中国でこれまで国内の移住というと、内陸部から沿海部へ、農村部や地方の小都市から大都市への移住が中心でした。しかし、次の10年間に暮らす都市を変える可能性があるという生活者に、今後はどのような移住形態になりそうかを尋ねてみたところ、これまでのような大都市一極集中傾向が薄れ、小都市に移住したい、多拠点生活を始めたいといった考え方を示す生活者が出てきていました。
また、2030年には地方都市の生活利便性が北京、上海、広州、深圳などの1級都市*2並みに向上する、養老施設の進化/発展により介護負荷が低減するといった将来を思い描き、これまでのように都市の経済発展状況ばかりを見ずに、歴史や文化、レジャーの充実、気候や環境を重視して暮らす都市を選択していきたいと考える生活者が多いことも分かりました。
さらに生活者の変化を具体的に明らかにするために、都市間移住を積極的に行っている生活者にデプスインタビューと定量調査をした結果、以下の3つの新しい暮らしのスタイルの存在が明らかになりました。
(1)個人のキャリアや自由を重視して夫婦が別々の独立空間を求めるスタイル
「家庭を優先しすぎて仕事を犠牲にしたくない。(離れて暮らし)子どもや夫と会う機会が少ないからこそ、罪悪感から会う時間を大切にでき、家族関係も上手くいっていると思う。」(Lさん/32歳女性/既婚子有/咸陽市在住)
(2)収入が多少減っても生活コストが低い都市に移り、生活品質を高めるスタイル
「仕事は(過去の経験も活かせて)とてもやりやすい。生活の質を追及でき、オンとオフも切り替えやすい上、こちらに来てから家もクルマも買えた。」(Yさん/49歳男性/既婚子有/撫順市在住)
(3)その時々の自分が求める生活リズムで暮らすために、複数の都市を転々/往復するスタイル
「移住は心身のリズムの切り替え、生活のスピードの調整。移動のストレスはあるけれど、長い目で見たら能力や人生経験を蓄積できてプラスになると思う。」(Hさん/26歳女性/未婚/上海市在住)
これまでの中国では、大都市に移住、または地元の街に留まり、そこの環境(域)に適応して生きていこうとする「応域生活」を送ることが一般的でした。環境に適応するためには自分らしさを抑えたり、新たな能力やスキルを身に付けたりと、自分を変える必要もありました。しかし地方都市のインフラや利便性が向上し、生活者の価値観も変化する中で、より自分に合った暮らし方ができる都市に移住したり、複数の都市を使い分けたりすることも可能になってきました。そんな居住地域や環境(域)を、より主体的に選択し運用しようとする「運域生活」を目指す生活者がこれからは増えてくると博報堂生活綜研(上海)は見立てました。
*1:中国では都市ごとに「戸籍」が存在。非戸籍人口とは、戸籍を有している都市を離れ、戸籍を持たない別の都市で生活している人の人口を指す。
*2:中国では一般的に都市が1-5級までに区分されており、1級都市は北京、上海、広州、深圳を指す。
本日開催された「生活“動察”2022発表会」ではこのような「運域生活」をする新しい都市間移住生活者の具体像を詳細に紹介するとともに、今後ますます都市間移住生活者が増えた先に中国でのマーケティングを考える際の視点を提示しています。
本発表の簡易レポート(日本語・中国語・英語)、セミナー動画(中国語)をご希望の方は、博報堂生活綜研(上海)までメールでお問い合わせください。
詳細に関しましては、博報堂生活総研(上海)のサイトをご覧ください。
https://www.shenghuozhe.cn/
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