アニメ業界で働くフリーランスの半数が年収300万円未満、インボイス制度導入で4人に1人が廃業の危機

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【アニメ業界でフリーランス(個人事業主・小規模事業者等)として働く方】を対象に「インボイス制度意識調査」を実施(回答数:1132 名/集計期間:2022 年10 月9 日〜16 日/継続中)しましたので、その集計結果を中間発表します。
2023 年10 月に施行予定の「インボイス制度」(正式名称:適格請求書等保存方式)は、アニメ業界全体に大きな影響を及ぼすとされています。本調査は、代表世話人・アニメプロデューサー 植田益朗、株式会社ワクワーク(東京都品川区、代表 中山英樹)、協力・インボイス制度を考えるフリーランスの会が主体となり、インボイス制度が業界に与えるインパクトの実態を把握すべく実施したものです。

【1.年収 ​アニメ業界で働くフリーランスの半数が年収(※)300万円未満】

アニメ業界で働くフリーランス1132名に2021年の年間売上(収入)を尋ねたところ、全体の約半数に及ぶ51.4%が「300万円未満」と回答(図1-1)。回答者の職種は「アニメーター(キャラクターデザイナーを含む)」が約6割を占めることから、かねてから課題とされるアニメーターの低賃金問題、その実情もうかがえる結果となりました。

年収を回答者の年代別に集計すると、20 代の約8 割が「300 万円未満」と答えており(図1-2)、アニメ業界で働く若手の大半が、収入が低い傾向にあります。なお、「1000 万円以上」は回答者全体のわずか3%にとどまり、回答者全体の9割以上が現在、消費税の納税を免除されている「免税事業者」に該当することが判明。アニメ業界で働くフリーランスの大半が、インボイス制度導入によって大きな影響を受ける可能性があります。 ※2021年の年間売上から、税金及び経費を引く前の金額

 

 

【2.廃業 インボイス制度導入で4人に1人が廃業危機、6割が影響を懸念】

「2023 年10 月にインボイス制度が導入された場合、アニメ業界におけるあなたの仕事は増減すると思いますか?」の設問に対し、25.0%が「廃業する可能性がある」「廃業することを決めている」と回答(図2-1)。加えて、32.2%が「仕事が減ると思う」と答えており、廃業を考えている回答者と合わせると、全体の約6割が「インボイス制度導入による仕事への影響」に懸念を抱いているといえます。

「廃業する可能性がある」「廃業することを決めている」と回答した25.0%の年代別内訳は、「20 代」が40.6%、「30 代」が36.7%と多く(図2-2)、年収別内訳では「300 万円未満」が71.7%に上ります(図2-3)。インボイス制度の導入が、若手・働き盛りのクリエイターたちにとってアニメ業界での活躍を諦めさせる一因となる恐れが強いことがうかがえます。

なお、廃業を考える人の中には、年収「300 万円台」〜「900 万円台」と回答した人も含まれます。その人たちのフリーコメントを見ると、「ただでさえ作業時間が膨大なのに、インボイスの事務作業に対応できない」といった事務負担増加への不安の声も複数寄せられていました。

 

 

 

 

 【3.反対 約9割がインボイス制度導入に反対】

「インボイス制度の導入について、あなたはどのようにお考えですか?」という設問では、85.8%が「将来的にも導入するべきではない」と回答しました(図3-1)。その理由について尋ねる設問(複数回答)では、
・インボイス制度の納税・事務負担は、アニメ業界全体に影響を及ぼすから
・若手ほど影響が大きく新規参入の弊害にもなり、アニメ文化が衰退する可能性があるため

といった、アニメ業界の人材損失や、アニメ文化の存続を危惧する内容に票が集まりました(図3-2)。

 

 

【4.認知度 インボイス制度の導入を8割以上が認知】

「あなたはインボイス制度を知っていますか」という設問では、82.3%が「よく理解している」「だいたい知っている」と回答(図4-1)。

高い認知度の背景には、
・そもそもアニメ業界の働き手はフリーランスが多いため、横のつながりで情報が入ってきやすい
・SNSなどでの情報収集に長けている
・本制度の内容を知って危機感を抱いた人が積極的に今回のアンケートに参加した
などの状況があると考えられます。前項の図3-1でインボイス制度を「将来的にも導入すべきではない」と回答した約9割のうち、その大半が「インボイス制度の内容を理解した上で反対している」ことが推測できる結果となっています。

