【岡山大学】体中で高機能な抗体が作られる仕組みを解明し免疫能力の向上を目指す

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岡山大学は10学部・1プログラム、8研究科、4研究所、附属病院、附属学校を有する地域の中核となる総合大学型の国立大学法人です。
今回、最新の研究成果をわかりやすく紹介する「FOCUS ON」を2022年9月29日に発行しました。ぜびご覧ください!
2022(令和4)年 10月 2日
国立大学法人岡山大学
https://www.okayama-u.ac.jp/
 

<発表のポイント>

  • 体内で産生される抗体は、ウイルスやがん細胞などの有害物質に結合し、それらを排除するための免疫システムを活性化します。
  • 感染後、抗体による病原体の識別能力や排除機能が徐々に強化される仕組みを解明しています。
  • 体内で高機能な抗体が作られる仕組みを明らかにすることは、迅速に高機能な抗体を生産させるための医薬品開発につながります。

◆発表者
 岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域 助教 曲 正樹

◆概 要
 私たちの体内には、ウイルスや細菌などの病原体やがん細胞から身を守るために優れた免疫システムが備わっています。
 抗体は、病原体やがん細胞を識別し排除する免疫システムにおいて重要な役割を持つタンパク質です。体内に識別能力の高い抗体を大量に生産させることは、感染症等の疾患から身を守るためで重要であり、ワクチンの原理としても知られています。
 岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域の曲正樹助教らのグループは、これまでに、抗体を作るB細胞の機能を調節する制御細胞を体内から取り出し、世界に先駆けて安定的に培養することに成功しています。今回、本学大学院ヘルスシステム統合科学研究科・西岡美玖さん(当時)らとともに、細胞培養技術を用いて制御細胞がどのようにしてB細胞の働きを調節しているのかを調べました。
 その結果、制御細胞が発現する分子の網羅的探索を行い、制御細胞が発現し、抗体の識別能力および排除能力を増強する可能性がある分子を発見しました。
 今後、同定した分子の体内での働きを調べることにより、短時間で高性能を生み出す技術開発に応用できる可能性があります。
 本研究成果は、2022年8月11日、「FEBS Letters」に掲載されました。

◆導 入
 体内には、外部から侵入したCOVID-19の原因となる新型コロナウイルスや感染性胃腸炎の原因となるO-157などの病原体、内部で発生したがん細胞など、生体にとって有害な物質(抗原)を排除するために免疫システムが備わっています。抗体は、有害物質に直接結合することでそれらを識別し、免疫システムを活性化する我々の健康を保つために重要なタンパク質です。この抗体の有害物質の排除能力は、感染後時間が経つにつれ高まることも知られています。
 また、免疫システムは、一度認識した抗原を記憶する能力も備えており、再感染の際には高機能な抗体が即時に作り出されます。そのため、体内で高機能な抗体が産生させるメカニズムを明らかにすることは、有害物質を排除できる強力な抗体を効率良く生産させるための技術開発につながります。そこで、体内で抗体が作られる仕組みに関する研究に取り組みました。

◆背 景
 抗体は、リンパ球の一種であるB細胞から産生されます。ウイルスなどの病原体を認識したB細胞は、生体防御のため病原体に結合する抗体を大量に放出します。その際、抗体の病原体に結合する能力(排除能力)は時間が経過するにつれて高まることが知られています。
 この一連のB細胞の応答は、様々な細胞からの複雑な指令のもとに成立しています(図1)。これまで、B細胞の抗体の高機能化および抗体産生を制御する中心的な細胞群(調節細胞)の存在が知られていました。しかし、調節細胞は体内に少数しか存在しないため単離が困難であったことや、例え単離できたとしてもすぐに死滅してしまうため維持することができませんでした。
 この問題から、体内で起こるB細胞の応答を制御する細胞とB細胞との複雑な情報のやりとりを細胞培養系などを用いて詳しく解析することが困難でした。
 

