反日・侮日の韓国公式歴史観を根底から覆し、東アジアの安全保障体制にまで影響を及ぼす可能性がある『反日国家の野望・光州事件』刊行

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本書の監訳を依頼されたとき、私は全身に鳥肌が立つのを覚えた。この本は韓国の公式歴史観を根底から覆しており、それが今後の日韓関係、さらに東アジアの安全保障体制にまで影響する可能性があると直感したからだ。

一九八〇年五月十八日、光州市で韓国軍と市民との間で武力衝突が発生し、民間人百六十二人が死亡。「光州事態」と呼ばれるこの事件は、今では「韓国史上最大の民主化運動」と評価されており、決起した光州市民は、全斗煥将軍率いる軍事独裁勢力に抵抗した「民主化の英雄」と称えられている。

本書の著者池萬元氏はそのような「光州事態」をめぐる政府見解や韓国社会の風潮に異を唱えて来た。彼は「光州事態は北朝鮮工作員によって扇動された暴動だった」と主張し、これに反発する人々から百件以上の訴訟を起こされ、二十年以上に亘って法廷闘争を続けている。その間に彼が裁判所に提出した証拠は膨大な量に上っており、それらを整理して彼の正当性を世に問うために出版したのが本書(原題『五・一八答弁書』)である。

「光州事態」が収拾してしばらくたった頃、偶然私は一冊の本を手に入れた。元北朝鮮諜報機関員の呉基完が、一九七七年に書いた『北朝鮮諜報機関の全貌(以下『全貌』)』である。呉氏は情報機関の中枢にいて、金日成の言葉を直接聞いており、同書には北朝鮮の南進戦略を指導する金日成の生々しい声がそのまま記されている。『全貌』を読み終えた私は「光州事態」が北の工作員の扇動によって引き起こされた事件であるとの疑念を持つに至った。『全貌』の次のような記述がそのことを裏付けている。
「一九六〇年代から七〇年代のはじめにかけて、北朝鮮の対南、対日工作は積極さを加えるに伴い、工作方向にも当然変化をきたし、まず対南工作は、韓国の学生、インテリ層に食い込んで『革命の主力軍』化することに重点をおくことになった」
あの時のデモを主導した学生たちは、工作員の洗脳によって既に『革命の主力軍』となっていたのだ。

本書にはそれを裏付ける物的証拠があふれている。本書によれば、当時光州で活動した「市民軍」の写真の中の人物と、現在の北朝鮮高官の顔が一致しているケースがいくつもある。それは最新の科学技術を駆使した顔面分析によって「同一人物」であることが確認されている。

北朝鮮の企みは今一歩で実現するところまで来ていた。混乱の中で、工作員が学生・労働者を扇動して「民主臨時政府(革命政府)」の樹立を宣言させ、北朝鮮に対し支援要請を出させれば、北朝鮮軍南進の大義名分が発生する。そして北朝鮮軍の戦車が三十八度線を越え、韓国の学生や労働者を車上に「満載」してソウルに向かうに違いない。迎え撃つべき韓国軍は自国民に対して武力を用いることに躊躇せざるを得ない。北朝鮮への抑止力である在韓米軍も、韓国内の内戦にまで介入はできないだろう。韓国軍があえて北朝鮮軍に反撃したとしても、韓国軍は圧倒的に不利であり、もはや赤化統一を防ぐ手立てはなかったに違いない。
そのような切羽詰まった状況で、全斗煥氏が韓国を赤化革命から救うために敢えて立ち上がったのではないだろうか。その全斗煥氏は退任後に「光州事態を引き起こした張本人」として訴追され、「民間人を虐殺した罪」で死刑判決まで受けている。

一九九三年の大統領選挙で当選した金泳三氏は、大統領に就任するや自分が初の文民大統領であることをアピールした。だが金氏は軍人政権を否定するあまり、左翼勢力の主張まで取り入れて「光州事態は民主化運動であり、軍事独裁政権がこれを弾圧した」と結論付け、歴史的事実を捻じ曲げてしまったのだ。これ以降、韓国の歴史学会では親北左翼学者が大手を振るようになった。彼らは李承晩政権から盧泰愚政権までを全て「反民族的独裁政権」であったと断罪した。これが所謂「韓国版自虐史観」であり、教育現場を牛耳る左翼教師たちが、過去二十年以上に亘り子供達に教え込んできた。

