- 乗っていた全員が海に転落
報道によると、イタリア南部カラブリア州ステッカート・ディ・クトロの海岸から約150メートルの地点で、悪天候の中で木造船が岩に衝突した後に転覆した。事故の4~5日前にトルコを出発した同船には、アフガニスタン、イラン、パキスタンを中心とした約180人が乗っており、全員が海に転落した可能性が高いという。強い潮流のために、数十キロメートル離れた場所で、遺体で発見された人もいた。
集中治療が必要な1人を含む少なくとも20人の生存者が地元の公立病院に入院している。現在、現場から30キロほど離れたクロトーネの保護希望者受付センターには約60人の生存者がおり、その大半がアフガニスタン人だ。
- 心のケアを継続
MSFの心理療法士、マーラ・エリアナ・トゥンノは、「生存者は皆、近親者を亡くし、心に大きな傷を負っています」と話す。アフガニスタン出身の16歳の少年は、「妹が亡くなったことを両親になんて話せばいいかわからない。妹は女性である自分には、アフガニスタンで生きる未来はないと考えていました」と話したという。
MSFは約60人の心のケアに当たり、イタリア当局との合意に基づいて、今後数日間援助活動を続ける予定である。MSFが聞いた生存者の証言の中には、両親や家族を亡くした未成年者もいる。12歳の少年は家族全員を失い、入院していた17歳の子どもは両親を失っていた。また、船が難破してから4時間後に6歳の弟を低体温症で亡くしたと話す少年もいる。
- 政府の責任を問う
海難事故の大半は、MSFが捜索救助船「ジオ・バレンツ号」を運航しているリビアとイタリアを結ぶ地中海中央部で起きているが、ここ数カ月間でトルコからイタリア南部に向かう危険な渡航を試みる人の増加を確認している。2月23日、「ジオ・バレンツ号」はイタリア政府によって強制的に係留され、罰金を科された。これは捜索救助に携わる人道援助団体を標的にした措置だが、実際に影響を受けるのは、援助を受けられずに地中海中央部で遭難する人たちだろう。
MSFのプロジェクトリーダーであるセルジオ・ディ・ダートは、「この悲劇的な難破事故が再び突き付けたのは、制限的な移民政策では窮状に立たされた人びとの移動止められないという事実です。他に選択肢がない以上、人びとは命を危険にさらし続けるでしょう。イタリアと EU加盟国政府は、移民と人道援助を犯罪扱いすることをやめ、代わりに、安全かつ合法的で十分な移住の手段を提供し、移民や難民の支援・保護の仕組み作りに注力すべきです」と訴える。
イタリアでMSFは数年前から、難民、保護希望者、移民を下船場所で支援している。心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)のため、特別な訓練を受けた心理療法士や異文化仲介担当のスタッフが、下船港、受付センターを兼ねた難民管理センター「ホットスポット」などに出向いている。PFAの活動は、主に難破船の犠牲者の親族や友人を対象としている。感情面や精神面をサポートすることで、本人たちが心の傷に対処できるようにすることが目的だ。またPFAチームは生存者が基本的なサービスを受けられるように手助けしている。内容は、医療サービスの受診の促進、情報提供、手厚い配慮が必要な場合に所轄官庁への紹介などである。
2022年、MSFはクロトーネ近郊のロッチェッラ・イオーニカでプロジェクトを立ち上げ、健康上の理由から治療継続が必要な人の特定を中心に、下船場所での医療活動と心のケアを開始した。 MSFは2015年に地中海中央部での海難捜索救助活動を開始して以来、8隻の捜索救助船を単独あるいは他団体と共同で運用し、総計8万5000人以上を救助した。2021年5月に活動開始した「ジオ・バレンツ号」は、2022年の3742人を含む合計6194人を救助し、海で死亡した11人の遺体を収容、船上で1人の分娩を介助している。 |