また、「アニメ業界の仕事の取引先から、インボイス制度に関する要請はありましたか?」の設問(複数回答)には、89.5%が「まだ何もない」と回答(図4-2)。一方で、取引先から要請を受け、「インボイス発行事業者にならない場合は、値引きすると言われた」「インボイス発行事業者にならない場合は、取引を停止すると言われた」割合が3.1%に上りました。「取引先側からインボイス発行事業者になるかどうかを尋ねるアンケートがあった」「事務対策のために正社員化の打診を受けた」といった回答も寄せられ、現段階では取引先によって対応がさまざまであることがわかります。

 

 

【5.影響 若手離れやアニメ業界全体への影響を懸念】

インボイス制度によって廃業を考えている年代は、20 代・30代が約8割を占めており、その大半が年収300万円未満です。そこにインボイス制度が導入されれば、アニメ業界で仕事をするフリーランスの生活は立ち行かなくなり、「アニメ業界の若手離れ」は免れません。大人数で作業を行うアニメの制作現場において、20 代・30 代の若手の多くが廃業すれば、業界全体で培ってきた技術の継承が途絶えるだけでなく、国内のアニメ制作システムそのものが崩壊しかねません。

また、アニメ制作者として現段階では廃業を検討していないものの、「インボイス制度をきっかけに単価の高い中国で仕事をすることを考えている」との声も複数寄せられました。アニメ制作に携わる技能者を廃業に追い込めば、または国外に流出させれば、日本のアニメ作品の品質低下を招き、世界に誇るアニメのコンテンツビジネス市場も縮小しかねません。今回の調査の結果から、インボイス制度の導入は「日本のアニメ産業そのものを萎縮させる可能性が大きい」と考えます。

最後にアンケートによって集まったインボイス制度に対する生のコメントを、一部抜粋した内容を以下に記させていただきます。より多くのコメントを含んだ資料も添付いたしますので、ぜひご参照ください。

▼コメント一部▼
アニメ業界は小さな会社がとても多い。会社が気を使って課税業者にならなくても大丈夫だと言ってくれたと してもそこで安心はできません。結局会社の負担は増えるのだから、それで会社が傾く、いっそ潰れるなんてこ とがあったら自分たちも収入源を失うことになります。 (30 代/演出) 

今も限界値まで仕事を請けていますが、インボイス関連で手取りが減るとすぐに廃業とはならなくても今後家 庭を持つとか、老後の生活の見通しがさらにたちません。 (30 代/アニメーター・キャラクターデザイナー) 

廃業するとしたら、まずは若手です。収入から一割引いたら生活できません。それを防ぐには制作費を上げる しかありませんが、コロナで打撃を受けているスポンサーにその余力があるでしょうか?とても無理です。災害 や疫病で国民が弱っているときは、減税が当然です。 (30 代/アニメーター・キャラクターデザイナー) 

小さな子供がいるので時間の制約で会社員にはなれないので、廃業してアニメ業界からも去り、パートタイマ ーになるしかないのかなとも思います。 (20 代/アニメーター・キャラクターデザイナー) 

ただでさえコロナ渦で営業機会が激減し、新規参入者が育ちにくい(現れにくい)状況なのに、更に追い風の ようなインボイス制度。生活費も膨らむ一方で、このままでは廃業も視野に入れざるを得ない。まだまだアニメ を好きでいてくれる人のために、アニメを好きな自分のために働きたいのに。この国は、文化を継ぐ者を根絶や せたいのか。影響は今すぐ表れずとも、必ず数十年掛けて業界を蝕み、縮小へと向かわせることと思う。国も、 そして業界全体も、もっと未来へ向けて、自分たちの子どもたちのために、政治をしてほしい。 (30 代/シナリオライター)

【調査概要】
◯調査名称:【アニメ業界で働くフリーランス(個人事業主・小規模事業者)】インボイス制度意識調査2022
◯アンケートフォーム:https://forms.gle/KP4YdbA3EB9pXXgK8
○調査対象:アニメ業界で働くフリーランス(個人事業主・小規模事業者)
◯調査主体:代表世話人・植田益朗/株式会社ワクワーク
      協力・インボイス制度を考えるフリーランスの会
◯アンケート実施期間:2022年10月9日〜10月16日(継続中)
◯調査方法:SNS告知によるWebアンケート
◯回答者数:1132名

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