この「韓国版自虐史観」は自国の歴史を貶めると同時に、強烈な反日・侮日史観でもある。なぜなら、それが親北左翼学者により「日本は朝鮮を不法に植民地支配し、朝鮮人を虐待した」という「嘘」を土台として構築された史観であり、韓国の人々に日本への「憎悪」と「恨み」を植え付けているからだ。日韓併合はイングランドとスコットランドが合体した事例と同じ「国家統合」であり、決して日本による不法な植民地支配ではなかった。だが凄まじい歴史歪曲によってどこまでも日本人を「野蛮で残虐な民族」に仕立て上げた「韓国版自虐史観」が定着するにつれて、韓国の反日感情は際限なく高まり、慰安婦問題や徴用工問題で日本へ無理筋の要求を突きつけ、日韓の間には修復不可能なほどの溝が生じてしまった。

しかし現実に目を向ければ、日本も韓国も中国やロシアという覇権主義国家、さらに無法国家の北朝鮮の脅威に晒されている。日韓が反目している場合ではない。その思いは池氏も同じだろう。「光州事態」の事実を暴くことで、韓国の人々を「自虐史観」から覚醒させ、現実の脅威に目を向けさせようとする意図もあるに違いない。
だがあろうことか、二〇二三年一月、韓国の最高裁判所は「池氏は誹謗中傷を目的とする悪質な罪を犯した」と断定し、彼は八十歳という高齢の身で収監された。国民が国家権力から特定の歴史観を押し付けられ、異論を唱える者は監獄に送られるなど、民主主義国家では到底考えられない。もはや韓国はカルト集団が支配する全体主義体制にあると言っても過言ではない。

そのような逆境の中で、池氏は官憲や過激集団からの暴力に屈せず、牢獄に繋がれても不屈の闘志をもって真実を訴えている。彼の戦いは、韓国民の人権と言論の自由を守るための戦いであると同時に、亡国をもたらす自虐史観を排し、日本と和解して真の外敵から国を守るための「救国の戦い」である。日本にとっても彼は大切な人物である。本書の日本語版を作って日本中に広めることは、孤軍奮闘を続ける彼を側面から支援することになる。

日韓両国の未来のために、私は敢えて火中の栗を拾うことを決意し、本書の監訳者になることをお引き受けした次第である。

松木 國俊(朝鮮近現代史研究所所長)
 

【著者】池萬元(チ・マンウォン)
1942年生まれ。江原道出身。
韓国陸軍士官学校第22期卒業(1966年)、経営学修士(1975年 アメリカ合衆国海軍大学院)、システム工学博士(1980年 アメリカ合衆国海軍大学院)、ベトナム戦争出征(作戦将校)、
国防情報本部海外情報募集将校、国防企画計画予算制度導入研究員、国防研究員責任研究委員、陸軍予備役大佐(1987年)、アメリカ合衆国海軍大学副教授(1987-89年)、社会発展システム研究所長、ソウル市市政改革委員(1998-99年)、国家安保政策研究所諮問委員(1998-99年)、現在システムクラブ代表、評論家。
著書に『北朝鮮の「核」を読む』邦訳(1994、三一書房)、『北朝鮮―韓国からの極秘レポート』邦訳(1999、ビジネス社)、『北朝鮮と永久分断せよ』邦訳(1999、徳間書店)、『韓国号の沈没―韓国社会の深層分析』(共著) 邦訳(2002、芦書房)、『捜査記録で見る12・12 と5・18』(2008)、『5・18分析最終報告書』(2014)、『5・18映像告発』(2016)、『朝鮮と日本』邦題『元韓国陸軍大佐の反日への最後通告』(2020、ハート出版)など。
 

【書籍情報】
書名:反日国家の野望・光州事件
著者:池萬元
監訳:松木國俊
仕様:46判並製・352ページ
ISBN:978-4802400947
発売:2022.03.07
本体:2000円(税別)
発行:ハート出版
商品URL:https://www.amazon.co.jp/dp/4802401450/

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