図1. B細胞の抗体産生機構図1. B細胞の抗体産生機構

◆研究内容、業 績
 以前に、曲助教らのグループは、コラーゲンゲルを利用した特殊な細胞培養方法を用いることにより、マウスのリンパ節からB細胞が高性能な抗体を作り出すために必要な細胞群(制御細胞)を単離し、さらに、制御細胞を試験管内で安定的に培養することに成功しました(図2)。これにより、制御細胞の性質を解析することが容易になり、試験管内でB細胞と制御細胞とのやりとりを解明することが可能になりました。
 その後、この独自の細胞培養技術を利用して、制御細胞がどのようにしてB細胞の反応を制御しているのかを明らかにしてきました。
 最近、その成果の一つとして、西岡美玖大学院生(当時)らともに、病原体が侵入したことを認識した制御細胞が発現する分子群の中に、直接的および間接的にB細胞の応答を制御する可能性のある分子の存在をつきとめました(文献1)。さらに、この分子を人工的に作製し、その機能を調査したところ、B細胞の抗体の高機能化を促進できる可能性を示しました。
 

図2. マウスリンパ節より単離した制御細胞図2. マウスリンパ節より単離した制御細胞

◆展 望
 感染症に対し、ワクチン接種が有効な手段として考えられます。ワクチンを接種することにより、体内には病原体に結合できる大量の抗体が作り出されます。体内の抗体産生機構を理解し利用することは、ワクチン接種の際に短時間で大量に高機能な抗体を誘発できる技術に繋がります。
 これまでは、主に試験管内で制御細胞の解析を中心に進めてきましたが、今後は、今回同定した分子の体内での動態を解析し、免疫能力を高める手法の開発につなげたいと考えています。

◆文献1
 論 文 名: The immunoreceptor SLAMF8 promotes the differentiation of follicular dendritic cell-
dependent monocytic cells with B cell-stimulating ability.
 掲 載 紙: FEBS Letters
 著  者:Masaki Magari, Miku Nishioka, Tomomi Hari, Sayaka Ogawa, Kaho Takahashi, Naoya Hatano,
Naoki Kanayama, Junichiro Futami, Hiroshi Tokumitsu
 D  O  I:10.1002/1873-3468.14468
 U  R  L: https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/1873-3468.14468

 

◆参 考
・岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科
 https://www.gisehs.okayama-u.ac.jp/
・岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科 細胞機能設計学研究室
 https://www.okayama-u.ac.jp/user/saibou/index.html
・岡山大学 工学部
 https://www.engr.okayama-u.ac.jp/

◆参考情報:FOCUS ON
・【岡山大学】全身性エリテマトーデスで免疫力が低下する原因分子を同定
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000419.000072793.html
・【岡山大学】酵母が必要としている栄養素を酵母に語らせる技術を開発
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000516.000072793.html
・【岡山大学】神経内分泌腫瘍治療への新しい挑戦 ~新しい放射線治療の導入~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000582.000072793.html
・【岡山大学】岡山大学病院麻酔科蘇生科におけるAcute Pain Serviceへの取り組み ~手術を受ける患者様への安全・安心・満足度向上を目指して~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000615.000072793.html
・【岡山大学】フェイクコンテンツの真偽判定技術 ~AIによるウソ発見器~
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000703.000072793.html
・【岡山大学】新炭素材料Qカーボンでエネルギー・環境問題に挑戦
  https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000708.000072793.html
・【岡山大学】岡山の古墳人は「炊いたお米」を食べていた? 歯石内残留デンプン粒の検出から得られた新たな知見
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000772.000072793.html
・【岡山大学】医療ビッグデータを用いたデータサイエンスによって広がるドラッグリポジショニングの可能性
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000807.000072793.html

 

岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)岡山大学津島キャンパス(岡山市北区)

◆本件お問い合わせ先
 岡山大学 学術研究院 ヘルスシステム統合科学学域 助教 曲 正樹
 〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中3-1-1 岡山大学津島キャンパス 工学部6号館 3階
 TEL:086-251-8199
 https://www.okayama-u.ac.jp/user/saibou/index.html

<岡山大学の産学官連携などに関するお問い合わせ先>
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 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000905.000072793.html

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 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000070.000072793.html
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