp
出典
1: ブルーエコノミー
https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/d-nnovation-perspectives/2022/utilizing-marine-resources.html
2:IUCN(国際自然保護連合) Coral Reefs